[要旨]
売上原価に人件費が含まれることがありますが、中小企業であれば、卸売業や小売業などの流通業の場合、その必要性はほどんどありません。ただし、流通業でも、商品の包装などにまとまった金額の人件費が発生した場合、それを売上原価にすることが妥当という場合があります。
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税理士の大久保圭太さんのポッドキャスト番組を聴きました。番組では、「これまで在庫を持たない事業を行ってきたが、最近、在庫を持つ事業も行うようになったので、売上原価に人件費を含めなければならないのか」というリスナーの方の質問に大久保さんが回答しておられました。私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、ほとんどの卸売業や小売業では、売上原価に人件費を含める必要のある会社はほとんどなかったと感じています。
すなわち、卸売業や小売業は、原則的には売上原価に人件費を含める必要はないということです。ちなみに、企業会計審議会から公表されている、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第四」には、棚卸資産の範囲について、次のように書かれていす。(イ)通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役(ロ)販売を目的として現に製造中の財貨又は用役(ハ)販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨(ニ)販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨
ここに書かれている「財貨」とは、分かりやすく言えば、有形の材料、製品、商品のことで、「用益」とは製品を製造したり商品を販売したりするために要した費用と考えてください。すなわち、棚卸資産には、それを製造したり販売したりするために要した費用も含まれるわけですから、その費用の中には人件費も入ります。分かりやすい例では、製造業のラインで働く人たちの賃金がこれに該当します。では、卸売業や小売業では、「用益」に人件費が含まれるのかというと、これは、前述したように、含めるべき会社は少ないと私は考えています。
ただし、例えば、酒類卸売業で、中元や歳暮のシーズンに、贈答用の箱に商品を箱詰めしたり、包装したりするために、まとまった「賃金」を要した場合、それを棚卸資産に計上し、最終的に売上原価とすることが妥当だと思います。ただし、箱詰めや包装の作業が、間接部門の人たちが行うことで、人件費がそれほど増えないという場合は、改めて棚卸資産に計上する必要はないと思います。これは、会社の個々の事情によって判断すべきものでしょう。
なお、このような売上原価の計上についてどうすべきかということは、基本的な原価を把握するための大切な情報となります。確かに、「原価とはなにか」という議論があり、財務会計の限界が指摘されているのですが、正確な原価を把握するためには、まず、財務会計に則った原価の把握から始めるべきだと、私は考えています。、正確な財務会計の記録をしていなければ、より精緻な原価の把握をすることはできないでしょう。この続きは、次回、説明します。
2026/1/23 No.3327
