[要旨]
企業会計原則には、「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」という保守主義の原則があるため、財務諸表には経営者の方が感じる業績より控えめに記録されますが、これは、経営者にとって不利と考えるのではなく、銀行など多くの利害関係者から協力を得やすくするためのルールと考えることが適切です。
[本文]
前回は、融資を受けている銀行に対して、自社の定性面を評価してもらえないと不満を感じている経営者の方は、自社のBSCを作成して提出すると、定性面での評価をしてもらいやすくなるということについて説明しました。この、財務会計については、定性面での評価をしてもらいにくいという性質のほかに、会社の資産について、会計の独特のルールで価額を決めているという特徴があります。会社の貸借対照表を見ると、会社の資産の金額が書かれていますが、この金額は、必ずしも、作成日時点の時価になっているとは限りません。むしろ、貸借対照表の金額と、実際に会社のすべての資産を処分して得られる金額が同じという会社はほとんどないでしょう。
そもそも、1年ごとに、会社の資産を正確に査定することはあまり意味がないということもあり、会計のルールでは、そこを割り切って計算しています。特に、その「割り切り」は、固定資産に適用されます。まず、建物・構築物、機械・設備、車両運搬具は、決算日時点の時価ではなく、減価償却によって決めています。さらに、固定資産の中には、減価償却が終わったにもかかわらず、実際には使い続けられて、帳簿価格は「ゼロ」なのに、利益を生み出すことに貢献しちえる資産もあります。また、土地は、原則的には取得時の価額をそのまま計上し続けます。土地の相場が上昇しても、帳簿上は取得時のままです。
逆に、土地の相場が著しく下落した場合、実勢相場に合わせるルール(減損会計)がありますが、中小企業ではそのような処理が行われることは少ないようです。ちなみに、いま、ニデックの不適切会計が話題となっていますが、同社の経営者と監査法人の間で減損処理について意見の相違があったようです。この減損とは、簡単に言えば、工場などの資産から、将来、得ることができるキャッシュフローの見込みが大幅に減少したとき、それにともなって、固定資産の価額を減らし、その減少した金額を損失として計上しなければなりません。
ただ、その将来のキャッシュフローについては主観が入り込む余地が大きいので、自社の業績をよく見せたいと考える経営者は、それを甘く見積もってしまう傾向があるようです。本旨から少し外れますが、こういった損失の見積もりを甘くする目的は、一般的には業績が赤字になることを防ぐことが多いようですが、ニデックの場合は、赤字を防ぐためではなく、目標を下回らないようにすることが目的だったようであり、この点が同社の不適切会計をわかりにくくしている要因になっていると私は考えています。
話を戻すと、財務会計の資産の価額は、会計処理の「割り切り」があるので、このことが、経営者と銀行の認識の差を産む要因になっていると思われます。しかし、ここで重要な考え方があります。それは、「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」というものです。これは、企業会計原則の一般原則の第6項に書かれており、「保守主義の原則」と言われています。
分かりやすく言い換えれば、会計処理にあたっては、収入は控えめに、支出は多めに記録することで、会社の債権者や出資者の判断が過大に会社を評価しないようにすることで、会社の利害関係者に不測の事態が起きることを防ごうとしているということです。このような考え方に基づいて会計ルールがあるとすれば、事業の当事者である経営者の意図は評価されにくい面があると言えるでしょう。ただし、一方で、会社は社会の公器でもあるわけですから、財務会計では控えめな評価となることもそれなりの理由があると言えます。
そこで、経営者としては、会計のルールに不満を感じることはあるとしても、それには合理的な理由があるということは理解する必要があるでしょう。繰り返しになりますが、財務会計は経営者の考える通りの情報を銀行に伝えない面もありますが、それはBSCなどを活用してその差を縮めることが可能です。また、財務会計が経営者の意図通りでないということを理由に、経営者の方が財務会計を軽視することはあまり得策ではなく、むしろ、資金調達の道を狭めることになると言えるでしょう。
2026/1/21 No.3325
