鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会計の知識なしに正しい判断はできない

[要旨]

会社が債務超過の状態になると、自社の価値は無価値となり、自社を他社に買収してもらうときは、収益が見込める事業の部分しか買い取ってもらうことができず、債務は法的整理をするしかなくなりますが、売り手の経営者の方の会計知識がないと、自社を買収してもらえば、銀行からの融資も引き受けてもらえると、誤った考えをしてしまうこともあるので、注意が必要です。


[本文]

税理士の大久保圭太さんのポッドキャスト番組を聴きました。この番組で、リスナーの方から、次のようなご相談がありました。すなわち、知人からの紹介でM&A案件に取り組んでいるが、売り手の会社は債務超過の状態で、銀行から5億円の融資を受けており、さらに、社長の母親名義の自宅が銀行の担保になっている。一方で、買い手の会社は、必要な事業だけを譲渡を受け、売り手の会社の債務は法的整理をするべきだと考えている。しかし、売り手の会社の社長は、自社株式を買い手の会社に買い取ってもらえば、自社の債務も買い手の会社に引き受けてもらえると考えている。この、売り手の会社の社長に、現状を正しく認識してもらうためにはどうすればよいのかというものです。

これについては、買い手の会社の考え方が常識であり、売り手の会社の経営者は、会計リテラシーがまったくないことが原因で、自社の状況を把握することができていないと考えられます。会計の知識がなくても、収入よりも支出が多いと、会社は赤字になるということは理解できると思います。しかし、債務超過はどういうことかということについては、簿記を習得するなど、会計について学んでいないと、その概念自体を理解できないでしょう。

債務超過とは、説明するまでもありませんが、赤字が累積し、その額が純資産の部の額を超えてる状態であり、そのため、資産の額よりも負債のが額の方が多い状態ということになります。このような状態であれば、その会社は無価値どころか、資産をすべて処分しても債務が残ることになります。そこで、そのような会社を買収しようとするときは、将来の収入が見込める事業部分だけを買収し、債務については法的整理をすることが一般的です。ところが、債務超過について理解できていないと、買い手の会社が自社の株式を買い取ってくれれば、自社の融資も引き受けてもらえると安易に考えてしまうのでしょう。

また、そのことが理解できていないから、債務超過の状態になるまで、何ら、抜本的な改善策を講じてこなかったのでしょう。ここまで長々と会計リテラシーについて述べてきましたが、それというのも、私が、かつて、銀行に勤務していたときも、フリーランスコンサルタントになってからも、前述のような会計リテラシーを持たない経営者の方に少なからずお会いしており、そして、自分の認識と専門家の認識の違いに不満を持つという状況を何度も見てきたからです。

このような状態を防ぐにはどうすればよいのかというと、会計について学んだことがない経営者の方は、最低限でも日本商工会議所の簿記検定3級を取得してもらうしかありません。でも、これは特別の知識を身に付けてもらうということでもなく、経営者の方が正しい経営判断をするためにも必要なことと考えなければならないでしょう。中小企業経営者の方の多くは、自社の事業に関するスキルを背景に起業する方が多く、管理業務である会計に関する知識の習得は後回しにしてしまう方も少なくないようです。

しかし、現在は、経営環境が複雑化してきており、単に、よい製品をつくったり、よい商品を売ったりするだけでは、業績は向上しにくくなっています。だからこそ、会計の知識の重要性は増しつつあります。前述の相談に出てきた売り手の会社の経営者の方も、会計に関する知識を持っていれば、銀行からの融資が5億円になるまで、「自社株式を買い手の会社に買ってもらえば、融資も買い手の会社に引き受けてもらうことができる」と言った、甘い考え方を持ち続けることは避けることができたでしょう。

2026/1/18 No.3322