[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、定期的な人事異動を行うことで、仕事が属人化せず標準化されたり、派閥ができることも防いだりしているそうですが、その結果、従業員の方たちが全体最適の視点で仕事をするようになり、業績が向上に結び付いているということです。
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今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社では、上司が部下に出した指示の進捗状況をシステムで把握できるようにしていますが、これにより、部下が上司に行う報連相を減らすようにすることで、部下が縦のつながりに偏らず、横のつながりも持ってもらえるようにしながら、全体最適の視点で行動し、成長を促すようにしているということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、会社内に派閥ができないように工夫をしているということについて述べておられます。「日本人はチームワークを発揮するのが得意だと言われてきました。あの誇り高い中国人も、『1対1なら日本人には負けないけれど、チームプレーになったら日本人には勝てない』と言っているぐらいです。しかし、チームワークが悪い方向に働くと、派閥が生まれてしまいます。人は3人集まると、2つの派閥ができる可能性があると言われています。会社や学校でも、政治や行政でも、さらに趣味のサークルでも派閥が生まれるものです。
日本人はとくに群れたがる特性があり、主体性を持って行動する習慣をあまり持っていません。自分で考えながら行動するより、長いものに巻かれるほうがラクです。だからあらゆる組織が派閥の温床になるのではないでしょうか。派閥は一見、連帯感があるように見えます。果たしてそうでしょうか?私は、派閥こそ組織を触む『獅子身中の虫』だと思います。派閥ができると、自分たちの利益を囲い込もうという意識が生まれます。
自分たちのチームに有利な情報を独占し、自分たちが優位になるよう権力を持とうとし、ほかの派閥との足の引っ張り合いが始まるでしょう。そこには『組織のために』、『会社のために』という目的はありません。みなが『自分たちさえよければそれでいい』という意識になってしまったら、組織は衰退していくばかりです。小売業では、商品部と販売部は昔から仲が良くないのが常でした。私が在籍していた西友も例外ではなく、役員なだの強い権限を持つ人の周りには、取り巻きがいたものです。
長く業績が低迷していた理由はそればかりではなかったかもしれませんが、もし、一人ひとりが派閥ではなく組織のことを考えていたら、違う結果になっていたように思います。無印良品も、基本的にはチームで仕事をします。しかし、チームワークはあっても派閥はありませんでした。以前は派閥らしきものがあった時期もありましたが、ひんぱんに異動をさせるうちに、特定の『人』や『立場』にしがみつく意味がなくなったようです。業務を標準化させていることも、派閥が生まれない理由でしょう。
誰が、どのタイミングで、どの部署に配属されても、それまでその部署にいた人たちと同じ仕事をする。入社1年目の社員であっても、10年以上のベテランであっても、同じ仕事をできる仕組みを整えると、特定の個人がいなければ仕事が滞る事態がなくなります。これが『人に仕事をつけない』という意味です。その人がいなくても業務は回るので、1人の人に権力が集中することはなくなります。一人勝ちしても意味がないと気づけば、チームへの帰属意識が芽生えるでしょう。また、人に仕事をつけなければ、一つの部署に権力が集中するのも防げます。販売部だけが強くても組織全体を引っ張って行けるわけではありません。
商品開発の力も必要ですし、それを売る店舗を開拓する力も、店舗を切り盛りする力もすベてがないと組織は成り立ちません。無印良品では社員にさまざまな部署を体験させているので、どこの部署も大切であるという意識が自然と根付いていったのだと思います。無印良品でチームワークが機能していたのは、社員一人ひとりが同じ『目的』を持って働いていたからです。その目的とは、無印良品というプランドを継続させること。目的の向かう方向が“社長や会長”であるのは論外です。会社の将来やチームの成功に向いていないといけません」(231ページ)
私はこれまで繰り返して「事業活動は組織的な活動」と述べてきていますが、松井さんもご指摘しておられるように、部分最適は、その組織的活動の妨げとなります。しかし、これも言うまでもなく、経営者や従業員が全体最適の視点で事業活動に臨むことで、組織活動の効果が最大化されるので、業績も向上します。ところが、松井さんが、「自分で考えながら行動するより、長いものに巻かれるほうがラク」とご指摘してられるように、経営者の方が従業員の方に対して、全体最適の視点で活動するように常に働きかけていないと、部分最適の行動が起きてしまいます。
また、経営者の方としても、全体最適の視点で活動するための働きかけは労力が大きいと考えていることも少なくないと思います。例えば、従業員の方の定期的な異動は、特に、従業員数が比較的少ない中小企業では、その負担が大きいと感じるでしょう。中小企業では、従業員数の維持もたいへんなところに、定期的な配置転換を行えば、さらに新しい仕事を習得してもらうという従業員の負担が増え、もっとたいへんになってしまいます。
この、定期的な配置転換や、従業員の方が複数の仕事を習得することは、それらを行わないよりも負担が大きいということは事実です。それでも定期的な配置転換を行うことはメリットが大きいと、私は考えています。その1つ目は、松井さんがご指摘しておられるように、従業員の方たちが全体最適の視点を持つことができるようになり、組織的な活動が最適化することです。逆に、定期的な配置転換を行わないでいれば、部分最適の弊害が発生し、業績に悪影響が出ます。
2つ目は、不祥事の発生を防ぐことができるということです。中小企業の不祥事は、多くの場合、仕事の属人化が原因です。最も分かりやすい例は、横領や、固定化した取引先との癒着です。もし、これらの不祥事が起きたとき、仕事の属人化を防ぐための対応が不十分であったとしたら、その責任の多くは経営者の方にあると指摘されても仕方ないと言えるでしょう。ここまでの内容をまとめると、全体最適を図るにはそれなりの労力が必要になるものの、部分最適の弊害を防ぐには欠かせないことであり、全体最適を目指すことが業績を高めるための最短の方法でもあるということです。
2026/1/15 No.3319
