[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、上司が部下に出した指示の進捗状況をシステムで把握できるようにしていますが、これにより、部下が上司に行う報連相を減らすようにしたそうです。このことにより、部下が縦のつながりに偏らず、横のつながりも持ってもらえるようにすることで、全体最適の視点で行動し、成長を促すようにしているということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、かつて、同社では、商品の在庫データは、担当者がそれぞれ管理していたので、必ずしも最適な管理ができている状態ではなかったことから、在庫管理システムを導入し、会社の在庫データを可視化した結果、適切な経営判断ができるようになり、2000年に約55億円あった在庫が、3年後に約17億円にまで圧縮し、生産性が約3倍に高まったということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、過度な報連相は従業員の成長の妨げになるということについて述べておられます。「ホウ・レン・ソウは、部下が上司に逐一報告することでコミュニケーションをとれるのと同時に、トラプルやミスを小さいうちに発見して、後々大事になる前に解決できるというのが一般論です。しかし、行き過ぎたホウ・レン・ソウは人の成長の芽を摘んでしまう行為だと、私は考えています。常に上司が仕事に絡むので、部下の自主性や自分自身で創意工夫しようとする意識が育たなくなります。
『今朝、指示のあったこの仕事は終わりました、次は何をすればいいですか?』『A社に企画書を送ったのですが、反応が鈍くて、どうしましょう』このように、部下は報告をするたびに、上司の判断を仰ぐことになります。そうなると、自分で考えて動く判断力も実行力も育ちません。上司の指示がないと動けない人間になると、上司が出張や打ち合わせで不在のときに、仕事が滞ります。その結果、仕事のスビードが落ち、生産性は落ちるでしょう。また、ホウ・レン・ソウを過度に行うと『縦のつながり』が中心になってしまい、『横のつながり』がおろそかになります。上司ヘの報告と相談ばかりが重視されると、他部署との連帯を考えなくなるのです。
『部分最適』と『全体最適』という言葉があります。部分最適とは、全体の中の一部や個人だけが最適な状態であることを優先し、全体最適とは、組織やチーム全体が最適な状態になることを重視する考え方です。私はよく、『部分最適の累積は、全体最適にはならない』と社員に話していました。たとえば、総務人事部が組織改編のため、各部門から人員の要望を聞いたとします。海外事業部からは海外出店数の増加に応じて増員の要請があり、品質保証部からは品質レベルの向上のための増員要請が上がってきました。こういう場合、すベての部門の要望を聞いていると際限なく人員はふくらんでいき、人件費が跳ね上がります。
一方、増やす人員は売り上げの伸び率以下に抑えなければいけません。無印良品では、社長がこの問題の決裁をします。なぜなら、“全体最適の視点”を一番持っているからです。どんなに海外への出店が好調でも、ずっとそれが続くとは限りませんし、品質レベルの向上も大事ですが、今いる人員の業務を見直したら、充分人手は足りているかもしれません。そのように組織全体のパランスを見ながら判断するのがトップの役目です。
ピーター・ドラッカーは、『いかに優れた部分最適も全体最適には勝てない』という言葉を残しています。私もこれには賛成です。一部門だけがすぐれていても、他の部署が低迷していたら、その組織に未来はありません。行き過ぎたホウ・レン・ソウは社員の意識を自分の部署にり付けてしまうので、内向き思考になり、“部分最適”の温床となります。全体最適の視点を養うためにも、リーダーは手綱を締めすぎないことが大切です」(165ページ)
引用部分を補足すると、良品計画では、上司の指示に対する進捗状況を把握できるシステムがあるため、上司は、部下から、直接、口頭で報告を受ける必要性が少ないという状況にあります。このように情報技術を活用することは、事業活動の効率化のためにも必須と言えます。そして、本旨の過度な報連相ですが、まず、組織活動の活性化のために、緊密なコミュニケーションは欠かすことはできません。
その一方で、松井さんがご指摘しておられるように、過度な報連相は、部下の自主性を阻害する要因にもになります。そこで、上司の指示の進捗状況はシステムで把握し、報連相は最低限にすることで、部下の自主性を養い、考えや行動が部分最適とならないようにするという考え方は大切だと思います。ここで注意が必要と思われることは、報連相は最低限にしなければならないという一方で、コミュニケーションは限定的にすべきではないということです。従業員の方が全体最適の視点を持つためには、自分の役割以外に関する情報や、他部門の情報も把握している必要があります。
松井さんが懸念していることは、報連相という活動は、部下から上司への一方的なコミュニケーションが行われることで、部下の視野が狭くなることです。逆に、会社全体の情報や、部門全体の情報を、上司から部下に対して行う、逆の報連相を行うことは、部下が全体最適の視点を持つことに貢献するかもしれません。一般的に、報告は部下が上司に対して行うものと考えられがちですが、上司が部下に報告を行うことで、部下が全体最適の視点を持ちやすくなり、部下の成長を促すことになると私は考えています。
2026/1/14 No.3318
