[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、かつて、同社では、商品の在庫データは、担当者がそれぞれ管理していたので、必ずしも最適な管理ができている状態ではなかったことから、在庫管理システムを導入し、会社の在庫データを可視化した結果、適切な経営判断ができるようになり、2000年に約55億円あった在庫が、3年後に約17億円にまで圧縮し、生産性が約3倍に高まったということです。
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今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、かつて、同社では、遅くまで商品の陳列や発注業務に時間をかけていたことがあったそうですが、それが必ずしも業績につながっているわけではなかったことから、松井さんが自動発注システムを導入したところ、不良在庫は大幅に減り、欠品も起きにくくなったほか、発注作業は原則なくなり、在庫管理業務も5分の1に減少したということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、改善活動を成功させるためには、可視化が大切だということについて述べておられます。「私が社長に就任した当初、衣服・雑貨部門の売り上げは低迷していました。それを立て直すために着手したのは、やはり『見える化』でした。売り上げデータをオープンにし、それをきちんと分析した上で、対策を練る。文字にすると当たり前のことのようですが、これができていなかったのです。当時、衣服貨は5つの部門に分かれていたのですが、部門毎の管理帳票はバラバラでした。それぞれの部門の担当者が独自にエクセルシートをつくって管理していたからです。
衣服雜貨の全部門のデータを一括で見る仕組みがありませんでした。たとえば『紳士服』だけでもTシャツ、シャツ、ジャケット、セーター、パンツと何種類もあります。さらにそれぞれのアイテムにはVネック、Uネックとデザインはいくつもあり、色もサイズも数種類あれば、無地かポーダーかなど、1つのアイテムでもこれだけ枝分かれしています。そのうちの何が売れていて、何が売れていないかの詳細を分析し、対策を立てるのは、紳士服の担当者にまかされていました。
どこの工場にどのくらい発注し、仕掛り品(製造途中の商品)はどの程度あり、完成品はいつ、どのタイミングで入荷するのか、処分はいつからどれくらいの割引割引率で行うのか--などの情報は、担当者しかわからない状態でした。この管理方法だと、個人の能力のレベルが、会社のレベルになってしまいます。その人が辞めてしまうと、すベてのデータがわからなくなり、新しい担当者は単品の前年比すら把握できないという事態に陥っていました。
そこを見える化するために、一括で管理できるシステムをつくりました。単品毎の売り上げ動向は3週間目に判断できるようにフラグを立て、すベての人が見られる状態にしたのです。売り上げ動向に応じて、アクセルを踏む(増産)、プレーキを踏む(生産をやめる)ということができるようになりました。商品の動きが鈍い店の在庫は、売れる店に移動できるようになり、ネットで先行販売し、売り上げ動向を把握するという今ではスタンダードになったテスト販売もできるようになりました。
こうした本質的な解決策を導入した結果、2000年に約55億円あった在庫が、3年後に約17億円にまで圧縮されました。約3分の1の減少です。売り上げはほぼ変わらないので、ムダを減らしただけで生産性は3倍になったと考えられます。根本的な原因が見えれば、ピンポイントで手を打てます。問題は原因が見えた途端、8割は解決するものなのです。大学の先生や研究者が論文を書こうと思ったら、まずはその分野の過去の研究論文や事例を調ベます。
その上で、これまでの研究や実験では解き明かされていない事象や事例に対し、自分なりの仮説を立てて、それを実証します。ビジネスの問題の解決方法も、基本は同じでしょう。過去のトラプルや成功例を分析し、自分なりの解決策を考えて、実行する。スタート時点での分析が甘ければ、それ以降の解決策も不十分になります。問題は、意外なところに潜んでいるものです。それを見逃さないためにも、私は組織を丸裸にするような思いで、見える化に取り組んでいました」(154ページ)
在庫管理については、拙著、「図解でわかる在庫管理の基本としくみ」でも述べておりますが、まず、在庫に関するデータを可視化することが基本です。比較的事業規模の小さい会社の場合、経営者の方は、在庫状況は自分の頭の中にあるので、在庫データの可視化の必要性を感じない方も少なくないようです。
しかし、肌感覚の在庫状況と、実際の在庫状況には乖離があることが多いようです。また、本旨から少しずれますが、中小企業の場合、経理規定、または、在庫管理規定が作成されていないことが多く、棚卸資産の評価基準や評価方法が不明確であり、その結果、棚卸資産に関する情報が不正確になっていることも少なくありません。(棚卸資産の評価基準や評価方法については、こちらの記事を参考にしてください)
そこで、在庫データの可視化と合わせて、経理規定、または、在庫管理規定を作成し、棚卸資産の状況を正確に把握できるようにすることもお薦めします。話を本題に戻すと、在庫データを適時に把握するためには、ある程度の労力が必要になります。在庫管理システムの導入は、導入時点の一時的なものであるとしても、日常的に、発注数量、発注価格、実地棚卸などを行う必要があります。これらの労力が必要になるために、中小企業では、それらの労力を売上を増やすための直接的な活動に振り向ける方が得策と判断されることが多いようです。
しかし、在庫に関する正確なデータがなければ、正確な判断ができません。良品計画では、商品の売れ筋を適時に把握できたことから、売れ筋商品を直ちに増産(アクセルを踏む)して販売機会を逃さないようにしたり、死筋商品を直ちに生産停止(ブレーキを踏む)して不要な在庫の発生を防いだりしています。こういった管理活動は、生産性を高めることになり、自社の利益を増やすことになるわけですが、VUCAの時代にあっては、このような正確な経営判断の重要性はますます高まっていると言えるでしょう。
2026/1/13 No.3317
