鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

個々の努力ではなく仕組みづくりが必要

[要旨]

良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、かつて、同社では、遅くまで商品の陳列や発注業務に時間をかけていたことがあったそうですが、それが必ずしも業績につながっているわけではなかった、すなわち、発注業務が“ギャンブル”になっていたことから、松井さんが自動発注システムを導入したところ、不良在庫は大幅に減り、欠品も起きにくくなったほか、発注作業は原則なくなり、在庫管理業務も5分の1に減少したということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。(ご参考→ https://x.gd/ESa15 )前回は、松井さんによれば、同社では、係長クラスであるブロック店長を育成するにあたって、心得などについては説くことはせず、本部の監査室の担当者を店舗に行かせて、ブロック店長が取るベき行動や業務を指導するなど、日々の業務の中で自然と管理職にふさわしい行動が取れるような仕組みを用意することで、誰がブロック店長になっても業務が標準化され、ブロック店長に求められる役割を果たすことができるようにしているということについて説明しました。

これに続いて、松井さんは、経営者は、単に努力することだけを評価するのではなく、成果が出るかどうかを評価しなければならないということについて述べておられます。「無印良品では、2001年に自動発注システムを導入しました。それまで売り場の発注担当者は、仕入れの仕事に大きなやりがいを感じていました。自分が『売れる』と判断して仕入れた商品が飛ぶように売れれば、それは嬉しいでしょう。

そのため、店を閉めた後も、『ああでもない、こうでもない』と商品を並ベ替え、どの商品をどのタイミングで仕入れるかを思案していました。そして終電に飛び乗って帰る毎日でした。それだけ自分の仕事に誇りを持ってもらえるのは、ありがたいことです。しかし、そこまで努力しても担当者の思いどおりには売れず、在庫の山は築かれる一方でした。そのうえ、売りたい商品が店頭で欠品している場合も多くありました。

当時は売れなかった原因を『今月は雨の日が多かったから』とか、欠品した原因を『予想以上に売れたから』といった曖昧な理由で済ませてしまっていました。発注の仕事が、“ギャンプル”になっていたのです。そこで、自動発注システムを構築しました。このシステムは、売り上げ実績・市場の動き・季節などの情報から、単品の売り上げを予測して、一週間分の仕入れを発注するものです。基準在庫を下回ったら発注するというシンプルな仕組みで、勘や経験則は入り込む余地がありません。システムが稼動しはじめた後、すぐに現場から不満が出てきました。

発注担当者のこれまでの仕事ぶりを見てきた人は、仕事がなくなって落胆している担当者の姿を見て、『かわいそうだ』と同情しました。また、導入時はしばらく現場が混乱したので、その都度、『やはりITではなく、人がやらないとダメだ』との批判も出しました。それでも、しばらく経つと発注業務にかける時間は大幅に削減できました。データに基づいて発注が行われるようになった結果、不良在庫は大幅に減り、欠品も起きにくくなりました。発注作業は原則なくなり、在庫修正作業も50%から10%に減少。仕事の労力を一気に5分の1にできたと言えるでしょう。

店にとっても発注担当者にとってもいい影響が出始めると、不満は消えていきました。発注担当者は削減できた時間の分、新しい仕事にもチャレンジできるので、結果的に仕事の幅を広げ、自分自身の成長にもつなげられます。一生懸命、発注作業をしている姿はたしかに心を打つかもしれませんが、それが結果につながっていないとすれば、やはり努力の方法の見直しが必要です。無印良品は、現場のムダな努力をなくすために、あらゆる仕組みをつくってきました。

多くの経営陣や部課長は、部下に『努力をしてもらうこと』を喜ぶものです。連日徹夜をしている姿を見て、『頑張っているな』と評価する場面は、いまだに多くの企業で見られます。しかし、そういう組織はやがて衰退していくでしょう。これだけグローバル化が進むと、仕事の仕方も世界標準に合わせないと、海外に進出した際にやっていけなくなります。海外では『残業は当たり前』という考え方は受け入れてもらえません。社員が定時に上がれて、なおかつ仕事の生産性を上げるためには、個々の努力ではなく、組織全体での仕組みづくりが必要です」(150ページ)

松井さんのご説明の趣旨とは少し異なるのですが、恐らく、無印良品のような個性的な商品を販売する会社では、マーチャンダイジング(最適な品揃えや売場づくりをすること)に大きな価値があると考えられているのだと思います。そこで、終電の時間になるまで、商品の陳列や発注業務に時間をかけることに価値を感じている人が多かったのだと思います。しかし、その努力が必ずしも業績に結びついているとは限らないこともあります。でも、“職人気質”のような人は、自分の価値観に固執してしまう傾向があるようです。

そこで、無印良品でも、松井さんが自動発注システムを導入したときに反発があったのだと思います。しかし、自動発注システムを導入した方が在庫量や作業時間が減少し、よい結果が出たわけです。このような傾向では中小企業でも見ることがあります。社長の思い入れのある商品が、会社にとって利益に最も貢献していると社長が確信しており、その販売に注力していたところ、私のような外部の専門家が財務データを分析した結果、実際は、社長の思い入れのある商品ではなく、別の商品の方が利益に貢献していたということが分かったということを、しばしば、見ることがあります。

事業活動においては、経営者や従業員の方が、自分の“想い”を実現したいということがモチベーションになっていることがありますが、必ずしも、その“想い”が利益に貢献しているとは限らないことがあります。特に経営者の方は、努力が成果に結びついていないときは、一歩引いて、従来の活動を客観的に分析してみたり、外部専門家に検証を依頼してみることが、業績を改善するきっかけを掴むことになると、私は考えています。

2026/1/12 No.3316