[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、無印良品では従業員自身が満足できる商品をそろえるよう心がけることにしたそうですが、それは自分が欲しいと思う商品であれば顧客にも胸を張って薦めることができ、そしてそれを購入した顧客に喜んでもらえると、それが従業員の喜びになるからであり、そのことは従業員のモチベーションを高めることになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社では、かつて、部長が頻繁に交代していたときがありましたが、それは、部の成果の悪化の責任を部長個人に問うだけであり、真の改善ではなかったことから、松井さんが社長に就任してからは、部長は最低でも3か年は交代させてないようにして、真の原因を探求して改善させるようにしたということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、従業員の方のモチベーションを高めるために。まず、従業員の方が満足する商品を開発するようにしたということについて述べておられます。「実行力のあるチームをつくるには、個々のメンバーのモチベーションが高いことが必須条件です。当たり前の話ですが、やる気と積極性のあるメンパーでなければ、ビジネスにおける困難な課題に立ち向かえません。部下のモチベーションを保つためには、給料を上げることが一つの方法ではあります。
しかし、一時的にモチベーションが高まるだけで、持続させることはできません。部下のモチベーションを上げ、チームや部署全体の士気を上げるのに必要なポイントは2つあります。それは、(1)やりがいを与えること、そして、(2)コミュニケーションです。組織の仕組みを整えることは大切ですが、仕組みを変えるだけでは、ハードは新しくてもソフトは古いままのパソコンと同じで、いずれ支障を来して動かなくなります。やはり、社員一人ひとりの心(ソフト)も無視できません。
では、どのようにしてやりがいを感じてもらえばいいのか。私は、社員がその組織、あるいはそのチームに尊敬の念を抱くようになることが理想的だと考えています。かつての西友の衣料品は、『ダサい』というイメージが世間に定着していました。そのため、西友で働いている社員は、自社の衣料品を買おうとは思っていませんでした。自分たちが満足できない商品は、当然お客様も手に取らないでしょう。お客樣が買わなければ売り上げは伸びず、結果的に給料も上がりません。そのため、社員は自分たちの働いている組織に誇りがもてなくなってしまうという悪循環がありました。
そこで、無印良品では社員自身が満足できる商品をそろえるよう心がけることにしました。自分が欲しいと思う商品であれば、お客様にも胸を張って薦められます。そして、お客様に喜んでもらえると、それが自分にとっての喜びとなります。やりがいとは、目に見える数値や金額だけで生まれるものではありません。目に見えない喜びや感動にこそ、価値があるのです。部下のモチベーションが上がらないのなら、自分たちが満足できる商品やサービスを提供しているのか、再確認してみるべきでしょう」(138ページ)
松井さんの述べておられることと少し趣旨が異なりますが、アウトドア用品の製造・販売をしているパタゴニアの創業者のイヴォン・シュイナードさんは、ご著書、「社員をサーフィンに行かせよう-パタゴニア経営のすべて」で、従業員の方には勤務時間中でも好きな時間にサーフィンに行くことができるようにしていると述べておられます。パタゴニアは、品質の高い製品を開発していますが、その裏付けとなる人材を確保するために、独特の福利厚生制度があるようです。
「仕事は楽しくなければならない。パタゴニアでは、社員が豊かで満ち足りた生活を送って欲しいと思っている。働き方は柔軟で、これは、波が2メートル近く、波面がきれいで暑いときには、作業をやめた鍛冶屋時代からの伝統である。周囲に迷惑をかけずに仕事をこなせるかぎり、好きな時間に仕事をすればいいというのが、我々の考え方である。本気のサーファーは、来週火曜日の午後2時にサーフィンをしようなどと、予定したりしない。サーフィンは、潮回りがよくていい風が吹き、いい波が立ったら行くものだし、パウダースキーは粉雪が降ったら行くものだ。
そして、くやしい思いをしたくなければ、いち早く駆けつける必要がある。そんなことから生まれたのが、『社員をサーフィンに行かせる』フレックスタイム制度だ。社員は、みな、この制度を活用して、いい波をつかまえたり、午後からボルダリングに出かけたり、勉強したり、通学バスから降りてくる子どもを出迎えられる時間に帰宅したりしている。このようなやりくりが効くから、自由とスポーツが大好きで、画一的な職場を窮屈と感じてしまう大切な社員に、仕事を続けてもらえるわけだ」(270ページ)
現在は、高い品質の商品が低価格で手に入る時代ですので、どこで製品・商品の差別化をするのかというと、製品・商品の販売方法や、従業員がどれくらい自社製品・商品に自信をもっているのかというところに限られつつあります。すなわち、無印良品の商品は、単なる商品の機能だけでなく、それを購入した人がそれを使ってどういった満足を得ることができるのかという、いわゆる顧客体験価値(CX)が占める割合が高いのであり、それを顧客に伝えるには、従業員自身が自社商品を支持している必要があります。
パタゴニアのサーフボードも、いい波が来たら逃したくないと考えるような熱狂的なサーファーが製品を販売するからこそ、顧客からも同社の商品を評価してもらえるのでしょう。こういった状況は、「従業員」が「商品」になってきているととらえることができるのだと思います。そこで、従業員のモチベーションを高めることは、単に、従業員が積極的に働けるようにする働きかけと考えるよりも、「商品の価値」を高める働きかけと考えることが妥当であると、私は考えています。経営者の方の中には、従業員の方を「商品」と取られることに違和感を感じる方もいると思いますが、そうであっても、従業員の方のモチベーションを高めることは、かつてよりも重要性が高まっているということに間違いはないと思います。
2026/1/4 No.3308
