[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、かつて、部長が頻繁に交代していたときがありましたが、それは、部長個人に責任を問うだけであり、真の改善ではなかったことから、松井さんが社長に就任してからは、部長は最低でも3か年は交代させてないようにして、真の原因を探求して改善させるようにしたということです。
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今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社でマニュアルを導入しようとしたとき、それに抵抗する人たちもいたそうですが、そのような人たちをマニュアル作成の担当者にしたところ、能動的にマニュアルを活用するようになったということですが、このような方法は時間を要するものの、命令などで強制的にマニュアルを活用させてもあまり効果は得ることができないため、結果として最短の方法だと考えているということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、会社組織の縦割りの弊害を取り除くことが大切ということについて述べておられます。「私が無印良品事業部長になったばかりのころ、『あそこの店の売り上げはどうして悪いのだろう』と課長たちに投げかけると、『あれは“人災”ですね、店長の運営の仕方が悪いんですよ』と言われました。それを聞いて、私は『まるで本質が理解されていないのだなあ』と驚きあきれたものです。人に責任を押しつけ、自分には関係ないと思っている。問題の本質に目を向けられず、思考停止している。
これでは、根本的な解決にはとうてい迎り着けません。よほどのことがない限り、個人の能力だけで業績が悪化するようなことはないと考えるベきです。小売業は、ものづくりから販売、出店など、総合力で戦う業種です。店舗の人手が足りていないのかもしれませんし、そもそも店の立地が悪いのかもしれません。問題の本質を探り当てないと、誰が店長になっても同じことの繰り返しになります。かつての無印良品では、そのような事例はあちこちで起きていました。
私が社長に就任する前、衣料品部門の部長が3年間で5人も代わりました。(中略)単純計算でも、1人あたり約7か月で交代していたことになります。衣料品の売り上げが落ちた時に、何が原因なのかを社内で話し合うと、やはり『リーダーである部長が悪い』という結論になり、次々とクビを切っていたのが、盛んに交代した理由です。(中略)部署で問題があった時は、リーダーが全責任を負う。確かにそれは、一見筋が通っているように思えます。
しかし、そこでリーダーを代えたところで、根本的な解決にはなりません。ころころとリーダーを代えると、次にリーダーになった人はクビを切られるのを恐れて、無難な判断をしがちです。そうなると抜本的な改革ができないので、問題を先送りにするだけになります。結果的に、リーダー不在の体制になってしまうのです。私が社長になってからは、主要幹部は3年間固定することにしました。
これでリーダーも腰を据えて各部署の問題点を洗い出し、徹底的に改善できるようになりました。責任の所在をハッキリさせるのは大切ですが、それは個人の責任を間うためではなく、根本的な問題を探るためです。リーダー自身が問題点に気づき、改善しないことには実行力のあるリーダーにはなれません。個人のせいにして間題解決を先送りにする風潮は、大企業病に陥った会社にありがちな『縱割りの構造』から生まれていました。
たとえば当時、『モノをつくる機能』を強化しようとして、商品開発部と生産管理部、在庫管理部の3つの部をつくり、それぞれに部長を置いていました。この3つの部が互いに連携し合うことが狙いでした。ところが思惑は外れ、互いに競い合うようになっていたのです。在庫管理部は在庫を少なくしようと、値下げをして商品を処分します。そうやって在庫のコントロールがうまくいき、社内で表彰されたこともありました。
一方、生産管理部は工場の品質管理や生産性を向上させるのが仕事です。ここは工場を効率的に動かすために難しい商品をつくることへ難色を示すようになりました。商品開発部は、ヒット作を生み出そうと試行錯誤を繰り返している状況です。それぞれの部門がそれぞれの利益しか考えないようになっていました。(中略)こうなると部門ごとに意見がぶつかりあい、責任をなすりつけあい、話がなかなか前に進みません。
そこで、商品開発部のMD(マーチャンダイザー)をへッドにして、在庫管理と生産管理の担当者をその下に置きました。すると一人の部長の指揮のもとに全体を動かせるようになり、物事がスムーズに進められるようになりました。縦割りの構造を変えていくと横の連携が生まれ、それぞれの担当者に問題意識が芽生え、当事者意識を持てるようになります。そうして初めて、正面から問題に向き合える体制が整えられるのです」(135ページ)
松井さんは、商品開発部、生産管理部、在庫管理部の3つの部をつくったものの、当初はそれぞれが競い合うようになったと述べておられます。これは述べるまでもありませんが、事業活動は組織的活動ですので、組織の構成員や会社の各部は、組織全体として最大限の成果が得られるような視点(全体最適の視点)から活動することが、結果として構成員や各部にとっても大きな成果を得ることになります。
しかし、会社内の統率がうまくとれていなかったり、従業員、管理者が未熟な場合は、全体最適の視点ではなく、個人や自分が所属する部署を優先する視点(部分最適の視点)で活動してしまいます。それを避けるために、松井さんは、部署横断的なプロジェクトチームをつくり、部分最適な活動をなくすことに成功しました。私は、事業活動が全体最適を目指すようにするためには、バランススコアカード(BSC)を導入することをお薦めしています。なぜなら、BSCを導入すると、各部門で実践する戦略が、会社全体として整合性の取れたものとなるようにできるからです。
そして、どのような手法であれ、経営者は自社の事業活動が部分最適に陥らないようにすることが重要な役割であり、もし、個々の従業員や各々の部署が部分最適の活動をしているとすれば、それは、経営者が効率的な経営ができるような働きかけを行っていないということでもあります。また、かつて、良品計画は部長が頻繁に交代していましたが、松井さんが社長に就任してからは、それをやめさせました。それは、「その部の成果が低いのは部長の責任であり、部長を変えれば、その部の成果が高くなる」という前提は誤りであると松井さんが考えたからです。
本来なら、部の成果が悪いときは、真の原因を突き止めてそれを改善させることなのですが、部長を交代させることしかしないのは、ある意味、経営者の怠惰だと思います。業績を改善するためには、何か派手な戦略を打ち出すよりも、松井さんが行ったような、全体最適の視点を持たせる、成果の悪化を個人に問うのではなく、真の原因を探求させるといった、地味でも重要な働きかけが大切だと、私は考えています。
2026/1/3 No.3307
