鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マニュアルは使うものではなく作るもの

[要旨]

良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社のマニュアル2,000ページのうち、毎月、20ページほどを更新しているそうですが、こうした頻繁な更新は、より実践的なマニュアルが作られていくだけでなく、改善を提案する従業員の方たちの参画意識を高め、自主性を涵養することになるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、マニュアルの作成には相当の労力を要しますが、一方で経営環境は常に変化していることから、マニュアルも完成した時点で陳腐化が始まるので、良品計画では、労力がかかってでも、毎月、マニュアルの見直しを行っているということについて説明しました。

これに続いて、松井さんは、マニュアルの活用によって、従業員の方の自主性を育成する効果があるということについて述べておられます。「拙著『無印良品は、仕組みが9割』を刊行してから、他の企業から『うちのマニュアル見てください』と依頼されることが増えました。そこで、その企業に足を運んで見てみると、製本したマ二ュアルがずらっと並んでいます。『これは皆さん使ってないんじゃないですか』と聞くと、『よくわかりましたね』という答えが返ってきます。

きちっと製本したマ二ュアルは改訂するたびに一から印刷し直さなければならないので、更新しづらくなります。すると、そこに書いてある作業は時代の流れから取り残されてしまう。そうやって会社の隅で埃をかぶるマニュアルになっていきます。MUJIGRAMはページの追加や削除、変更などを差し替えやすくするために、紙にプリントアウトし、バインダーに綴じています。現場からの改善提案の数は、年間でおよそ2万件です。

そして、MUJIGRAMの更新は月平均で20ページほど。その量は全体(約2,000ページ)の約1%に相当するので、年間で12%更新する計算になります。どれだけ真剣に全社を挙げて取り組んでいるのか、その本気度が数字から伝わるでしょうか。社員もスタッフも、自分が提案したアイデアが仕事の基準に選ばれたら嬉しいですし、また提案しようとサービスのあり方を常に模索するようになります。

こうして、社員スタッフの自主性が自然と育っていくのが、いい仕組みです。そのうえ、自分のアイデアなら必ず実行するので、実行力も養えます。これを繰り返すうちに、マニュアルはより効率のよい仕事の方法の結集となります。マニュアルは使うものではなく、つくるもの。そういう意識が生まれれば、一人ひとりの社員の仕事の取り組み方が変わってくるでしょう」(91ページ)

経営者の方の多くは、従業員の方たちに、自主的、能動的に仕事に取り組んで欲しいと考えていると思います。そして、それを実現する方法についても明らかにされており、広く知られています。その方法の代表例は、私が何度もご紹介している5S活動や小集団活動です。その他にも、職務記述書(ジョブディスクリプション)の活用、キャリアパスの提示や、権限委譲などがあります。

しかしながら、従業員の方の自主性を向上させる働きかけが奏功している会社はあまり多くないようであり、実践することは考えるよりも難しいということも現実なのでしょう。そこで、この働きかけの方法のひとつとして、良品計画のように、マニュアルの作成とその改善を取り入れてみることをお薦めしたいと思います。そして、これは何度も繰り返しお伝えしてきていることなのですが、マニュアル作成を開始してから、その効果を感じることができるようになるまでは、少し時間がかかります。

しかし、これ以外の働きかけも同じように効果が感じられるようになるまでの時間はかかるものであり、これを理由に改善策を実践しなければ、ずっと事業の改善はできないことになってしまいます。したがって、経営者の方は、単に、マニュアルの導入を決定するだけでなく、粘り強くそれを継続するような後押しをすることが求められていると、私は考えています。

2025/12/27 No.3300