鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

価値観をマニュアルで作業に落とし込む

[要旨]

良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社のマニュアルには作業の目的が書かれていますが、それは、どのような会社にしたいかなどといった理念を浸透させるために必要だからだということです。そして、スローガンを掲げるより、マニュアルで理念を作業に落とし込んで全員でやるほうが、自然と心はそろっていくということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社では、マニュアルに書かれている作業には、それぞれ、「何」、「なぜ」、「いつ」、「誰が」の4つの目的を書くフォーマットになっているそうですが、このことにより、一方的な思い込みで必要のない作業を書くことを防ぐことができ、個人の経験や勘に頼りがちな風土にならないようにしているということについて説明しました。

これに続いて、松井さんは、マニュアルには仕事の意味や目的を明確にすることが大切ということについて述べておられます。「目的は、『誰のためにするのか』をプレさせないのも大事です。MUJIGRAMの場合、『なぜ』で『お客様に見やすく、買いやすい場所』と表記してあるように、お客様のためであるのが大前提です。これを『商品を見やすく、売りやすい場所を提供するため』という表現にしたら、まったく意味が違ってしまいます。会社のために売り場があり、会社のために店づくりの作業をすることになります。そうなると、『一番高価な商品を店頭に置こう』。『陳列棚を減らしてコストダウンをしよう』とするベきことが変わっていくでしょう。

とはいえ、『会社のため』を大前提とするのを否定するつもりはありません。それがその企業の方針であるなら、貫けぱいい。無印良品はブランドの成り立ちからお客様主体であるので、時代が変わってもその方針だけは変えてはいけないのです。これは、『どのような会社にしたいか』、『どのようなチームにしたいか』、『どのような仕事をしたいか』という理念を浸透させるうえでも大切な考えです。

会社の理念を紙に書き、額に入れて玄関口に飾ったり、前述したように、朝礼のたびに唱和する会社もあるでしょう。もちろん、それも大事ですし、私も全体会議や合宿などでは必ず説いて聞かせていました。しかし、理念や価値観は、ただ言葉で語って聞かせても、具体性や実践を伴わなければただの言葉です。理念は、それを実行するうちに、納得して体に染みつくようにしなければなりません。

無印良品では商品を陳列するときに柳の籠を使っていますが、柳のささくれで商品を傷つけてしまうトラプルがありました。それに気づいた現場のスタッフが『籠の内側にシートをかぶせたらいいのでは』と改善提案し、それがMUJIGRAMに採用されました。これも、『お客様のために商品を大切に扱わなければならない』という価値観が具体的な形になった一つの例です。こういった価値観を持つようになれば、陳列の仕方を見直す意識が生まれて、どんどん問題点を発見できるようになります。

そして、やがて、チームで理念を共有できるようになるでしょう。『社員全員の心を一つにしよう』とスローガンを掲げるより、同じ作業を全員でやるほうが、自然と心はそろっていきます。コミュニケーションとは『言えば伝わる』のだと思いがちですが、実際は言ってもなかなか伝わりません。文字にして初めて意識できるものです。さらにそれを繰り返し教えることで、本当の意味で『体得した』というレベルになるのだと思います」(82ページ)

ことわざに、「百聞は一見にしかず、百見は一行にしかず」というものがありますが、これは、話を聴くより見る方がよく理解できるし、見るよりも行動する方がよく習得できるということでしょう。そして、会社の経営理念や価値観も、言って聞かせるよりも、文字にして読んでもらう方がよく理解できるし、読んでもらうよりも実践してもらう方がよく習得できるということは、ほとんどの方がご理解されると思います。

そこで、良品計画のように、経営理念や価値観をマニュアルに落とし込むことで、浸透するまでに時間を要する経営理念や価値観を早く習得してもらえるようになると、私も考えています。そして、繰り返しになりますが、こういったマニュアルを充実させる活動は労力と時間がかかります。ただ、目に見えにくいものの、その労力をかけるだけの効果はあると私は考えていますし、良品計画の業績がそれを証明してくれています。

そして、これも繰り返しになりますが、これからの会社経営は、どんな戦術を行うかというよりも、良品計画のマニュアル整備のような仕組みづくりまで掘り下げなければ、競争力は高くならない時代になっています。確かに一朝一夕に効果が出ない活動ではあるものの、これを地道に継続して実行できるかどうに経営者の能力が問われていると私は考えています。

2025/12/24 No.3297