[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、マニュアルに作業を書くときに、それぞれ、「何」、「なぜ」、「いつ」、「誰が」の4つの目的を書くフォーマットになっているそうですが、このことにより、一方的な思い込みで必要のない作業を書くことを防ぐことができ、個人の経験や勘に頼りがちな風土にならないようにしているということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社では、マニュアルは誰が読んでも瞬時に理解できるようにするために、わかりやすく書くことを前提としており、それは、専門用語を多用すると外部の人にはわからなくなり、閉鎖的な組織をつくることになったり、組織が硬直化する原因にもなったりするからであり、どれだけ具体的に説明するかが、マニュアルに“血を通わせる”最大のカギとなるということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、マニュアルには、実施することの理由についても書くことが大切ということについて述べておられます。「単純な作業や簡単な仕事になると、『なぜそれが必要なのか』を把握できず、手を抜いたり雑になったりするというのはよくある話です。たとえば、コピー取りやデータ整理などの仕事をおろそかにしてしまう新入社員もいます。その仕事が全体の仕事のなかでどのような位置づけにあるのかを説明すれば、取り組むときの意識は変わるでしょう。
プレゼン資料を用意する作業も、何も知らずにするのと、企画の内容や規模、重要性を知ってやるのとでは取り組み方が違います。ただのコピーでも、自分のちょっとしたミスが何百万円かの損害につながるかもしれないと意識したら、注意して資料をそろえるかもしれません。目の前の作業が何につながるのかを意識したとき、視野が広がって新たな視点を持てるようになります。さらに、目的を最初に伝えると、仕事の全体像を俯瞰できるようになるでしょう。MUJIGRAMでは各カテゴリーの冒頭に必ず、『なぜその作業が必要なのか』を記しています。
肝心なのは、どのように行動するかではなく、何を実現するかです。どのような売り場をつくるのか、どのようなサービスを提供するのか、どのような商品をつくるのかを常に念頭に置いて仕事を進めないと、何となく言われたことをこなすだけになってしまいます。それだと、自分の判断で『これぐらいやらなくてもいいだろ』、『別のやり方をしてもいいだろう』行動するようになり、結果、マニュアルは使われなくなります。したがって、目的と作業は必ずセットで明記するのが基本です。目的を思いつかないのであれば、その作業はする必要がないと判断できます。
一例として、MUJIGRAMの『売り場の基礎知識』にはこう書いてあります。『売り場』とは、何→商品を売る場所のことです、なぜ→お客様に見やすく、買いやすい場所を提供するため、いつ→随時、誰が→全スタッフ。このように、冒頭で『何』、『なぜ』、『いつ』、『誰が』の4つの目的を説明してから、ノウハウの説明に入っていくというフォーマットになっています。『そこまで基本的なことを説明しなくても』と思うかもしれませんが、その一方的な思い込みこそ、個人の経験や勘に頼りがちな風土をつくってしまうのです」(80ページ)
いわゆるマニュアルは、どういった作業をするのかが中心に書かれているものなので、「なぜ」という観点を書いているものはあまり見ないと思います。その結果、マニュアルがつくられてから数年が経ち、そのマニュアルが職場からいなくなったとき、別の従業員の方が、「どうしてこの作業が必要なのだろう」と疑問を持った時、それが分からないということが起きてしまいます。もちろん、疑問に感じられた作業も、本当は、きちんとした理由があって書かれていることがほとんどだと思われますが、その理由が書かれてないと、疑問が起きることもあるし、理由が分からないままであれば、マニュアルに書いてあるけれども、本当は要らない作業と判断されてしまうかもしれません。
また、逆に、松井さんが「目的を思いつかないのであれば、その作業はする必要がないと判断できる」と述べておられるように、マニュアルを作成する時点で目的を書くフォーマットにしていれば、不要な作業を書くことを防ぐことができます。その一方で、マニュアルに、「何」、「なぜ」、「いつ」、「誰が」の4つの目的を書くフォーマットにすると、マニュアルを作成する労力が増えます。普段は何気なく行っている作業を文字にするとき、単に作業を書けばよいのではなく、4つの目的を考えて書かなければなりません。
しかし、この作業にかかる労力は、それなりの意味があると思います。というのは、自分の作業の意義を確認することになるからです。また、その意義がある場合は、別の人にもその意義を伝えることができるからです。こういった、普段は人の頭の中だけにある「意味のある作業」を文字にすることは、組織全体に共有することができ、組織活動がより研ぎ澄まされたものにすることができると思います。そして、マニュアルを作成することは、このような効果を得ることができるという意味でも大切な活動だと思います。
2025/12/23 No.3296
