[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、マニュアルは誰が読んでも瞬時に理解できるようにするために、わかりやすく書くことを前提としているそうです。なぜなら、専門用語や符丁を多用すると外部の人にはわからなくなり、閉鎖的な組織をつくることになったり、組織が硬直化する原因にもなったりするからであり、どれだけ具体的に説明するかが、マニュアルに“血を通わせる”最大のカギとなるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社では、顧客からのクレームや、現場の従業員の方のアイデアを入力するシステムをつくり、それをマニュアルに反映させているそうですが、こうした双方向のしくみでつくられたマニュアルは、より実践的なものになり、現場の従業員の方も能動的に改善活動に取り組むことができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、マニュアルの内容は、新入社員にも理解できるようにすることが大切ということについて述べておられます。「マニュアルは誰が読んでも瞬時に理解できるようにするために、わかりやすく書くのは大前提です。それには学生のアルパイトでも、入社したばかりの新入社員でもわかるような平易な言葉で書かなければなりません。
MUJIGRAMでは、『インナー』、『POP』といった簡単な用語を解説するページもつくっています。『それぐらいの言葉、みんな知っているのでは?』と思うかもしれませんが、無印良品は学生さんのアルバイトも多いので、我々が普段当たり前だと思って使っている言葉でも意味が通じない場合も多いのです。また、その会社独自の言葉の使い方をしているケースもあります。『ウインドウ』は一般的には窓ですが、無印良品ではウインドウディスプレイを指します。
このように、社内で頻繁に使う言葉の意味も明記しておくと、話の行き違いが少なくなります。こういう小さなポイントも、意思を統一させるためには見逃せません。専門用語や符丁を多用すると外部(他社、あるいは他部署)の人間にはわからなくなり、ともすると閉鎖的なグループをつくってしまいます。それは組織が硬直化する原因の一つにもなります。さらに、どこまで具体的に説明するかが、マニュアルに“血を通わせる”最大のカギとなります。
たとえば、『丁寧にお客様に説明する』という指示の仕方では、『丁寧』のとらえ方が人によって異なってしまいます。ある人は『言葉遣いをきちんとすることだ』ととらえるかもしれませんし、『詳しく説明することだ』と判断する人もいるかもしれません。このように受け取り方や理解の仕方が人によって異なってしまうと、その仕事の方法は『標準』にはならないでしょう。したがって、マニュアルは徹底して具体化しなければなりません。
MUJIGRAMでは、『商品は両手で丁寧に扱う』、『1つの棚の品出しを終わり次第、床面にゴミが落ちていないかを確認し、次の棚に移る』など、一つひとつの動作を具体的に示しています。商品を片手で持ったらダメ。品出しをするだけではなく、それに伴って発生するゴミも周囲に落としたままにはしない。これが、無印が求める『丁寧』です。誰もが迷いなく行動に移せるようになって初めて、MUJIGRAMに書かれたことが社員やスタッフの血肉となります」(74ページ)
私は、「社内用語」は極力少なくすることが望ましいと思っています。例えば、松井さんは、「ウィンドウ」について、良品計画では「ウィンドウディスプレイ」を指すと述べておられます。ここで問題になると私が感じることは、もし、「ウィンドウ」という言葉が良品計画の中だけで使われている言葉であれば、それほど大きな問題になるとは感じません。しかし、「ウィンドウ」という言葉は広く一般に使われているために、良品計画の従業員の方が、「ウィンドウディスプレイ」の意味で「ウィンドウ」を使ったとき、その話し相手が良品計画の従業員でない人だったときは、「窓」の意味で伝わってしまいます。
文字や会話は、本当は意思疎通のためにあるのに、社内用語を深く考えずに定義してしまうと、意思疎通が難しくなってしまうので、松井さんが「マニュアルは誰が読んでも瞬時に理解できるようにするために、わかりやすく書く」と述べておられるようにしなければ、せっかくマニュアルをつくっても、あまり役に立たなくなってしまうものになりかねません。それから、マニュアルに限らないことですが、おかしな専門用語は使うべきではないと、私は考えています。
私がかつて所属していた銀行では、デューデリジェンス、リスケジュール、エビデンス、スキームなど、カタカナを使いたがる人がたくさんいます。デューデリジェンス(ここではファイナンスデューデリジェンスの意味)は適正評価手続き、または、財務リスク調査、リスケジュールは返済猶予、または、返済条件緩和、エビデンスは疎明(そめい)資料、または、証拠資料、スキームは資金調達方法、または、資金調達計画と言い換えることができる、というより、わざわざカタカナで言う必要はありません。
特に、デューデリジェンスは、元々の意味は当然に要求される義務や努力のことであるので、この言葉をききなれない人が、リスク調査を意味すると理解することは難しいでしょう。繰り返しになりますが、コミュニケーションの本来の目的は意思疎通であるわけですから、意思疎通をしにくいマニュアルをつくることは、せっかくの労力がむだになるということを念頭に作成することが、円滑な事業活動に資することになります。
2025/12/22 No.3295
