[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、顧客からのクレームや、現場の従業員の方のアイデアを入力するシステムをつくり、それをマニュアルに反映させているそうですが、ある年は2万件くらいの提案が現場から上がり、そのうちの443件が採用されたそうです。そして、こうした双方向のしくみでつくられたマニュアルは、より実践的なものになり、現場の従業員の方も能動的に改善活動に取り組むことができるようになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社ではマニュアルを整備する効果として、(1)知恵を共有できる、(2)業務の標準化によってさらにレベルアップができる、(3)社員の意識をそろえることができる、(4)仕事の基礎力を身につけられる、(5)仕事の意義を感じることができるようになる、があるということです。
これに続いて、松井さんは、顧客の要望をマニュアルに反省させることが大切ということについて述べておられます。「MUJIGRAMをつくるにあたっては、『顧客視点』と『改善提案』の2つを大きな柱にしました。顧客視点というのは、お客様からのリクエスト、クレームを指します。具体的には、顧客視点シートというソフトに、売り場でお客様からいただいたご意見や、お客様の様子などから必要と思われることを、店舗のスタッフが入力するようにしました。
このソフトには、スタッフ自身が気付いた点や要望を別途入力できる欄を設けてあります。これが改善提案です。トラプルや不便な点を報告するのも大事ですが、改善点をスタッフが自ら提案するのは、さらに重要です。なかには、画像を添付して、『ここをこう変えたらどうか』とアイデアを提案するスタッフもいます。これこそ、現場で生まれた知恵です。
自分が見つけて自分が考えた改善案なら、自分で問題を解決しようという能動的な姿勢が生まれます。こうした現場発の意見を、まずエリアマネージャーが選別します。重複しているものはないかなどを精査してから、本部に意見を上げてもらいます。本部にはマ二ュアルを精査する部門があり、ここで各店舗から集められたアイデアを採用するか、検討するか、不採用とするかを判断するという流れです。採用された案はMUJIGRAMに反映されて、本部の各部門や店舗にフィードバックされます。
こうして、MUJIGRAMが更新されるのです。本部と店舗で直接やり取りするのではなく、エリアマネージャーを経由させるのは、全社で問題意識を共有するためです。本部だけでつくったら現場では役に立たないマニュアルになり、現場だけでつくったら費用対効果が悪いマニュアルになる可能性があります。本部も現場も、そして中間の立場であるエリアマネージャーもすベてが関わることで、バランスのとれたマニュアルを実現できます。
ある年の例を挙げると、年間2万件くらいの提案が現場から上がり、そのうちの443件が採用されて、MUJIGRAM化されていました。そして改善点が各々の現場で実行されて、標準的な業務になっていきます。こうして初めて、マニュアルはその目的が達成されるのです。リーダーは、現場のアイデアを検証してまとめるのが役割です。もし、リーダーのやり方に従ってもらうためだけにマニュアルをつくろうとすれば、必ず現場とのズレが生じるでしょう。マニュアルづくりは一方通行ではなく、双方向の道筋を整えるのが、成功の秘訣(ひけつ)です」(72ページ)
私は、以前から、小集団活動の実施をお薦めしていますが、良品計画で実施している、顧客のクレームと、現場の従業員の気づきをマニュアルづくりに反映させる活動というのは、まさに、小集団活動と同じだと思います。この小集団活動の効果は、(1)顧客と接している部門で起きている課題の改善方法や、そこで得ることができたノウハウがマニュアルに反映され、会社全体に共有されること、(2)顧客と接する部門の従業員の方が改善活動に関与することで、経営者としても目線を持つことができること、(3)自らの活動がマニュアルに反映され、事業活動が改善していくことで、能動的に仕事に取り組むことができるようになること、などの利点があります。
しかし、こういった活動は、経営者の方とすると、時間と労力がかかることから、実践している会社はあまり多くないようです。ありていに言えば、「とにかく、現場で起きた問題は現場で解決して欲しい」と考える経営者が多いのだと、私は感じています。しかし、現場の課題を現場で解決できるのであれば、経営者は不要であり、そのように考える経営者の方は、自らの役割を否定するようなものです。
したがって、良品計画のように、システムに顧客からのクレームや現場の職員の改善提案を入力させ、マニュアルに反映させる仕組みを取り入れることは、経営者として欠かせない役割だと思います。もし、いきなりそういった仕組みを実践することが難しいという場合は、最初は小集団活動を始め、それが奏功してから、それを良品計画のような仕組みに発展させていくという方法を行うことをお薦めします。
2025/12/21 No.3294
