[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社ではマニュアルを整備する効果として、(1)知恵を共有できる、(2)業務の標準化によってさらにレベルアップができる、(3)社員の意識をそろえることができる、(4)仕事の基礎力を身につけられる、(5)仕事の意義を感じることができるようになる、があるというkとです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社では、マニュアルによってノウハウが蓄積されたり仕事が標準化されたりするというメリットがあることから、マニュアルを活用して仕組みづくりをしているということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、マニュアルを活用することによる5つの効果について述べておられます。「実際にMUJIGRAMを作成し、運用するうちに、マニュアルには以下のような想像以上の効果があると感じました。(1)『知恵』を共有できる:人は、一人でできる仕事は限られていますし、経験も知識も限界があります。自分で経験することなく、多くの人の知恵や知識を身につけられたら、成長をショートカットする効果があります。それを実現できるのがマニュアルです。MUJIGRAMは本部だけでつくるのではなく、現場(店)で働いているスタッフの知恵をすくい上げて一つにまとめています。これにより、すぐれた知恵や経験を全員で共有できるようになり、個人の経験や知識を組織に蓄積できます。
(2)『標準なくして、改善なし』:能の世界には『型破り』という言葉があります。伝統的な能のを、実力のある演者がアレンジして新たな創造につなげています。そういった創意工夫は、基本のがあってこそできるもの。無印良品のマニュアルも、“型破り”を繰り返しながら進化する、“血の通ったマニュアル”です。仕事を標準化させるということは、その業務の最善・最適な方法を一つだけ決めるということになります。
たとえばフォルダの管理の仕方は、人によっても部署によっても異なり、必要な時に欲しいデータがなかなか出てこないのはよくある話です。これを部署で『この関連の資料はこのフォルダに入れる』と決めれば、担当者が休んでいても誰でも対応できるようになります。
そのように一つのフオーマットをつくりあげると、さらに使いやすくするアイデアが集まってきます。そうやって実行と改善を繰り返すうちに、業務はより洗練され、進化していきます。標準をつくらないうちに改善しようとしても、迷走するだけです。何事も基本なくては応用がないのと同じで、無秩序な創意工夫は力になりません。仕事も基本となる標準を固めないと、社員が応用して自分の頭で考えて働けるようにならないのです。
(3)社員、スタッフの意識をそろえられる:それぞれの業務を何のためにするのかという『目的』を確認することは大事です。これをマニュアルに明記すると、それぞれの判断で勝手に動くことがなくなり、組織の一貫性がつくられます。加えて、マニュアルは組織の理念を繰り返し伝えるためのツールでもあります。会議や全体集会などで、企業の理念やミッションを意識して伝えることも大事ですが、それだけでは浸透するのに時間がかかります。
だからクレド(企業の信条をまとめたもの)などを作成して、毎日みんなで読んで意識に刷り込ませようとしている企業が多いのでしょう。マニュアルは日常的に、そこに書かれてある業務を通して組織の理念やミッションを浸透させる効果があります。理念を伝え続けると、チーム全員の志を一つにできる。すなわち全社員、全スタッフの意識をそろえられます。
(4)仕事の基礎力を身につけられる:マニュアルをつくる段階で、普段何気なくしている作業を見直すことになります。たとえば、時間が足りないからと毎日のように残業をしているのなら、本当に時間が足りないのか。自分では必要だと思っている作業に、ムダがあるのではないか。そうやって仕事を見直すうちに、時間がないのではなく、自分の仕事の仕方に問題があるのだと気づきます。
多くの人はそれを考えずに、『残業しないで済む会社に転職しよう』と他に解決策を求めるかもしれませんが、それは根本的な解決策にはなりません。どんな会社でどんな仕事をしても、効率的に仕事をしなければ結果は同じでしょう。逆に、マニュアルで仕事の効率化が身についたら、どこの会社に行っても通用します。社会人としての基力を身につけるのにうってつけのツールです。
(5)仕事の本質を考えるようになる:いいマニュアルは、『どのように働くベきか』、『何のために働くベきなのか』という仕事の本質を考えるきっかけを与えることができます。そもそもマニュアルは、お客様に満足してもらうのがゴールであり、単に社内を統率するためにつくるわけではありません。
お客様に満足してもらうために、どう動くか。それを細部にわたって考えて実行するうちに、人の役に立てる喜びを実感できるようになるのだと思います。自分や家族のために働く、それも一つの考え方です。しかし、どんな仕事でも人の役に立てるのであり、社会貢献につながるのだと思えたら、仕事の取り組み方も変わってきます」(66ページ)
私は、この5つの効果を読んで、知識経営(ナレッジマネジメント)と、ISO9001の考え方に共通するところが多いと感じました。まず、知識経営との共通点ですが、従業員の方の頭の中に暗黙知として蓄積されている知識やノウハウを形式知として明文化するということです。このマニュアルへの形式知の蓄積は、従業員の方がひとりで知識やノウハウを蓄積するよりも効率的、かつ、より正確に実現できるという点で、大きな効果があります。
次に、ISO9001との共通点ですが、ISO9001は、ルールを明文化するという基本的な要件があります。その目的は、業務の属人化を防ぐ、品質の均一化を図る、人材育成を効率的に行えるようにするなどです。良品計画のマニュアルも、結果として、同じ効果を得ているようです。そして、結果として、同社ではISO9001を導入することの効果を得ており、そのことは、「経営品質」を高めることになっていると思います。
今回は、良品計画のマニュアルの効果について見てみましたが、現時点でマニュアルなどがない会社が、同社ほど労力をかけなくても、ルールなどを明文化していくことによって、松井さんがあげた効果を得ることは確実にできると思います。そして、マニュアル整備を実践してみて、その効果を感じることができれば、良品計画のようにマニュアル作成に注力したり、ISO9001を導入したりしていくと、確実に競争力が高まり、業績も向上すると、私は考えています。
2025/12/20 No.3293
