鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現場の意見を汲み上げ仕組みにしていく

[要旨]

良品計画の元社長の松井忠三さんは、社長に就任した当時、同社の業績は低迷していたため、全国の店をまわり、現場の意見をきいて事業改善に反映させたそうですが、このように、今の時代のリーダーに必要なのはカリスマ性ではなく、現場でも自由にものをえる言えるような風土をつくり、その意見を仕組みづくりに反映していく能力だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんが、かつて西友で人事を担当していたとき、同社の業績を改善するために、幹部役職員に意識改革研修を受講してもらったことがあったそうですが、研修の効果はまったくなく、業績悪化の根本的な原因は、ビジネスモデルが世の中のニーズと合わなくなっているからであり、役職員の意識を変えるだけではあまり意味がないということがわかったということについて説明しました。

これに続いて、松井さんは、事業を改善するには、現場の意見を吸い上げることが大切だということについて述べておられます。「大企業病に陥ると、現場とリーダーの意識が乖離していきます。それを埋めるには、まずリーダーが現場に出向いてスタッフの声を聞くしかありません。私は社長に就任してすぐに、全国の店舗を行脚して回りました。当時常務の金井政明をつれ、直営店107店を一軒ずつ回っていきました。ただ視察するだけでは、表面的なことしかわかりません。夜は店長らスタッフと共に飲みに行き、そこで腹を割って話す場を設けました。

最初は警戒して他人行儀な話しかしなかった店長らも、こちらが話を聞く態勢でいるとわかると、徐々に本音を話しだします。そうして、本社にいるだけでは決してわからない現場の問題点が色々と見えてきました。後述する過剰在庫の問題も、店を訪れて気づいた点です。救いだったのは、本社は意気消沈していたけれども、店は元気だったこと。無印良品は店長もスタッフも、もともと無印ファンだった人が多いので、店を愛する思いが強かったのでしょう。スタッフは元気に声を出して接客していましたし、店ごとにあれこれ工夫して売ろうとしていました。

そして現場のスタッフたちの『自分たちが頑張らないと!』という思いから、さまざまな知恵が生まれました。過剩在庫の問題に気づいてから、前年のデータをもとに、売り場の在庫管理と自動発注を連動せる仕組みをつくりました。今はどこの会社でもITで管理していますが、当時はまだ電話やFAXでのやり取りが主流で、パソコンで管理できるようにするだけでも画期的な取り組みでした。ただし、コンピュータだけに頼っていると、キャンペーンや特売をしたときや、気温の変化が激しかったときなどに対応しきれず、売り場に穴が空くという事態も起こります。

すると売り場から、売れ筋の商品を多めに仕入れたほうがいいのではないかという意見が寄せられました。この意見を精査したうえで、『売れ筋ベスト10の商品を常に店で把握し、その商品は目立つ場所に陳列する』という仕組みにしました。これを『売れ筋捜査』と呼んでいますが、この仕組みのおかげで、在庫管理がさらに円滑にできています。また、『一品入魂』という制度も、現場から生まれたアイデアです。これは『店のスタッフ一人ひとりが売りたい商品を一つ決めて、お試し価格として二割ほど安くして売る』という手法です。なぜその商品がお薦めなのか、スタッフが自分でコメントを書いてアピールするので、自然と力が入ります。

このような自発性があったため、厳しい業績の間でも、現場サイドは非常に前向きでした。だから無印良品は立ち直りが早かったのだと思います。業績が低迷している現場で、いくらリーダーが売り上げアップを説いたところで社員は動かないでしょう。まずは現場との溝を埋めて、不満に耳を傾け、一緒に解決策を考える--今の時代のリーダーに必要なのはカリスマ性ではなく、現場でも自由にものをえる言えるような風土をつくり、その意見を仕組みにしていくことです。そうして現場の自発性が育てば、自ずと実行力のある組織になっていきます」(39ページ)

松井さんは、「今の時代のリーダーに必要なのはカリスマ性ではなく、現場でも自由にものをえる言えるような風土をつくり、その意見を仕組みにしていくこと」と述べておられますが、経営環境の変化が激しい時代は、トップダウンではなく、環境の変化に直接接している現場の意見を汲み上げて、それを改善に反映させることが望ましいということは、ほとんどの経営者の方がご理解されると思います。しかし、それは頭で考えるほど簡単なことではないようです。

松井さんも、社長に就任したとき、すべての店舗をまわったと述べておられますが、お店の従業員の方に本音を言ってもらうことは難しかったのではないかと思います。しかし、そのことは、松井さんにだけ問題があるとは言えない面があり、どんな会社でも従業員が社長に向かって本音は言いにくいという面はあると思います。それでも、なるべく本音を伝えてもらえるように接しなければならないところに、社長としての役割の難しさがあるのだと思います。

さらに、現場から汲み上げた意見を、どのように改善に反映させるかですが、その方法のひとつとして、私は小集団活動(QCサークル)をお薦めしています。小集団活動とは、例えば、ひとつの部門の従業員に集まってもらい、その部門のKPIを達成するために、どのような活動をするのかということを、従業員の方たちだけで話し合って決めてもらい、自ら決めた方法を実践してもらうという活動です。

このとき、部長や経営者などは、オブザーバー、または、アドバイザーなどに徹し、指示や命令は行わないようにします。そして、自ら決めたことを自ら実践することで、改善活動を自分事として実践することになります。経営者や幹部の方からみれば、なぜ、このような遠回りのようなことをしなければならないのかと考えるかもしれませんが、事業現場にいる方たちは、作業が主な役割であり、問題点を発見し、改善策を考えるという活動には慣れていないので、それを体験してもらう仕組みが必要なのです。

そして、自ら考えた手法で改善の効果が表れると、そのことがさらに難易度の高い課題に取り組もうとするモチベーションにもなります。もちろん、このような活動をずっと継続する必要はありません。現場の従業員の方の習熟度が高まれば、よりレベルの高い改善方法を取り入れることが望ましいと思います。ただ、いきなり、現場の従業員の方に、改善を行えと指示をしても、最初は具体的な活動をとりにくいと思いますので、その方法のひとつとして小集団活動についてご紹介いたしました。

2025/12/15 No.3288