[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんが、かつて西友で人事を担当していたとき、同社の業績を改善するために、幹部役職員に意識改革研修を受講してもらったことがあったそうですが、研修の効果はまったくなく、業績悪化の根本的な原因は、ビジネスモデルが世の中のニーズと合わなくなっているからであり、役職員の意識だけを変えようという方法はあまり意味がないということがわかったそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんが同社社長に就任した2001年に、同社の業績は38億円の赤字に転じましたが、松井さんはその根本的な原因は、一人ひとりが経験や勘に頼り、社員が上司や先輩の背中だけを見て育つ“経験至上主義”がはびこっていたことであると考え、担当者がいなくなったら、また一からスキルを構築し直さなくてもすむよう、仕事のスキルやノウハウを蓄積する仕組みをつくることで業績を黒字転換させたということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、従業員の意識改革は一朝一夕で行うことはできないということについて述べておられます。「現在、日本の家電メーカーはどこも危機的な状況だといわれていますが、社員は『さすがに倒産はしないだろう』といまだに思っているという話も耳にしました。無印良品も、赤字に転落してもなお、おごりは拭いきれずにいました。問題点を洗い出し、解決案を募っても、過去の成功体験の延長上の考えしか出せませんでした。
社員、あるいは部下の意識をどう変えればいいのか。これは多くのリーダーが直面する問題でしょう。たいていは教育から変えようとして、外部から講師やコンサルタントを招き、社員に研修を受けさせて、意識改革をしようとします。しかし、それでうまくいったためしはありません。私が西友で人事を担当していたときの話です。業績が悪化していくにつれ、社内でも段々と危機感が生まれました。まずは幹部の意識改革をしようという話になり、取締役から部長まで300人ぐらいの幹部が2泊3日の研修に参加することになりました。
これは、参加者をグループ分けし、同じグループになった人から、一人ひとり長所や短所を指摘されるという “360度評価”をする研修でした。幹部になるくらいの人たちは、それなりにプライドや実績を持っているので、他人から思ってもみなかった短所を指摘されるのは不愉快なものです。研修の夜の懇親会の席で、私は幹部に呼び出され、『お前、なんだってこんな研修をやろうと思ったんだ!』と叱責を受けたりもしました。そこまで苦労しながら行った意識改革の研修--その成果は、どれほどだったと思いますか?成果はまったくありませんでした。結局、このショック療法も効かず、意識改革も進まず、西友は持ちせませんでした。
その後、西友はウォルマートに買収されています。このことからわかるのは、いきなりの意識改革は難しいということ。そもそも、ビジネスモデルが世の中のニーズと合わなくなっているから業績が悪化しているのであり、社員の意識だけを変えようとしても根本的な解決にはなりません。根本的な解決をできるのが仕組み化です。仕組みをつくると、業務が自動的に可視化されます。可視化されると、業務の標準化が可能になる。経験や勘に頼っていた部分が仕組みで標準化され、その効果が出はじめると、社員は『これでやっていこう』と自動的に意識が変わります。
今まで優秀な店長だけが認められていた店づくりにしても、今日店に入ったばかりの新人アルバイトでも優秀な店長と同じレベルの店づくりができる。そのような『すぐれた仕組み』があれば、誰でもやってみたいと思いますし、成功体験を積めるので、仕事が楽しくなるはずです。そして、現場の社員が働く喜びや楽しさを実感できるようになれば、社風は変わっていきます。社員の意識はトップが『あれやれ、これやれ』と檄を飛ばしたところで、変わるものではありません。具体的な行動に落とし込まないと人の意識は変えられないのだと、私は仕組み化を通して実感しました」(36ページ)
引用文の松井さんの述べておられることだけを読むと、松井さんは意識改革研修に否定的であるように感じられますが、私は、人材研修は大切であり、効果はあると考えています。しかし、人材育成だけを行えば問題が解決すると考えることは誤りだと思います。確かに、人材育成をして、従業員の能力が高まれば、その分だけ業績も向上すると思いますが、それは、結局、個人の能力に頼るだけの改善にとどまります。これを逆に言えば、能力の高い従業員のいる部署しか業績は高くならないし、能力の高い従業員が退職すれば、後任者を時間をかけて再度育成する必要があります。
さらに、松井さんが「いきなりの意識改革は難しい」と述べておられるように、従業員に意識改革を働きかける効果はあるものの、その効果が業績に反映されるようになるまでには時間がかかるということも忘れてはなりません。そこで、「仕組み」をつくることで、ノウハウやスキルを会社内に「仕組み」として蓄積することの方が、より根本的な業績改善策になります。今回の松井さんのご指摘のポイントは、経営者の方が業績を改善しようとするときは、従業員の能力の改善だけを行おうとしてはいけないということだと思います。最も注力すべきことは、松井さんのご指摘する「仕組みづくり」であるということです。
ただ、この仕組みづくりは、これまではあまり実践されてこなかったので、仕組みづくりをしなければならないと考える経営者の方は少ないのではないかと思います。したがって、仕組みづくりについても、その方法などを理解していない経営者の方も多いのだと思います。しかし、松井さんが社長に就任した後に良品計画の業績が改善したことは、仕組みづくりが業績の改善の鍵となっている証左であり、自社の業績を改善したいと考えている経営者の方には、仕組みづくりを取り入れていただきたいと、私は考えています。
2025/12/14 No.3287
