[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんが、同社社長に就任した2001年に、同社の業績は38億円の赤字に転じましたが、松井さんは、その根本的な原因は、一人ひとりが経験や勘に頼り、社員が上司や先輩の背中だけを見て育つ“経験至上主義”がはびこっていたことであると考え、担当者がいなくなったら、また一からスキルを構築し直さなくてもすむよう、仕事のスキルやノウハウを蓄積する仕組みをつくることで業績を黒字転換させました。
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良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を拝読しました。同書で、松井さんは、強い会社をつくるには、仕組みづくりが大切であるということについて述べておられます。「『赤字38億円!』2001年の8月中間期、無印良品に衝撃が走りました。西友のプライベートプランドとして、無印良品が生まれてから20年。西友から、株式会社良品計画として独立して20年ほど経った頃のことです。
それまでは、無印良品は右肩上がりの成長を続けていました。当時はバブル崩壊後の失われた10年と言われ、長引く不景気から世の中には閉塞感が漂い、百貨店や大手量販店は軒並み低迷。そのなかにあつても無印良品は、赤字を一度も出したことがなく、1999年には売上高1,066億円、経常利益(営業利益と営業活動以外の損益を合計した利益)133億円を達成していました。その成長ぶりは『無印神話』とまで言われていました。それが、たった2年で38億円もの赤字です。
実は、前年から既に減益に転じていました。その影響を受けて、株価も1年で1万7,350円から2,750円に落ち、時価総額は4,900億円から770億円と、会社の価値が4,100億円も減少したのです。転がり落ちる勢いを止められず、翌年に大赤字へ滑り落ちていきました。世間の評価も一転して、『無印良品の時代は終わった』と囁かれるようになりました。社内でも『この会社はもうダメなのではないか』という諦めムードが蔓延していたころ、私は社長に就きました。
通常、赤字を出した企業がまず手掛けるのは、リストラや早期退職による人件費削減、不採算部門からの撤退、資産売却などでしょう。もしくは、商品を値上げするか、新たな資金調達先を探すか。確かに、一時的な赤字なら、それらの方法で乗り切れるかもしれません。しかし、私はそれでは根本的な解決にならないと思っていました。ここで舵取りを誤ったら、無印良品は倒産という最悪のシナリオに向かって突き進む恐れがあります。
小手先の対処法を選ぶと、短期的には黒字に回復したとしても、また赤字を繰り返すことになるかもしれないと、私は考えていました。なぜなら、無印良品を蝕む問題の本質を肌で感じはじめていたからです。その問題の本質は、我々が育ってきたセゾングループの企業風土であり、一言でいうなら、『経験主義』です。一人ひとりが経験や勘に頼り、社員が上司や先輩の背中だけを見て育つ“経験至上主義”がはびこっていました。当時は仕事のスキルやノウハウを蓄積する仕組みがなかったので、担当者がいなくなったら、また一からスキルを構築し直さなければなりませんでした。
さらに、組織の脆弱さにも気づきました。何か問題が起きた時に個人のせいにして終わり、という組織の弱さです。個人の能力や考え方が悪いと決めつけて、構造的な原因を解決しようとしません。私は当時の無印良品は『幼い組織』だったのだと考えています。幼い組織はすベてを個人のせいにします。経験至上主義を廃し、根本的な問題を解決しないと取り返しのつかないことになると、私は強い危機感を抱いていました。抜本的な改革をするためには、今まで無印良品ではやっていなかった対策を取るしかありません。
そこで考えた解決策が、『仕組み』です。社内のあらゆる問題の9割は、仕組みで解決できるのではないかと思い至りました。仕組みと聞いたら、システマティックに物事を進めるための合理的な方法と思うかもしれません。しかし、効果はそのような単純なものだけではなく、会社の風土やポリシー、社員がつくっている社風といった、その会社の体質を根本から変えるための特効薬にもなります。
私は仕組みこそ、無印良品が谷底から這い上がるための方法なのだと、確信していました。もちろん、不採算店の閉鎖・縮小や海外事業のリストラなどの大手術も必要でしたが、同時に社内の業務の見直しにも着手しました。その中心が、各店舗用のマニュアル『MUJIGURAMU』と本部の業務用マニュアル『業務基準書』を整備し、徹底的に業務を見える化したことでした。結果、2002年度には増益に転じ、2005年度には売上高1,401億円、経常利益156億円と過去最高益になりました。
社長として最後となる2007年度には3年連続して過去最高となる売上高1,620億円、経常利益186億円を達成しました(売上高は4年連続過去最高)。仕組みをつくれば、どんな時代でも勝てる組織の風土をつくりあげられる。それは無印良品だけではなく、どの企業にも通用する法則です。社員一人ひとりのモチベーションを上げ、能力を最大限に引き出し、組織を強くするのは、劇的な改革ではありません。必要なのは、仕組みによって社員の意識を変え、風通しの良い環境をつくることだと断言できます」(18ページ)
当然のことですが、事業活動は組織的な活動なので、かつての良品計画のように、「何か問題が起きた時に個人のせいにして終わり」にする組織は、組織的な活動をしていないと言えます。これのような状態を指して、を松井さんは「幼い組織」と表現しているのだと思います。確かに、会社の従業員の能力が高い方が望ましいことには間違いありません。
しかし、従業員の能力が高ければ会社の業績が向上するということであれば、組織活動をする意味はありません。やはり、業績が悪い時は、まず、組織に問題があると考えなければなりません。そして、その組織の改善策が仕組みづくりということなのでしょう。ただ、「仕組みづくり」という言葉が、少し抽象的なので、私の考えを述べさせていただくと、会社や従業員に蓄えられている可視化されていない暗黙知やノウハウを形式知にして可視化し、それを会社のすべての従業員が共有し、会社の組織風土や文化として定着させることだと考えています。
これだけでは不足するかもしれませんが、少なくとも、業績を高める要因が従業員の間で共有されていなかったり、後から加わった従業員に伝えられなかったりするよりも、組織内で共有され、自然に受け入れられ、従業員が入れ替わってもそれが伝わる会社は、業績が高まることは確実だと思います。そして、経営環境が成熟している時代こそ、このような仕組みづくりの重要性は高く、仕組みづくりに経営者は注力しなければならないと、私は考えています。そして、その仕組みづくりを通して会社の業績を高めることができるかどうかが、経営者としての能力を問われるのだと思います。
2025/12/13 No.3286
