鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

財務責任者がいなければ改革はできない

[要旨]

かつて山梨県でスーパーマーケットを経営していた小林久さんによれば、同社の経営が行き詰まった要因のひとつに、社内に財務の専門家を置かず、日銭商売のやり繰りに甘えて抜本的な改革が遅れたことをあげておられます。経理業務は間接部門であることから、多くの経営者の方はあまりコストをかけようとしませんが、しっかりした財務管理を行っていないと、精度の高い経営判断ができなくなるということに注意が必要です。


[本文]

前々回、会社の顧問税理士が財務面での助言をしてくれないときはどうしたらよいのかという経営者の方の悩みについて記事を書きましたが、それに関して、山梨県の地場スーパーの元社長だった小林久さんが、ご著書、「続・こうして店は潰れた」に書いておられたことにを思い出しました。ちなみに、小林さんは、1912年に創業したスーパー(祖業は鮮魚店)の3代目社長でしたが、同社は2017年に信用不安から破産を申請、すなわち、倒産してしまいました。

そして、小林さんは、同社が倒産した原因について同書で5つ挙げておられますが、その1つを次のように述べておられます。「第3に、社内に財務の専門家を置かず、日銭商売のやり繰りに甘えて抜本的な改革が遅れたこと。『下手な男より女のほうが役に立つ』。そんな言葉を耳にすることもある。やまとの本部には、会議と商談時を除いて男性は私だけしかいなかった。来訪者にいつも指摘され、そこでこの言葉が登場する。

やまとの男性幹部社員はすベて複数の部門の責任者であり、各店を巡回して指導するスーパーバイザーでもあった。その負担と貢献度はとても大きなものだったといまさらながら感謝する。私も毎日店舗を巡回していたので、留守のことが多かった。総務は実の妹に任せ、経理契約社員の女性が日々入力作業をしていた。事務処理も3名の女性社員、残りはチラシ制作の女性パート3名。ほとんとの来客にお茶出しはさせず、仕事に専念してもらう。

そのため社長室には自分で買った小さい缶コーヒーの箱が常備されでいた。早く飲み終わるし、そのまま持ち帰ってもらえるからだ。今でも常温の微糖缶コーヒーが好きなのは、その名残りである。彼女たちは完全週休二日制、残業なし。朝9時に本部が開き、午後5時には施錠される。その後は静がな本部で私が夜まで次のアイデアに知恵を絞る。このメンバーで、最盛期年商64億円の事務作業を回していた。入力の済んだ会計帳簿を翌月顧問税理士に見てもらい、営業成績が確定する。私が見るのは『売上高・利益率・利益額・最終利益額』、この程度だった。

とんぶり勘定でも社長にとっては最終利益額だけが重要であり、店舗別や野菜や魚などの部門別成績はすベて担当責任者に任せていた。調子のいい時期はこれでもいいが、いったん業績が落ち出すと、何が原因なのか、どうすればいいのか、何から始めたらいいのかがわからない。やまとはポイントカードの分析もしていなかったし、ボランタリーチェーンの傘下でもなければ、日頃お世話になっているコンサルタントもいない。ええ格好しいの社長は弱みを見せたくなくないので、人には相談しないのだ。これでは決断が遅れるのも当然である。売上は加速度を増して降下していく。

先代から付き合いのあったメインバンクの地銀とは、経営改善時の『振り子返し』として融資を他の金融機関にすベて借り換えてしまった。困った社長は信用金庫に駆け込み、信用保証協会の枠を目いっばいまで使って当座の運転資金を確保する。月末の支払いに困るときは、その日に合わせて激安のチラシを打って現金を確保するなど、絵に描いたような『自転車操業』である。何が『大丈夫、心配ない、なんとがなる!』だ。偉そうに言っても神風なんか吹かない。すぐに資金が枯渇して潰れるのがオチだ。『大丈夫、心配ない、なんともならないから!』」(242ページ)

私がこれまで見てきたほとんどの中小企業は、ありていに言えば、財務部門、労務部門などの管理部門をあまり重要視していません。事業現場に最大の努力を傾ければ業績は向上すると考える経営者の方がほとんどでした。こうなってしまう原因のひとつは、かつては、事業現場に注力していれば業績が向上したという時代だったからだと思います。しかし、現在の経営環境は複雑化してきており、単に製品を製造したり、商品を販売したりすればよいという時代ではなく、事業活動の精度を高めなければならなくなっていることから、財務管理に関してはいわゆるどんぶり勘定のままでは競争力が低下してしまいます。

もうひとつは、中小企業経営者の中には、管理活動については不案内という方が多いからだと思います。そのような経営者にとっては、経理業務については、単なる取引の記録作業であり、パートタイマーの方などに作業を任せ、あまり費用をかけるべきではないと考えている方も多いと思います。私は、かつて、「経理業務は、税金を計算するために行っているのだから、経理担当者の給料は税務署に払ってもらいたい」と言っていた経営者の方にも会ったことがあります。

かつての小林さんも、経理業務については必ずしも軽視していたとは思いませんが、財務管理は専任者を置かなくても社長が見ていれば十分と考えていたものの、やはりそれでは不十分であったと反省しておられるようです。もちろん、経理部門にたくさんのコストをかけることは賢明ではありませんが、やはり、小林さんのご指摘するように、財務管理の責任者を置かなければ、精度の高い経営を行うことができないということも事実だと思います。

2025/12/12 No.3285