鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

銀行は融資実績のない企業に融資しない

[要旨]

経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、無借金経営が理想的であり、それを実践している経営者がそのことに胸を張っていることがありますが、それは誤っているということです。なぜなら、銀行は、融資取引のない会社から、急に融資の申込があっても、それを断るので、自社の業況がよいときに融資取引をしておき、自社が窮地になったときも受けやすくしておくことが賢明だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「1000人の経営者を救ってきたコンサルタントが教える社長の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、三條さんの相談者には、毎月5日まで月次決算書を作成し、中身を十分理解するように助言しているそうですが、それをきいた服飾販売業のある会社の経営者の方は、月次決算書を毎月作成し、その数字の示すところを十分チェックするようにしたところ、経営状態がみるみる改善したことから、勘だけで経営していたことが間違いだと気づいたようだということについて説明しました。

これに続いて、三條さんは、無借金経営は避けた方がよいということについて述べておられます。「『私のところは無借金経営で、すベて自己資金でまかなっているんです』と胸を張る経営者も少なくありません。自己資金が豊かにあって、滞りなく回っている。新たな投資に回す資金もそれなりにある……。無借金経営という言葉から想像するのは理想的な経営の姿だといっても過言ではない、と思い込んでいるのでしょう。

これは大きな間違い。私の答えは『借りられるものなら借りておけ!』です。経営とはお金のやりくりだと述ベてきました。そのお金は、はっきりいえば、どんなお金でもいいのです。通常、開業資金や運転資金は銀行など金融機関から融資を受けてまかないます。同じプロジェクトのために複数の銀行から借りてでも、投入資金が大きければ大きいほど大きな勝負ができますし、それだけ大きな成果も見込めます。

次章でふれるように、銀行とのつき合いはなかなかむずかしいところがあります。特にバプル経済の崩壊後、さらに近年の低金利政策で収益源が細っている銀行業界自身、経営維持に苦しんでいる事情もあるのか、気概を失い、サラリーマン化した銀行マンが増えているようにも感ます。それでも彼らは金融のプロ。経営ノウハウの蓄積や多種多様なビジネスモデルを知っているという利点もあります。しかも、現在は一般的に金あまり時代。おまけに金利も最低水準といっていいくらいです。

そのため、ここは有望だという会社には必要以上にどんどん貸し付けようとする傾向も見られますが、融資話を受けるか受けないかは、最終的には経営者自身が判断すればいいのです。経営状態がよく、無借金なのだから、銀行に融資を申し込めば二つ返事で貸してくれるだろう。無借金経営者はついこう考えがちです。実は、銀行は、融資実績のない企業にはめったにお金を貸しません。銀行は、借りて返レた実績を評価するのです。そうした実績がない無借金経営の会社は、財務状態が優良であってもお金は借りられない。

たとえば自然災害で工場が被害を受けたとしましょう。保険金で工場の再建資金はまかなえますが、営業再開までのつなぎ資金はどうするのでしょう。あわてて銀行に駆け込んでも、銀行はそれまでつき合いがある企業を優先し、一見さんなど相手にしません。資金力に乏しい中小企業であればいっそう、無借金経営より借金経営で、銀行と積極的に、戦略的につき合う。これが中小企業の正しい経営のあり方です」(141ページ)

無借金経営を維持できる会社は、それだけ手元資金が潤沢ということであり、そうであれば、融資を受けることの必要性はないということでもあります。しかし、三條さんは、無借金経営は避ける方が賢明と述べておられますし、私も三條さんと同じ考えです。その理由は、「銀行は、融資実績のない企業にはめったにお金を貸さない」という三條さんのご指摘の通りだからです。そして、銀行は融資実績のない会社には滅多に融資しないという理由は、銀行の立場から考えれば、それほど理解は難しくないでしょう。

すなわち、融資取引がある会社は、融資取引のない会社と比較して、銀行が得られる情報の量が圧倒的に異なるからです。融資取引があれば、銀行は、決算書を提出してもらえますが、融資取引がなければ決算書を提出してもらうことができません。そして、銀行は、融資取引がある会社に対して、6か月ごとに信用格付を行いますが、その度に、その会社の状況を見直します。そして、三條さんの「銀行は借りて返レた実績を評価する」というご指摘は、心理的な要因ですが、これも事実です。

そう考えれば、現時点では融資が不要であっても、いつか必要になったときに備えて、銀行から融資を受けるという対策は、リスク管理の観点から望ましいと思います。三條さんは、自然災害を例に挙げておられますが、その他に、主要顧客の倒産、有力なライバルの急激な出現、それから、近年はサイバー攻撃など、事業を継続するにあたっての様々なリスクがあります。したがって、無借金経営ができるうちに、自社がピンチになったときのための対策をとっておくことは大切です。

2025/11/23 No.3266