[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、三條さんのクライアントの米穀卸売業の会社は、米の需要が減少している中で、その需要を掘り起こすために、独自に調査をした結果、パンと比較して、米は調理に手間がかかると考えられていることがわかり、大手メーカーがなかなかつくらない、地域独自の炊き込みご飯のおにぎりやレトルト品を製造し、地域のコンビニやキオスクなどに営業をかけ、販売するルートを開拓していったということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「1000人の経営者を救ってきたコンサルタントが教える社長の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、ある衣料品店の社長は、顧客の購入履歴をデータベース化し、ワントゥワンマーケティングを実践することで、顧客との関係を強化することに成功し、売上を堅実に伸ばしているそうですが、このような手法は、大企業には実践が難しく、中小企業に適している手法ということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、顧客の不満を製品開発のヒントにすることが大切ということについて述べておられます。「経営者は、クレームはお客からの大事な情報の1つであるということを見逃してはなりません。その商品やサービスにまったく関心がない場合は、わざわざクレームなど寄せてきませんし、クレーム内容をよく理解すれば、そこに商品やサービスをどう改善していけばいいかのヒントが潜んでいることに気づくはずです。
成功する経営者はクレームのなかに宝が隠れていることを知っていて、その宝を積極的に生かしていこうとしています。私のクライアントの1人に、長くコメの卸し業を営んでいる方がいます。山形地方一帯でビジネス網を展開し、大きなビジネスをしていたのですが、近年、少しずつビジネスが縮小していて悩んでいました。これは必ずしも、このクライアントの努力不足ではありません。日本人の主食はコメだと思い込んでいるのは旧世代。2011年に『家計調査』史上、初めて1世帯あたりのパンの支出がコメを逆転したのです。
日本人の間にこれほどコメ離れが進んでいるなんて!このクライアントにとっても大きな衝撃でした。クライアントなりに、なぜコメよりパンのほうがいいのかを調査したところ、最大の理由は、ご飯は面倒くさい、ということに集約されるのだとわかってきました。ご飯だとおかずやみそ汁をつくらなければなりませんが、パンなら、レトルトのシチューなどレンジでチンすればいいだけのおかずと合う。朝食ならパンとバター、ジャムだけでもすむ。菓子パンならばパンだけでもいい……とたしかにパンのほうがご飯より手間がかかりません。
もちろん、ご飯でもおにぎりやどんぶりものなら手間はぐんと少なくてすみます。こうした結果から、このクライアントはコメの卸しのほかに、コメの調理品を販売する部署を立ち上けたのです。具体的にいえば、大手メーカーがなかなかつくらない、地域独自の炊き込みご飯のおにぎりやレトルト品を製造し、地域のコンビニやキオスクなどに営業をかけ、販売するルートを開拓していったのです。
コメは面倒くさいという意見、つまり、コメに対するクレームから新商品開発のヒン卜を得て、積極的に新ビジネスをつくり上げたわけです。コメ卸しというビジネスにも将来的な不安要因がちらついていることも、新ビジネスに力を入れていこうという気持ちに拍車をかけています。最近は大手商社がコメ卸しにも進出し、大型スーパーなどにコメを卸すようになっています。大手商社の取扱量はケタ違い。大量仕入れで徹底的にコストダウンを図るのです。
これまでにも書きましたが、中小企業は大企業と真っ向勝負をすることだけは避けなければなりません。勝負は価格競争にもち込まれ、資金力に限界がある中小企業にはまず、勝ち目はありません。しかし、このクライアントは、地域の野菜や名産品を炊き込んだ郷土の味で勝負!という戦術にもち込みました。これには大企業も手も足も出ません」(111ページ)
顧客の不満やクレームを製品開発の手がかりにするというアプローチは、ほとんどの方が正しい方法だと考えると思います。ところが、この顧客の不満を解消する商品やサービスを提供するという手法は、簡単なようで、実践はそれほど容易ではないようです。例えば、シダックスは、1959年に、富士フイルム現像工場の社員食堂の運営を請け負っとことが同社の事業の始まりです。
その後、弁当の宅配事業、食事を提供するカラオケ店事業に進出していくなど、需要に応じてうまく事業を展開してきました。しかし、カラオケ店の利用客が、グループ客から個人客に変わっていくという流れに乗りきれずに、2018年にカラオケ部門を売却することになりました。
もし、同社が1人用のサービスを提供していたら、カラオケ事業を継続できた可能性は高いと思います。カラオケ店を営むまでのシダックスは、需要に合わせて事業を変えて発展してきた会社だったので、顧客の不満を解消していくということは、頭で考えるよりも難しいことなのだと、私は考えています。その一方で、顧客の不満を解消することについて、単に、新製品を開発するだけに留まらない効果があると、私は考えています。
例えば、ITmedia社の2023年6月20日の記事によれば、「味の素冷凍食品・公式Xは、『冷凍餃子がフライパンに張り付いてしまう』という投稿に対し、『使い込んだフライパンでも綺麗に焼けるギョーザの検証に向けたお願い』として、『フライパンを提供いただき、研究・開発に活用したい』と返答」したそうです。その結果、味の素冷凍食品には、1,000個以上のフライパンが届いたそうです。
この味の素の当初の対応は、単に、よい製品をつくりたいという意図だったと思います。ところが、1,000個以上のフライパンが届いたということは、同社も想定外だったと思います。このことは、フライパンを送った人は、単に、同社に協力に応じたということではなく、同社の製品開発に協力したい、もっとよい製品を開発して欲しいという意思の現われだと思います。また、よい製品を開発しようとする同社の姿勢を評価しており、顧客自身もよい製品開発に関与したいという意欲の現われでもあると思います。
私は、これからの会社は、単に、商品や製品が評価されるだけでなく、会社の顧客を大切にしようとする姿勢も評価される時代になりつつあると思います。したがって、顧客の不満やクレームを傾聴するという会社の姿勢は、よい製品づくりだけでなく、自社を支持してくれる顧客との関係強化のためにも効果があると、私は考えています。
2025/11/21 No.3264
