鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

データベースの構築によるCXの実践

[要旨]

経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、ある衣料品店の社長は、顧客の購入履歴をデータベース化し、ワントゥワンマーケティングを実践することで、顧客との関係を強化することに成功し、売上を堅実に伸ばしているそうです。このような手法は、大企業には実践が難しく、中小企業に適している手法ということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「1000人の経営者を救ってきたコンサルタントが教える社長の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、例えば、ラーメンブームに乗り、ラーメン店を始めたいという経営者の方から相談を受けることがありますが、ブームになった時点で参入しても、その後はブームが下火に向かって行くことになるので、ブームに頼らずに、おいしいラーメンを開発し、顧客を少しずつ増やして行こうという姿勢が望ましいということについて説明しました。

これに続いて、三條さんは、顧客データの構築の重要性について述べておられます。「Hさんはファッションショップの社長。イタリア系ファッションブランドの特約店ですが、日本メーカーがライセンス契約を結んで製作しているので、おしゃれなセンスがありながら、価格はOLや主婦層もちょっと背伸びをすれば手が届く範囲。あこがれをくすぐりながらも、現実感のあるプランドです。最近、アパレルプランドは軒並み、不振に悩んでいます。

かつては目いっばいおしやれを楽しんでいた女性たちですが、近ごろは、若い世代は携帯電話の料金や食ベ歩きにより多くお金を遣うようになっていますし、ミドルエイジやシニアの主婦層もヨガやフィットネスなど体づくりや旅行などにお金を遣うようになっているからだといわれています。キメキメのおしゃれよりファストファッションのほうがカジュアルでシンプルで、かっこいいというトレンドも、売上低下に拍車をかけているのでしょう。

ところがH社長の店は業界の不振傾向には関係なし。アパレル不況のなかでも、売上はきわめて順調です。店は仲良し同士が集まるサロンのような雰囲気で、いつも何人かのお客が楽しくおしゃベりしたり、笑い転げたりしているのです。初めてこの店をのぞいてみたという初対面のお客でも気がつくと、おしゃベりの輪に溶け込んでいたりします。その理由はH社長の気さくで、あたたかい人柄にあるのでしょう。

さらに、お客が安心してこの店をのぞくのは、H社長の正直で真心あふれる接客があるからです。H社長は、似合わないものは『あ、それね。あなたには似合わないわ。よしたほうがいい』などとはっきり指摘するのです。大して似合わないものでも、お客がその気になっているのを見れば、内心、舌を出しながら『お似合いよ』とか『おすすめよ』などと無責任なセールストークをして、買わせてしまう店が多いのですが。

さらに、H社長は、なじみのお客については、これまでどんなものを買ってくれたかを正確に覚えています。陰で、顧客のデータづくりをコツコツと行っている証拠です。ですから、お客が何かを手にとると『あ、それ、去年、買ってくださったあのジャケットと合わせると素敵だと思うわ』といったりして、お客の『ほしい気持ち』を心地よく刺激します。自分のことをそこまで覚えていてくれればうれしくないお客はいません。さらに、あれもこれもと売りつけようとしないこともお客の信頼を集めます。

ときには仕入れの段階から『これはあのお客様に似合いそう』と特定のお客をターゲットにした服を仕入れてくることもあります。こうした場合のセールストークも、『仕入れにいったら、あまりにも小泉様にお似合いになりそうな1着が目に留まったので勝手に仕入れてきちゃいました。お近くにいらしたらぜひ、寄ってくださいね。……もちろん、押し売りはしないから、心配はいりませんよ』と笑いで話をしめ、相手に気持ちの負担をかけるようないい方はしないのです。こんな具合ですから、お客はH社長が大好き。皆H社長のファンです。

『H社長がすすめてくれるものを買っていれば間違いのないおしゃれを楽しめる。だからついつい買ってしまうの』と絶大な信頼を寄せています。こうして自分や自分の店のファンをつくることは中小企業にとって最大の武器。あの社長が選んだのなら大丈夫、あの会社なら絶対いいからぜひ買いたいといわれるような関係性を築きあげたら、もう無敵といっていいでしょう」(107ページ)

H社長は、データベースを充実させ、ワントゥワンマーケティングを実践しているようです。そのため、H社長の店は衣料品店ですが、顧客が購入しているのは、衣服ではなく、H社長の提案するファッショナブルな暮らし、すなわち、顧客体験価値ということも言えるでしょう。このようなワントゥワンマーケティングは、大企業での実践はほぼ不可能なので、中小企業が実践すれば、大企業に十分に勝つことができます。

H社長の活動に似た事例として、東京都町田市にある家電販売店「でんかのヤマグチ」のデータベースの活用は広く知られています。同社の電気製品は量販店よりも高額ではあるものの、顧客データベースが充実しているので、例えば、顧客から「エアコンが壊れた」と電話を受けるだけで、データベースでその顧客が購入した製品を確認し、必要な部品をそろえて家まで行き、直ちに修理をすることができます。

したがって、でんかのヤマグチも、家電製品ではなく、快適な生活という顧客体験価値を販売しており、その結果、顧客との関係が深まり、高い粗利益を得ることができていると言えます。とはいえ、このようなワントゥワンマーケティングをきょうから実施しようとしてもすぐにはできないことも現実です。しかし、ワントゥワンマーケティングは中小企業でも実践できる手法である、というよりも、中小企業に向いている手法だと思います。

2025/11/20 No.3263