[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、中小企業経営者の多くは、よい人材に恵まれないことを嘆いていますが、大企業と比較して中小企業は安定性に欠いていることから、中小企業はよい人材は入社しないという前提で、自社で実務経験を積ませることで人材育成をしなければならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「1000人の経営者を救ってきたコンサルタントが教える社長の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、社員と一緒になって汗を流していると、いかにもよい経営者だと思われがちですが、社長には社長の仕事があることを自覚する必要があり、社員と一緒になって汗を流すことより、もっと効率的に売上をあげる方策はないかと考えたり、どのように活動して、事業を拡大発展していくのかを考えたりしていかなければいけないということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、中小企業経営者には人材を育成する能力が必要ということについて述べておられます。「中小企業には社長以上に優秀な人は入ってきません。自分が就活をする場合を想像して考えてみましょう。子どものころから優秀だと折り紙つきで、有名校を卒業したり、留学経験があったりすれば、安定性があり、将来性も豊かに広がる大組織、一流企業を選ぶのではないでしょうか。中小企業に優秀な人材がこないのはいわば宿命。当然のことだと受け止めなければいけません。
それでは、中小企業は永久に人材不足に悩まなければいけないのか、というとそんなことはありません。人を育てていく、という道があるのです。もちろん、大組織も人材育成にはかなり力を入れています。しかし、組織が大きいために、若いころから現場に出て、修羅場を踏む機会はそれほどありません。その結果、大企業で育てられた人材は、優等生でソツがなく、ケチのつけようがない人材であることには間違いありませんが、ここ一番というときに頼りになる底力はない。こうした人が多いのです。一方、中小企業に必要なのは、優等生というより、実際の仕事の現場で力を発揮できる人材です。
人材不足を嘆いてばかりいないで、中小企業には中小企業なりに必要な人材があることを意識し、そうした人材育成をすればいいのです。具体的には、最初からどんどん現場に出して、現場で力を発揮できる人材を積極的に育てていきましょう。人を育てる経営者とそうでない経営者の決定的な違いは、社員の失敗を恐れるか、恐れないか、です。多くの経営者は社員の失敗を恐れます。そして失敗しないように、とマニュアルを作成して仕事を管理しようとし、自由な裁量を与えようとしません。
その結果、社員の個性はなくなり、自発的な努力もしようとしなくなります。少数に過ぎませんが、社員にどんどん自由裁量権を与え、のびのびと自分のアイデアや力を発揮させようとする経営者もいます。中小企業の社員のなかには、偏差値や学歴だけで評価されてきた学校秀才にはない、ガッツと行動力にあふれた社員もいます。ただし、こういう社員は時々、やる気にはやりすぎ、大コケすることがあります。できた社長は、こんなとき、内心ではむしろ喜んでいたりします。人は失敗しなければ成長がないことを知っているからです。
若いころ、尊敬するある経営者から、『人は失敗しないと成長はない。だから、お前も若い間にいっばい失敗しておくように』といわれたことがあります。彼にはさらに、『社員にも失敗させろ。それが地力をつける近道だ。社員が失敗したときに出ていって対応するのが社長の仕事やろ』といわれたことがいまも頭に残っています。会社がつぶれるような失敗でないかぎり、社員の失敗をむしろ喜んで受け入れる。そのくらいの度量がある社長の下でこそ、社員は大きく成長します。その結果が会社の大きな成長につながっていくのです」(87ページ)
よい人材が必要ということは、大企業も中小企業も、従来から認識されていると思います。しかし、近年は、商品そのものでに差別化する要因の余地が少なくなってきたことから、接客や感性など、従業員の能力で差別化を行わなければならなくなりつつあります。このような面から、かつての人材育成と現在の人材育成は、重要性や目的などの性格がかわりつつあると思います。
最近は、「人的資本経営」という言葉がしばしば聞かれるようになりましたが、これは、従業員に関する支出が、コストから投資へと変わりつつあることの現われのひとつだと思います。そこで、経営者の方は、従業員の方の育成に相当の労力を注ぐ必要があります。このことは、かつてのリーダーとは、組織を牽引していくというイメージが強かったと思いますが、これからは、人材育成をする役割であると変わらなければならないと私は考えています。
2025/11/17 No.3260
