[要旨]
イトモス研究所所長の小倉健一さんによれば、トップダウン経営は会社の初期成長期の武器にはなりますが、組織が成熟すれば足かせになるということです。なぜなら、従業員の方が経営者の方の命令に忠実に従う手足のままでは、従業員の方は、自ら考えることをしなくなり、それはかえって会社の成長の妨げになるからだそうです。
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今回も、前回に引き続き、イトモス研究所所長の小倉健一さんが、ダイヤモンドオンラインへ寄稿した記事を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ファーストリテイリング社長の柳井正さんは、かつて、「やろうと決めたらその瞬間にそのとおり実行されないと、つぶれると思っていた」そうですが、その後、「徐々に会社の規模が増大していくのをみて、このままのワンマンな経営スタイルではやがて行き詰ってしまうだろうと考えるようになっていった」と、考え方を変えたということについて説明しました。
これに続いて、小倉さんは、独裁的リーダーの下では、人材が「手足のまま」成長しないということについて述べておられます。「パキスタンのラホール工科大学のカンワル・イクバル・カーンらが発表した論文『恩恵か不運か:専制的リーダーシップの再検討』は、独裁的経営者が組織にもたらす功罪を精密に分析した。そこではこう結論づけられている。『専制的リーダーシップは、新人や経験の浅い従業員には有効だが、やがて従業員の創造力を押さえつけ、意欲を奪う』つまり、トップダウン経営は『初期成長期の武器』であるが、組織が成熟すれば『足かせ』になるということである。
柳井氏が『喰ってかかった』冒頭の怒りは、実は一流のリーダーの誰もが通る危険な通過地点だったと言うことになる。柳井氏のすごさは、そこからの豹変だ。柳井氏は自らの過ちを公然と語り、経営スタイルを変化させた。誤りを認めることは恥ではない。むしろ、それを実行できるのがリーダーの成熟だ。人を率いるとは、正しさを競うことではなく、変わる勇気を持ち続けることなのである。ユニクロの創業期は、従業員にとっては『命令と服従』の時代だったのかもしれない。
店舗数を拡大し続けるためには、全員が同じ方向を向き、同じ速度で動かねばならない。だから柳井氏は、社員に『考える』ことを許さなかった。考える前に手を動かせ、というのが信念だった。だが、それは最短距離のように見えて遠回りである。先の研究ではこの現象をこう説明している。『専制的なリーダーはすべての判断を自ら行い、組織を厳格に管理し、従業員の行動と目標を一方的に命令する。その結果、従業員は組織の全体像を理解できなくなる』
リーダーが独裁的になるほど、部下は目的を見失い、命令の背後にある意図を理解できなくなる。柳井氏が言う『手足のままの人材』とは、まさにこの状態である。『手足』は言われた通りに動く。しかし、組織の血液のように流れる判断力や感性を失えば、成長は止まる。柳井氏が『“手足”は手足のままで満足できないはずだ』(同書)と書いたのは、命令に従うだけの仕事が、いずれ誇りを奪うと気づいたからだ。
経営者はしばしば、『言い返す社員』、『考えすぎる社員』を嫌う。命令に疑問を挟まれると、スピードが落ちるように感じるからだ。だが、実際には逆である。短期的な効率は上がっても、長期的な革新力は急速に衰える。論文の著者カーン氏は、『従業員が自ら考えることをやめたとき、組織は“命令の正確な模写”しか生み出せなくなる』と警告している」
黎明期の会社は、一般的に、従業員の方たちは事業活動の経験が浅いことから、リーダーが細かく指示をする必要があるでしょう。ですから、かつてのユニクロは、柳井さんが専制的リーダーシップを発揮していたことは、間違いであったというよりも、当時の組織の状況から、当然のことだったとも言えます。しかし、組織が大きくなってくると、それに合わせて、リーダーシップのスタイルを変える必要があります。
すなわち、組織が大きい場合、課題が見つかったときに、都度、経営者が判断するよりも、その場その場で、最前線の従業員の方が判断して対処する方が、活動の速度は速くなります。そして、柳井さんは自らそれに気づいたのだと思います。ところが、従業員の方が自ら考えて行動するようになると、経営者と異なる考えをする従業員の方も現れます。このとき、必ずしも従業員の方の考えが正しいとは限りません。
でも、逆に、従業員の方の考えが、経営者の方では思い付かない考えであることもあります。ですから、従業員の考え方が経営者の方の考え方とまったく同じである必要はないし、むしろ、異なることの方が会社の成長をより加速させることになるのではないかと思います。そして、経営者の方は、組織の状況に合わせてリーダーシップの類型を変える必要があり、また、経営者の方と異なる意見を持つ部下がいても、むしろ、それを歓迎し、受け入れることが、会社を最速で成長させることになると、私は考えています。
2025/11/11 No.3254
