[要旨]
日経クロステックの編集委員の木村岳史さんによれば、DXとは、情報技術を活用して新たな成長・競争力強化につなげていく取り組みであるにもかかわらず、単に、情報技術を導入して事業プロセスを改善しただけで、それをDXの実践であると誤って解釈し、さらに、自社の評価を高めるために、DXを実践していると喧伝する経営者がいるが、それでは解釈の業績は改善しないし、経営者も評価されないということです。
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日経クロステックの編集委員の木村岳史さんが、同誌のWebPageに寄稿した記事を読みました。「ネットバブルは2000~2001年に崩壊した。AIバブルもいずれ破裂するだろうけど、当分の間、株式市場は『いけいけドンドン』だろうね。これがAIブームとDXブームの差だな。DXブームはあくまでも日本ローカルの話に過ぎず、バブルどころかDX銘柄でさえも株価が大きく上昇するわけではない。だとしたら、株価で頭がいっぱいの経営者は『これからはAIだ』となってしまうよね。
もちろん、AI関連銘柄に簡単にはなれないが、少なくとも生成AI活用に熱心に取り組んでいるというアピールは重要なのだ。しかも、生成AIは日本企業の経営者が初めて夢中になったIT/デジタルツールだといってよい。経営者自身が生成AIを有能なアシスタントや壁打ち相手として使い込んだり、自身の分身をAIで作成したりすることが大流行しているよね。部下にも生成AIを活用することを促すなどしており、経営者としては初めてIT/デジタル分野でリーダーシップを発揮できていると思っているんじゃないかな。
経営者としては極めて『居心地の良い』状態であるのかもしれない。そんな訳だ。これまで『我が社のDX』に取り組んでも株価がちっとも上がらなかったDXオンチの経営者が『これからは生成AIだ』と思っても不思議じゃないよね。ちなみにDXオンチの経営者とは、IT/デジタルを活用したビジネスモデルや業務プロセスなどの変革がDXであることを理解できない、あるいは理解しようとしない経営者のことである。
先ほど書いたDK、デジタルカイゼンをもってDXだと思い込んでいる。IT/デジタル革命のさなかにあって単なるカイゼンを変革と誤解しているようでは、そりゃ株価も上がらないよね。何度も言っていることだが、本来は生成AIもDXの手段として当然活用しなくてはいけない。経営者が壁打ち相手として利用することを否定はしないが、それだけでは全く駄目だ。
人に代わって仕事を自律的に遂行するAIエージェントの存在を前提に、業務プロセスをつくり直すなどのDXに取り組まなければならない。なんせ、欧米や新興国の企業はもう始めているからね。そんなDXの必要性を理解しなかったりサボっていたりすると、株価が上がらないどころか、AIバブルが崩壊する前に日本企業の没落が加速する可能性は大だぞ」
DXとは、2004年に、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させること」と提唱したものです。さらに、経済産業省は、デジタルガバナンス・コード2.0で、DXについて、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
ちなみに、木村さんは、DXを、「デジタル技術を前提として、ビジネスモデルなどを抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく取り組み」と述べておられます。一方で、木村さんは、「IT/デジタル技術を活用してカイゼン活動に取り組むこと(デジタルカイゼン、DK)をもって『我が社のDX』と定義する企業が多数存在する」と批判しておられます。
確かに、DXは絶対的な定義はないものの、経営者がDKをDXと考えていれば、その会社は、本当にDXを実践している会社との競争に敗れてしまいます。そして、私が、木村さんのご指摘で、もうひとつ気になったことは、「何度も言っていることだが、本来は生成AIもDXの手段として当然活用しなくてはいけない」というところです。すなわち、生成AIはDXに代わるものであるという大いなる誤解をしている経営者がいるということです。
本当にこのようなことを言う経営者は、生成AIとDXのどちらも正しく理解していないということでしょう。このように考える経営者の方は、いわゆるバズワードを使うことだけで満足したり、それで改善や改革を実行できたと考えてしまうのでしょう。ちなみに、バズワードとは、日経クロステックのホームページによれば、「一見専門用語のように見える、明確な合意や定義のない用語」のことです。
もちろん、DXは本当の意味で使われていればバズワードではないのですが、単に、表面的な評価だけを高めるために誤った意味で使っていれば、バズワードになってしまいます。私は、日本の会社経営者は、木村さんが批判するような経営者ばかりではないと思っていますが、やはり、「DXオンチ」の経営者は少なくないと思います。
そして、経営者がバズワードを連発すると、一見、株主からの評価は高くなるように感じますが、会社は最終的には業績で評価されるわけですから、DXや生成AIを正しく理解し、それらを業績を高めるために取り入れて活用しなければ、DXや生成AIという言葉を経営者が何度口にしても、あまり意味はないばかりでなく、逆に、その経営者の能力に疑問を持たれることになるのではないかと、私は考えています。
2025/11/9 No.3252
