鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

プロセスを評価する制度で高い納得性を

[要旨]

ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんは、かつては、従業員の方の自動車の販売台数に応じて評価をしていましたが、その後、どのようなプロセスを経たかも評価の対象にするようにしたそうです。ただし、どれだけプロセスに努力をしても、販売につながらなければ、どの努力は評価の対象にはならないそうです。そして、こうした評価制度の改善を重ねていくことで、従業員の方が納得できるようにしているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんが、業績不振の会社の経営者に、「従業員が船の乗組員であるという自覚を持っていれば、会社が難関に陥ってもそれを切り抜けようとして力を出しますが、乗客のような気持ちのままでいると、誰かが何かをやってくれるのを待っているだけになる」と助言したということについて説明しました。

これに続いて、横田さんは、プロセス評価の重要性について述べておられます。「プロセスの評価の仕方について、少し具体的に述べましょう。創業当初はわが社も、『新車販売1台につき報奨金○○円』という、単一的な基準でしか営業スタッフを評価できませんでした。しかしCR活動によって、これが大きく変わりました。CR活動で重視しているのは、販売台数ではなく、顧客との親密な関係の構築だからです。

『新車販売1台につき報奨金○○円』という考え方では、たまたま店頭で出会ったお客様に販売した1台と、何年間もていねいにフォローして獲得した1台が同じ評価になっしまいます。それでは営業スタッフとしても、納得できないはずです。そこで導入したのが、販売に至るプロセス全般を評価するシステムです。任意保険の契約は取れたか、下取り車はあるか、店頭納車か、関係書類を迅速に提出したか、サービス入庫はあるか……など、販売にかかわるすベてのプロセスをポイント化し、その合計によって営業活動を評価するようにしたのです。

なかでも、大きな差がつくのが、そのお客様はどのルートから接点をもったのか、という項目で、単に上司の指示で担当についただけでは、ほとんどポイントになりません。サービス部門や中古車部門のことを考えて仕事を進めているか、といったチームワークに関するポイントも設けています。しかも、ポイントを認証するのはマネージャーではなく、実際に仕事で関係しているスタッフで、わが社ではベテランの営業スタッフが、若い女性社員に認証のハンコをもらうといった光景が見られます。

ただし、いくらプロセスで頑張っても、最終的に売れなければ、ポイントは獲得できません。実際に車を売ることによって、ポイントを獲得する権利を得られる、と考えればわかりやすいでしょうか。第1章で述ベたように、二宮尊徳は、『道徳を忘れた経済は罪悪であり、経済を忘れれた道徳は寝言である』と言いました。道徳と経済。わが社の営業スタッフの評価方法は、この双方を追求するためのものだといえます。

このポイント評価は、販売台数で業スタッフを評価する方法に比ベればかなり複雜です。大変だ、面倒だ、と思う人もいるかもしれません。しかし、その手間よりはるかに重要なのは、日々のきめ乙まかい努力を評価に反映させ、営業スタッフの納得性を高めることです。そして納得性を高めるためには、評価基準のつくり方がポイントになります。わが社では、ほかのしくみと同様、ポイントの点数やルールも上意下達ではなく、営業スタッフの総意でつくり上げ、時間をかけて改善を重ねてきました」(211ページ)

私は、あらゆる人が納得する人事評価制度をつくることはとても難しいと考えています。しかし、経営者の方の考え方や、経営理念を反映した評価制度をつくることは大切だと思っています。これは、逆を言えば、単に、従業員の方が獲得した売上に応じて評価や給与を高くするということであれば、それは実質的には歩合給ということになります。そして、歩合給で働く人しかいないのであれば、経営者の考え方や経営理念は不要ということになります。さらに、会社そのものも何のためにあるのかということになります。

その一方で、経営理念に基づいた事業活動を行うことを避けようとする経営者の方もいます。それは、要は、売上や利益という結果が問題なのであって、経営理念はその手段なのだから、それほど重視する必要はないという考えなのでしょう。このような考え方は、かつての、需要が供給を上回る時代であれば、適している考え方だと思います。しかし、現在は、供給が需要を上回る時代なので、商品が売れるかどうかは、経営者の考え方、会社の経営理念などに左右される時代です。したがって、しっかりした経営理念をつくり、それに基づいて活動した従業員の方が評価される評価制度をつくることは大切だと思います。

ところが、このようなことを実践するために、経営利値をつくったり、評価制度をつくったりすることは労力がかかることから、これを避けようとする経営者の方がいるかもしれません。でも、そのような考えは単に手抜きをしようとしているだけであり、業績は高くならないでしょう。また、単に売上を得ることができればいいのであって、経営理念やプロセスは問題ではないという考え方で事業が成功するのであれば、どんな人でも経営者を務めることができるということになります。

もうひとつ、プロセスを重視した評価制度を導入することの効果は、従業員の方の士気を高めることになると、私は考えています。横田さんの会社の評価制度は、私は、直接は見ていませんが、本に書いてある内容からも複雑であるということは推察できます。でも、このような複雑な評価制度をつくろうとしていることを通して、従業員の方たちは、自分たちを正当に評価するために、経営者たちは努力していると受け止めると思います。繰り返しになりますが、よい評価制度をつくることは労力がかかりますが、それは決して無駄な労力ではないと、私は考えています。

2025/11/6 No.3249