[要旨]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんによれば、長期的にみれば、短期間で規模を拡大し、売上げだけが伸びていく会社は危険なので、質の高い成長のためには、一人ひとりの社員や組織のチームワーク、お客様との信頼関係などが、売上げの伸びとともに成長させなければならず、そこで、業績という結果だけが伸びるのではなく、すベてを同時に成長させることを目指してきたということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんによれば、欧州の経営者は、会社の規模を大きくすることよりも、会社の質を高めることが望ましいと考える方が多い一方で、日本では規模を大きくすることが望ましいと考える経営者が多いそうですが、需要より供給が上回っている現在は、規模を拡大することよりも質を高めることが適していると言えるということについて説明しました。
これに続いて、横田さんは、会社は売上の増加と比例して、経営の質も高めなければならないということについて述べておられます。「長期的にみれば、短期間で規模を拡大し、売上げだけが伸びていく会社は危険だと思うのです。(中略)質の高い成長のためには、一人ひとりの社員や組織のチームワーク、お客様との信頼関係などが、売上げの伸びとともに成長していかなければなりません。業績という結果だけが伸びるのではなく、すベてを同時に成長させたい。それには時間もかかるだろう……。私はそう考えていました。
そこで私は、次の三つの取り組みが矛盾せず、互いに連動して相乗効果を生み出していくように組織をつくろうとしました。(1)誰も幸福にならない飛込み営業をやめ、そこでセープした時間をアフターフォローに費やしお客様に喜んでいただく。(2)社員同士の競争をやめ、チームワークを発揮し、質の高いサービスを提供する。(3)社員がクリエイターとして活躍し、お客樣を楽しませるアイデアを創出する。
自動車ディーラーとして『異端』とされたこれらの取り組みは、営業的にはお客様に喜んでもらい、信頼関係を築くためのものですが、経営的には、社員が仕事に喜びを感じ、仕事を通じて自分自身を成長させていくという目的があります。そして、一人ひとりの社員が成長すれば、会社全体の成果につながります。(中略)社員、お客様、会社がすべてWin-Winの関係で結ばれる--。
そこには、なんの矛盾もありません。『そんなきれいごとを言っても、社員は簡単に成長しないし、社員同士を競わせなければ仲良しクラプになつてしまう』と反論する人もいるでしょう。たしかにそうかもしれませんが、だからこそ、私たちは当初から人材採用を重視し、甘さに溺れず、自分を律せられる若者の確保に全力を傾けてきたのです」(128ページ)
横田さんは、「社員、お客様、会社がすべてWin-Winの関係で結ばれる」関係をつくることを目指してきたと述べておられますが、これは、「サービスマーケティング」の考え方だと思います。もちろん、サービスマーケティングは、無形の商品を販売するサービス業(飲食業、娯楽業、宿泊業、運送業など)が行うマーケティングで、具体的には、次の3つに分類されます。
(1)エクスターナルマーケティング:小売業や製造業などが行っている一般的なマーケティングでもあり、後述する、インターナルマーケティングと区別するため、エクスターナルマーケティングと呼ばれています。例としては、閑散期にプロモーションをして業務の平準化を図ったり、繁忙期には待ち時間が長くなることで顧客に不満を感じさせないよう、インターネットでの予約を可能にするといった工夫をします。
(2)インターナルマーケティング:サービスの品質を向上させるには、従業員のスキルやモラールを向上させる方法が主なものとなります。具体的には、待遇改善、職場環境の改善、福利厚生の充実、スキルアップのための研修や支援などの活動を行います。これは、会社の内部にいる従業員との関係を強化する活動であることから、インターナルマーケティングと呼ばれます。
(3)インタラクティブマーケティング:具体的には、顧客データの活用や、従業員と顧客の関係強化によって、収益を高めようとする活動です。そして、現在は、「もの消費」から「こと消費」に移りつつある時代であることから、サービスマーケティングはサービス業意外の業種にも適用すべきものになりつつあると、私は考えています。
自動車を販売するネッツトヨタ南国においても、横田さんがサービスマーケティングを意識していたかどうかは分かりませんが、実質的には同じことをしようとしていたのだと思います。ここまで、少し遠回りの説明をしましたが、少し不正確な表現にはなるものの、サービスマーケティングとは、端的に言えば、従業員満足(ES)によって顧客満足(CS)を高めようとすることだと考えてよいと思います。
横田さんは、「『売れ』と言わなくても結果的に売れるしくみ」をつくることによって、会社が安定的に利益を得ることができるようにして、そして顧客満足を高めるという目的を達成したいと述べておられますが、そのために、サービスマーケティング(従業員満足向上)を実践してきたのだと私は考えています。
もちろん、サービスマーケティング(従業員満足向上)の実践は、難易度の高い活動です。しかし、経営環境の複雑化した現在は、かつてのように、部下に目標を割り当てて達成させるというような、単純な管理活動は通用しなくなってきているわけですから、サービスマーケティングに果敢に挑むことは避けて通ることはできないと、私は考えています。
2025/10/31 No.3243
