鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

質を高めた結果として量も増やす経営を

[要旨]

ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんによれば、欧州の経営者は、会社の規模を大きくすることよりも、会社の質を高めることが望ましいと考える方が多い一方で、日本では規模を大きくすることが望ましいと考える経営者が多いそうですが、需要より供給が上回っている現在は、規模を拡大することよりも質を高めることが適していると言えるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんは、事業活動を通して顧客満足度を高めなければならないものの、経済につながらない道徳のみを追求することはボランティアにしか過ぎないので、経営者は経済につながるような道徳の追求をしなければならず、そこで、横田さんは、「売れ」と言わなくても結果的に売れるしくみをつくろうと考え、そのための努力を続けてきたということについて説明しました。

これに続いて、横田さんは、事業は量の拡大よりも質の向上を目指すことが望ましいということについて述べておられます。「『全社員を人生の勝利者に』というとき、私は『量と質』について考えをめぐらします。以前、ヨーロッパに、経営者の研修旅行に行ったときのことです。中小企業にせよ大企業にせよ、ヨーロッパに研修旅行に行くような人は、日本ではトップクラスの経営者といえると思うのですが、300年も続くヨーロッパの会社へ行って彼らが発する質問は、『なぜ、もっと会社を大きくしないんですか?』というものでした。

『300年続いているというが、小さい会社じゃないか』と、規模でよし悪しを判断する経営者もいました。しかし、それは違うのではないかと思います。そうした日本の経営者が『量』を重視しているのに対して、ヨーロッパの経営者は『質』を考えているのです。質がよかったからこそ300年続いてきたという事実の重さを理解せずに、社員数や売上げなどの量に目が行ってしまうのは残念なことです。

『なぜ会社の規模をもっと大きくしないのか?』という質問の背景には、『それほどいいモノだったら、もっとたくさんつくって売ればいいのに』という考えがあるのでしょう。しかし300年続いてきた会社は、こう考えているのです。『いたずらに量を拡大すると、ほかの人のシェアを食ってしまう。するとほかの人は値下げをする。そうなるとこちらも値下げせざるを得なくなる。そんなことをしているうちに、全体の質が下がる。その結果、全体の量が減っていく。誰も、得をするものはいない』と。

要はガソリンスタンドの値引き競争と同じで、最後には、つけがすベて自分に回ってくるのです。本当は、ほとんどの経営者は、このことをわかっていると思います。日本でも昔から、量よりも質が大事といいますし、質をよくしていくと、量もついてくるのだ、とも言われます。当然のことです。しかし、質をよくしていっても、何かが欠けていると量がついてこない場合もあります。逆に、質が悪いのに量がたくさん売れているように見えることもあります。

混乱する材料が山ほどあるので、本来の『質をよくしていき、その結果として量を増やしていく』という、いちばん正しいやり方を見失いがちになるのでしょう。これも、無理のないことかもしれません。高度成長期以後の日本の経営者は、常に量を重視する世界にいるため、量がないと安心できないのでしょうか。たしかに、需要が供給を上回っていた時代には、量だけを追いかけてもうまくいきました。しかし、そういう時代は、もう二度と訪れることはないでしょう」(42ページ)

私は、事業規模を大きくすることが、必ずしも間違っているとは限らないと考えています。事業規模が大きい会社には、長所と短所がありますが、やはり安定性などの面で長所の方が大きいと考えているからです。しかし、規模拡大の速度が速すぎると、組織体制の整備が規模拡大に追いつかずに、経営が不安定になってしまいます。経営コンサルタントの遠藤功さんは、ご著書、「経営戦略の教科書」の中で、IBMを再建したルイス・ガースナーも、規模を急激に拡大することを避けたと述べておられます。


「企業の成長を考える上での基本は、『安定成長』の追求にあります。言い換えれば、『緩やかに、かつ、継続的に成長することによって、成長のプロセスで生じる歪みを最小限に抑える』ということです。IBMを再建した、ルイス・ガースナーはこのような経営を、『プラトー型モデル』と呼んでいます。つまり、『高原』のようななだらかな曲線を描く成長こそが理想であると主張しているのです。その対極にあるのは、『マッターホルン型モデル』です。

ガースナーは『槍のごとく尖ったマッターホルンのように、売上高が急伸する会社は、そのプラス要因が失われたときに急降下する。急降下、急拡大は株主やユーザーから歓迎されない』と述べています」これについて、私は、少し意地悪な考え方を持っています。というのは、規模拡大にだけ目が向いてしまう経営者の方は、実は、経営の質を高める方法を知らない、または、苦手なのではないかということです。

もちろん、これが100%正しいと思ってはいませんが、ある程度は当てはまると考えています。では、その根拠は何かというと、規模拡大に夢中になる経営者の方の多くは、営業活動が得意、ものづくりが得意という一方で、会計面からしっかりとした事業計画を立てて計画的な活動をする、労務面で部下育成をするというといったことが苦手なのではないかと感じています。

ただ、人には得手、不得手があるので、オールマイティになることはなかなか難しいということも現実だと思います。ただ、経営者の役割には管理活動を欠かすことはできません。そこで、横田さんがご指摘するように、経営の質を高めるためのスキルだけは身に付けなければ、「よい会社」=「競争力の高い会社」をつくることは難しいと、私は考えています。

2025/10/30 No.3242