[要旨]
経営コンサルタントの大坂靖彦さんは、かつて、マツヤデンキのFCとして家電店の事業を拡大していましたが、マツヤデンキが店舗の大型化に否定的であったために、カトーデンキのFCに移ったところ、マツヤデンキはやがて倒産したということです。すなわち、時代の変化を敏感に読み取り、それへの対応を積極的に行うことが経営者の重要な役割だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、中小企業では、社内規定は、経営者自身が、従業員に関わらせながら、作成していくことが必要であり、なぜなら、両者が規則制定に関わる過程で、理想の会社をイメージすることになり、事業活動に能動的、かつ、当事者意識を持って臨むことができるようになるからだということについて説明しました。
これに続いて、大坂さんは、経営環境の変化に常に対応しなければならないということについて述べておられます。「いつの時代も、企業が変わらないでいようとすることは、安全で安定した道に見えて、実はもっともリスキーな道です。高い市場シェアを誇り、安定した業績をあげていた大企業が、その状態に甘んじてしまい、変化できずに衰退した事例はいくらでもあります。俗に『ゆでガエル』といいますが、浸かっている湯の温度が少しずつ高くなっても、ゆっくりした変化だとなかなか気づかないものです。そして、気がついたときにはのぼせ上がって、湯の中で死んでしまいます。
つまり、『事業環境に大きな変化が起きた』と誰の目にも明らかになってから手を打つのでは、遅すぎるということです。コロナ禍のような、予想もできなかった社会変容が起きることもありますが、それは例外で、大抵の変化は、普段の顧客や取引先とのつき合いの中で、あるいは新聞報道やテレビニュースの中で、予兆が感じられるものです。そこで、社長は常に四方八方にアンテナを張り、情報を集められるだけ集め、時代変化の予兆を敏感に感じ取って機敏に対応をし、ときには大胆に会社を変化させていかなければなりません。
大企業でさえ、時代の変化に対応できなければ衰退します。まして、中小企業が上品な貴族のように、のんぴりと構えているのでは、到底生き残れません。常に知恵を絞り、状況に素早く対応しながら、どんなことでもして生き残る野武集団でなければならないのです。私が社長時代、マツヤデンキのフランチャイジーとして全国1位の売上でありながら、そのチェーンを抜けて、提携先をカトーデンキに切り替えたとき、『バカか』、『無謀だ』と、社外からだけではなく、社内からもいわれたものです。
しかし家電量販店に大型店時代が必ず到来するという時代変化の予兆に確信を持っていた私は、絶対にその行動が正しいと信じていました。そして、社員にも、今までのやり方を捨てて、今後到来する大型店時代への対応をするよう求めました。その後、マツヤデンキは倒産。我が社は紆余曲折がありながらも、私の社長退任時には売上高約340億円にまで達しました。時代の変化に敏感になり、常に、『脱皮・変身・成長』を心がけて自らを磨き続ける会社だけが生き残り、社員を物心両面で豊かにしていくのです」(220ページ)
大坂さんがご指摘しておられる、「ゆでガエル」現象は、知らない人はいないと思います。しかし、現実には、ゆでガエルの状態になった結果、業績が下がり、倒産してしまう会社は後を絶ちません。とはいえ、これは、私自身にもあてはまりますが、どんな人も現状維持バイアスを持っており、強く意識していないと、無意識のうちに現状を維持しようと行動したり、現状を変えるための行動をしなかったりするのだと思います。そして、これからも、残念ながら、ゆでガエル現象によって倒産する会社はなくならないと、私は考えています。
だからといって、環境変化への対応について、私は悲観的には考えていません。これは、客観的な証拠はないのですが、環境変化に対応している会社の方が、そうでない会社より多いと、私は考えています。ただ、環境変化に対応できずに倒産してしまった会社は、倒産したときの多くの注目を集めるので、「また、時代に追いつくことができずに倒産した」と、私たちは印象に残ってしまうのでしょう。
でも、環境変化に対応している会社は、注目を浴びる機会が比較的に少ないので、実は、きちんと環境変化に対応している会社の方が多いと、私は考えています。そして、私は、私の住んでいる地域の、創業60年を超える地場スーパーが、果敢に環境変化に対応しているよい事例だと考えています。上から目線で恐縮ですが、このスーパーを私が評価できると感じていることは、店舗の定期的なスクラップアンドビルドを行っていることです。具体的には、60年余で店を20店出店しましたが、うち、改装はのべ7回、閉店は7店行っているようです。
すなわち、60年余の歴史の中で、2年に1回は、出店、改装、閉店のいずれかがあり、従業員数(パートタイマーを含む)300人程度の規模の会社としては、積極的な対応だと思います。すなわち、環境変化への対応を意識していないとできないことだと思っています。ただ、残念なことに、このスーパーは、11月から、あるドラックストアの100%子会社になると発表がありました。スーパー自体は残るものの、経営権は、創業家の方たちから離れるようです。
これについても、近隣に、より大きなスーパーの出店が相次いでおり、独力では経営の継続が難しいという英断によるものなのではないかと、私は考えています。このような英断も、再び上から目線で恐縮ですが、環境変化への対応を強く意識しているからこそできることだと思います。そして、大坂さんが、経営環境の変化に敏感に対応しなければならないというご指摘は、会社を継続させるために、経営者が最も注力しなければならないことだと、改めて感じました。
2025/10/28 No.3240
