[要旨]
経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、中小企業では、社内規定は、経営者自身が、従業員に関わらせながら、作成していくことが必要だということです。なぜなら、両者が規則制定に関わる過程で、理想の会社をイメージすることになり、事業活動に能動的、かつ、当事者意識を持って臨むことができるようになるからだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、会議に否定的な人も少なくないものの、会議をする→記録を残す→行動計画に結びつけて行動する、そして実際の行動から出てきた問題や課題が次の会議の議題となるというサイクルが回るようになってはじめて、経営を磨き上げていくツールとして、会議に十分な意義が生じるのであり、このような活動を通して会社の体質は強化されていくということについて説明しました。
これに続いて、大坂さんは、経営者自身が作成しなければならないということについて述べておられます。「中小企業では、社内規程は必ず社長が自分の頭で考えながら、自ら策定すベきです。といっても、ゼロから考える必要はありません。各規程のひな形は、書籍としても売られていますし、ネット検索すればいくらでも出てきます。
社長が規程を作る場合のポイントは3つ。1つ目は、最初から立派で完璧なものを作ろうとしないこと。例えば、A4用紙に3~5枚程度のものでもいいので、まずは簡単なものを完成させることが大切です。2つ目は、自分だけで作るのではなく、幹部や社員に相談をしながら作ること。社長が自分だけで規程を作れば、どうしても社長の思いが先行します。また、良く見られたいという虚栄心や見栄が入ってしまうこともあります。すると、現場の実態と乖離した独りよがりな規程になってしまうのです。
例えば、現在週休2日制が導入されていないとします。それなのに、いきなり週休2日制の規程を入れても社員は内心、『そんなことできるわけない』と冷ややかに感じて、規程を軽視するようになります。そこで、幹部や社員と相談して、いきなり完全週休2日は無理だけど、月に1回は導入しようとか、半休を導入しようなど、現場目線で実現可能な規程に練り上げていくのです。そして3つ目のポイントは、規程を折りに触れて見直して、ブラッシュアップしていくこと。
例えば、最初は月1回だけ週休2日でも、社長がどうしても完全週休2日制を実現したいなら、少しずつ現場業務を改革して環境を整えます。そうして、現実と規程に齟齬が生じるにようになったら、現実に合わせて規程を変えていけばいいのです。社長と幹部社員が膝を詰めながら、ああしよう、こうしようと理想の会社の姿を夢見て語り合いながら規程を一緒に作り上げていく。そうすることで、幹部社員も『私が社長と一緒に会社を作り上げている』という実感を持つことができ、最高の幹部教育にもなるのです」(216ページ)
私が、これまで、中小企業の事業改善のお手伝いの経験から感じることは、中小企業の多くは、「規則」がありません。(もちろん、法律で就業規則の作成を義務付けられていますが、恐らく、会社を設立したときに作成はしたものの、単に、手続のためだけに作成しただけで、実務上は活用されていないということは珍しくありません)なぜなら、経営者と従業員の間に人間関係ができているので、規則の必要性を感じることがないからだと思います。例えば、営業担当者が、新規取引先との価格交渉で、今まで他社からは受け入れたことがない10%割引の要請を受けたとき、その場で社長に電話して了解を得ることができれば、そこで契約を得ることができます。
これは、営業担当者と社長の人間関係があるからできることで、大企業であれば、仮に営業担当者と社長は面識があったとしても、予め、価格交渉の値引きの権限が決まっていたり、権限を越える場合は、稟議書を書いて決裁をもらう規則ができていたりしますので、前述のようなことはできないことが一般的です。でも、中小企業も事業規模が拡大して行けば、営業担当者が社長に電話して決裁を得るというようなことはできなくなっていくわけですから、やはり、職務権限規程や、稟議規定などが必要になっていくでしょう。
そして、大坂さんの事例は、規則について述べておられますが、これは、事業計画にも当てはまると考えています。規則も、経営者や従業員が自ら関わって作成するから、当事者意識を持って守ろうとしますし、実効力が高まります。これと同様に、事業計画も、経営者や従業員が関わりながら作成すると、当事者意識が高まります。そういった面で、実効力が高まるという点が大切なので、これも大坂さんがご指摘しておられるように、完璧なものをつくることは優先する必要はないと、私は考えています。もし、自ら関わった規則や計画に不都合があれば、自ら修正すればよいのです。
逆に、完璧な規則や計画があったとしても、自らが関わらず、専門家が作成したものを与えられたとすれば、規則や計画の実効性は低くなります。規則や計画には、それぞれ、本来の目的がありますが、作成や修正に自ら関わることで、能動的に組織的な活動ができるようになるという「副産物」を得ることができます。そこで、自社に規則や計画がないという会社では、まず、簡単なもので構わないので、規則や計画を経営者と従業員が一緒になって作成することをお薦めします。
2025/10/27 No.3239
