[要旨]
経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、会議に否定的な人も少なくないものの、会議をする→記録を残す→行動計画に結びつけて行動する、そして実際の行動から出てきた問題や課題が次の会議の議題となるというサイクルが回るようになってはじめて、経営を磨き上げていくツールとして、会議に十分な意義が生じるのであり、このような活動を通して会社の体質は強化されていくということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、経営者の方は部下たちが自分と同じ能力を持っていると考えがちですが、もし、そうであれば、部下の方たちはその経営者に雇われることなく、自ら会社を経営しているわけですので、部下の方たちの能力を正しく踏まえた上で、部下の方たちが成功するように環境や仕組みを整えることが社長の役割と考えなければならないということについて説明しました。
これにつづいて、大坂さんは、社内会議を形骸化させないことが大切ということについて述べておられます。「社長が、会議が多すぎると感じたり、幹部や管理職社員からそのような声が出るようになったりしたら、すベての会議について、これをなんのために行うのか、その会議を行うことによって何を生み出したり何を変えたりしたいのか、その会議を行った結果実際にどんな成果があったのか、といったことを確認して、調ベていくようにします。
そうすると、例えばこの会議はいらない、あるいは、この会議とこの会議はテーマが重なるから一緒にできるといったものが、必ず見つかるはずです。そうしたら本当に意味があり、成果が出せる会議だけを残していきます。どんな会議が必要なのかは、もちろんそのときどきの経営状況によつても変わります。ですから、年度計画立案の際仁、前年度の会議をすベて棚卸しして、その必要性や有効性を精査します。
その上で、必要な会議だけに絞り込んだ年間会議計画を策定します。あとは計画通りに粛々と会議を開催していくだけです。また、会議は必ず一定間隔で定期的に開催しなければならない、というものでもありません。業務状況に応じて開催頻度を変えてもいいのです。例えば、小売業で、12月が繁忙期、2月と8月が閑散期だとするなら、その2月と8月は会議の開催頻度を倍にして、その代わり12月は開催しない、といった柔軟な対応をとります。
こうして必要な会議だけを開催するようにしたら、次に大切なのは議事録を必ずとることです。すベての会議で議事録をしっかり残している会社は、案外少ないからです。人間の記億は曖昧ですから、必ず議事録をとり、何が話し合われて、何を決めたのかをすベて記録しておかなければ、同じことが何度も話し合われて無默に時間を浪費することになります。また、会議の成果があったかどうかも確認できません。最後に、会議で決められた内容を事業の行動計画に結びつけて行動することが、一番大切です。
『会議をする』→『記録を残す』→『行動計画に結びつけて行動する』、そして『実際の行動から出てきた問題や課題が次の会議の議題となる』というサイクルが回るようになってはじめて、経営を磨き上げていくツールとして、会議に十分な意義が生じるのです。このように議事録で記録をとり、それが行動に結びついているのかも記録し、それをもとに年度の終わりには再び会議の必要性を精査して、次年度の会議計画を立案する、ということを繰り返していきます。会議のスリム化、筋肉質化が、社員の考えや行動に磨きをかけ、それが社内全体の体質にもつながっていきます」(207ページ)
ビジネスパーソンの間では、「会議」にネガティブなイメージを持つ人が少なくないようです。しかし、私は、「会議」に関して、必ずしもネガティブではありません。なぜなら、まず、組織活動にはコミュニケーションが欠かせないということについては、ほとんどの方がそう感じると思います。そして、私は、「会議」はコミュニケーションのひとつの方法であると考えています。もちろん、コミュニケーションの方法は会議だけとは限りませんが、会議が最も適している場合は会議は肯定的に活用するべきだと、私は考えています。
ちなみに、会議を優先し、業績を高めている会社があります。それはアイリスオーヤマです。同社会長の大山健太郎さんは、ご著書、「いかなる時代環境でも利益を出す仕組み」で、同社では会議を最優先していると述べておられます。「アイリスでは、仕事の中で、最も優先度が高いのが、会議や朝礼など、皆で集まる場に出席することと言ってもいいでしょう。(中略)アイリスの情報共有に対する力の入れ方は生半可ではありません。
もちろん、目的はいかなる時代環境においても利益を出せる会社にするためです。1つ、2つのヒット商品を当てるだけなら、社長1人の力でも可能かもしれません。しかし、利益を出し続けるためには、社長の『分身』として、役員、社員が主体的に思考し、行動することが必要です。新製品のアイデアが出るのは、中堅中小企業の場合、社長であることがほとんどです。これはなぜでしょうか?(中略)
私は多くの社長が優秀なアイデアを出し、的確な判断を下せるのは、社長が社内情報を独占する立場にあるからだと思います。世の中の社長が偉そうにしているのは、往々にして情報をたくさん持っているからです。社長を社長たらしめるものは、『社長と社員の情報格差』です。(中略)組織を強くするためには、そこに切り込み、できる限り、ブラックボックスをなくす必要があります。(中略)
アイリスでは、社内の多くの情報をほぼ全員が、ほぼ同じタイミングで知ることができます。LED照明などの新製品を次々に市場に投入できたのも、結局、情報共有によるものです。アイリスの本質的な強さは、情報共有力にあると言っていいでしょう。仕事が属人的でないのが、アイリスの組織の特徴です。(中略)仕組みで組織の力を結集したから、一介の町工場が7,000億円企業に化けたのです」
このように、アイリスオーヤマでは、会議を利益の源泉となるように活用しています。もちろん、無駄な会議や、効率の悪い会議が行われていることも事実であり、それはなくすべきと思います。一方で、「会議」と名のつくものはすべてなくせばよいということでもありません。大切なことは、上手なコミュニケーションの確保のしかた、上手な会議の活用のしかたを、会社全体で習得していくことだと、私は考えています。
2025/10/26 No.3238
