鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『対症療法』ではなく『根治療法』

[要旨]

経営コンサルタントの大坂靖彦さんは、かつて家電店を経営していたとき、店舗の要改善点が目につくと、都度、改善を指示していましたが、それは経営者の役割ではなく、ミスが生じないような仕組みづくり、ルール化、マニュアル化を実行することを通して改善点がなくなるようにしなければならないと気づいたということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、創業社長が2代目に社長を譲った後も実権を握り続け、息子に細かい指示をしていると、2代目社長は自主的な判断ができず、経営者として成長できなくなるため、後継者育成を第一に考え、必要なとき以外は口出しをしないようにしなければならないということについて説明しました。

これに続いて、大坂さんは、経営者は、事業の現場で起きたミスについて、都度、改善を指示するのではなく、ミスが起きない仕組みをつくることに注力しなければならないということについて述べておられます。「このテーマは、以前(大坂さんが)経営していた家電店が5~6店舗の頃に、私がしてしまった失敗と反省の経験に基づいて書いています。当時の私は全社的な経営に関する仕事をこなす一方で、次々に出店した店舗を見て回り管理する忙しい日々を過ごしていました。

その忙しい時間の中でも店舗に行くと、不十分な点や改善すベき点がいくつも自然に目に入ってきます。店長や社員が、どうしてこんなことに気がつかないのかといぶかしく感じるくらいです。そういった現場のミスや不備に気づいたときは、放っておくことができませんから、その場ですぐに店長や売り場担当者を呼んで『これをこうしろ、あれはああしろ』と、指示を出しました。

例えば、店のパックヤードに行くと清掃用具が並ベられていますが、そこにかけられている雑巾がとても汚い。それに気づくと、すぐに店長か、社員を呼んで『こんな雑巾で拭いたら、展示商品が汚れるだろう、すぐにきれいに洗いなさい』といって洗わせる。また、その隣の棚を見ると、店舗清掃用の洗剤が切れかけている。『これじゃあ、すぐに切れるだろう、掃除をするときになくなったらどうするんだ、すぐに買ってくるように』といって買いにいかせる。そういった具合です。

しかしあるとき、よく考えてみると、こんなモグラ叩きのようなことを続けるのは、まったく非効率的だと気づきました。皆さんも同じだと思いますが、経営者である私は、どうすればライバルに負けない店になるか、お客様により喜んでもらえるか、少しでも多く売上を伸ばすことができるかなど、それこそ寝ている時間以外は、四六時中、常に経営のことを考えていました。

店舗に行くたび、不十分な点や改善すベき点がいくつも自然に目に入ってきたのは、そういう意識を常に持っていたためもあるでしょう。しかし、経営者と社員とでは、もともと経営や改善に対する意識の持ちようが違うのだから、それをいっても仕方ないかもしれないと気づいたのです。経営者としてやるベき仕事は、ミスや不備を見つけるたびに、すぐに指示を出してモグラ叩きのようにそれをつぶしていく『対症療法』ではありません。

そもそもどうしてそのようなミスが生じるのか、その原因を探り、原因を取り除くことでミスが生じない体制を作る『根治療法』をすることのはずです。そのために組織の仕組み、ルールやマニュアルの整備を実施します。例えば、先の雑巾が汚れているという問題に対しては、曜日ごとに雜巾を洗う担当者を決めて洗わせることや、定期的に新しい雑巾を安く揃えられるように、古くなった衣類などの雑巾になる素材を社員に持参してもらうようにするといったルールを決めました。

また、洗剤を絶対に切らさないようにするため、各店舗に必ず2つの洗剤を置いておき、1つが空になったら1つ補充するダプルボトル方式を採用。ほかにも、ほうきやモップを立てかけていると、先が床に触れてほこりやゴミが付着してしまうため、吊り下げ式の置き場を作る、といったことも実施。そしてそれらの施策について、まず各店舗の優秀な社員を教育して覚えさせ、それからその社員が他の社員に教えていくという形で完成させました。

このように、どうすればミスや不備が生じないかを考えて、ルール化、マニュアル化して実行させることこそ、社長がなすベき仕事です。それを意識しない限り、いつまでも社員を叱り続けなければならず、社員のほうも嫌気がさしてきます。また、今のはミスの例ですが、事故が起きたときなども同様です。事故であれば、そのときの迅速な対処も重要ですが、それ以上に、事故の原因の原因まで深く探っていき、二度と同じ事故が発生しないように対策を講じることは、最優先の重要課題となります」(164ページ)

大坂さんご自身がご経験された失敗は、経験の浅い経営コンサルタントもやってしまいがちです。人は、どういう訳か、他人の「粗」には気づきやすく、顧問先の会社に行って、問題点が目につくと、都度、それを指摘してしまいます。しかし、そのような指摘は、必ずしも、顧問先にとってありがたいものであるとは限りません。その最大の理由は、粗探しは経営コンサルタントだけでなくてもできることです。

経営コンサルタントに求められる役割は、顧問先の問題点がなくなるようにするために、会社の状況を把握し、そこから会社の成熟度を高めていく支援をすることです。私のいう成熟度とは、難易度の高い経営課題を解決する能力や、効率的な組織活動を行う能力のことで、これは一朝一夕に身に付けることはできませんが、これを高めて行けば、自ずと問題点は減少していきます。

話しを戻すと、問題点が見つかったときの経営者の対応の仕方ですが、大坂さんがご指摘しておられるように、仕組み、ルールやマニュアルを作ることが最初に取り組むことだと思います。さらに、私は、従業員の方が問題点に気づく能力を高め、そして、それを自律的に解決できる能力を身に付けてもらうことだと思います。そのための方法は、これも私が何度もお伝えしている、QCサークル活動(小集団活動)や、5S活動だと思います。

これらの活動が浸透していくことで、ルールやマニュアルを超える活動ができるようになります。そして、今回の事例から、経営者の方の基本的、かつ、重要な役割は、組織の能力を高めて行くことだということがご理解できると思います。逆に、経営者の方がいつまでも指示ばかりしていれば、それは、経営者の方が、組織の能力を高める能力がないということでもあると言えるでしょう。

2025/10/23 No.3235