[要旨]
経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、現在は経営環境が激しく変化しており、業務プロセスを常に改善しなければならないものの、普段は、なかなかそれに着手できないので、退職者が出たときは、新たな補充をせずに業務を継続できる方法を考えなければならなくなるので、業務プロセス改善のよい機会になるということです。また、退職者に退職する理由をきくことも、改善のヒントを得る機会になるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、様々な個性を持つ人材が集まると、世の中の変化に対応できる強い組織になるものの、バラエティに富む人材をチームとしてまとめ上げるには、社長の懐の深さ、器の大きさ、そして人材育成ヘの覚悟が必要になるので、そのような社長になるためには、まず社長が自分自身を磨く必要があるということについて説明しました。
これに続いて、大坂さんは、退職者が出たときは、業務改善の機会になるということについて述べておられます。「事業環境は常に変化していきますから、それに合わせて業務プロセスやオペレーションも、変化させていかなければなりません。定期的に、業務プロセスを総棚卸しして、組織体制(組織図)や、各自の役割・業務分担、権限などを見直し、再配置して最適化していくことが常に必要です。
でも、平時にはついつい後回しにしてしまいがちな作業でもあります。ただ、退職者が出たときには、いやでもこれを実行しなければならないので、社内改善の絶好のチャンスになるというわけです。『退職者が出たからすぐに補充しよう』という安直な発想は、せっかくのチャンスをみすみす逃していることになります。
退職者が出たときにもう1つ取り組まなければならないのは、退職原因の検討です。もちろん、職場にはなんの不満もないけれど、家庭の事情や病気などにより働けなくなって退職するということもあります。しかし大半は、職場に不満があって転職目的で退職をするケースです。そこで、職場への不満による退職を完全に防ぐことは不可能ですが、なるベくそれを減らすために、不満の理由を推察・検討し、改善すベき点があれば改善します。
例えば、以下のような理由が代表的な、職場に起因する退職要因です。(1)上司の指導力や熱意の不足、直属上司以外に相談できるコーチャーの不在(2)過重な業務、長時間業務の押しつけ(3)チームワークの不足、人間関係のトラプル(4)業務マ二ュアルや作業器具などの不備(5)採用時や配属時のミスマッチ(6)評価制度の不備による不満や低賃金同じ現場の社員を集めて、こういった要因がなかったかを徹底的に話し合う検討会を開催します。
そして、推定できる原因があったら、今後、同じ原因による退職者を出さないために、改善を図っていくのです。可能であれば、退職した社員に直接、意見を聞くといいでしょう。在職中の社員からは決して聞けない、(良い意味でも、悪い意味でも)驚くような話を聞かせてくれることがよくあり、業務改善に大いに役立ちます。まさに、『辞めた社員は金』なのです。このように、退職者が出たとき、社長はただそれを嘆いているのではなく、“神様がくれたビッグチャンス”だと捉えて、社内改善に取り組んでいくベきです」(109ページ)
業務プロセスの改善は大切ということは、すべての人が理解しつつ、大坂さんもご指摘しておられるように、後回しにしてしまいがちな活動です。そこで、退職者が出た時に、補充せずに事業をどうやって維持するかを考えなければならなくなるわけですが、これを業務プロセスの改善の機会ととらえることは、よいアイディアだと思います。また、大坂さんは、退職者に退職の理由をきくとよいと述べておられますが、これを実際に行うことは、現実的には、心理的な抵抗が大きいと思います。
なぜなら、経営者にとっては、自らへの批判に向き合うことになるからです。また、退職者に理由をきいたからといっても、必ずしも正直に答えてくれないかもしれません。さらに、退職理由をきくことができたとしても、その理由は退職者の身勝手な理由であって、経営者側、または、会社側に問題があると受け止めることができないこともあるでしょう。
しかし、大坂さんは、「辞めた社員は金」と述べておられ、また、「良薬は口に苦し」という格言もあるとおり、そこに業務改善のヒントがあると考えることもできます。正直なところ、私がもし経営者だったら、退職した人と話をすることはしたくないという気持ちが強いです。でも、それを改革の機会として受け止めることができるかどうかが、人としての器量の大きさなのだと思います。
2025/10/21 No.3233
