鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

多様な個性が集まる組織は変化に強い

[要旨]

経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、様々な個性を持つ人材が集まると、世の中の変化に対応できる強い組織になるものの、バラエティに富む人材をチームとしてまとめ上げるには、社長の懐の深さ、器の大きさ、そして人材育成ヘの覚悟が必要になるので、そのような社長になるためには、まず社長が自分自身を磨く必要があるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、経営者の方は、よい成績をあげている従業員に対して、昇進や昇給で報いたいと考えますが、業績が下がったときに、降格や減給をすることは難しいので、表彰制度などで報い、同時に、会社は長期的な視点に立って事業を発展させることが大切だと伝えていくことが必要だと言うことについて説明しました。

これに続いて、大坂さんは、環境変化が激しい時代は、様々な個性が集まる組織が強い組織になるということについて述べておられます。「中小企業の採用に応募してくる人には、学校の成績が悪かったり、自信を喪失しているような人もいます。光る部分があまり感じられない応募者も多いでしょう。すベてにおいて80点以上の優等生はいませんから、『ここは見所がある』、『ここを磨けば光るだろう』と思える、良くいえば個性のある、悪くいえば少しクセの強いタイプを採用します。

例えば、コンピューターに強い人や、商業高校卒の経理が特別に好きで、ぞの勉強ばかりしてきたという人です。そういう人は、得意なことが生かせる、うまくはまる業務を与えてあげると、高い能力を発揮するものです。ただし、その反面で、他の社員と軋轢を起こしたり、ときには社長に対してさえも非常識な態度を示したりすることがあります。しかしそのようなときこそ、社長自身の力が試されているのです。個性ある人の『ここは90点、だけどここは40点』とわかったら、その40点の部分をいかに底上げしていくかということです。

例えば、ちょっとお茶でも飲もうと誘って『この前、聞いたけど、部長にこんなこといったらしいな。それはだめだろう。そういうときは、“すみません”というものだよ』なとと具体的に指導していきます。それも一度や二度ではなく、ことあるごとに何度でも根気よく繰り返します。決して個性をつぶすのではなく、良い面は伸ばしてもらいながら、会社の中でうまくやっていくために短所を正すよう、励まして応援していくのです。

そのうちに本人も、社長は自分を応援して、育てようとしてくれていると必ず気づきます。そして、その意気に感しで自ら変わっていくのです。これには長い時間も手間もかかりますから、何より社長の覚悟が問われますが、強く伸ぴ続ける会社にしようと思うなら欠かせない努力です。『人は石垣』といわれることがあります。つるつるで角のない石だけでは、強い石垣にはなりません。角やヘコミみがある、でこほこした石同士をうまく組み合わせることで、強い石垣を作れるのです。

会社組織も同じで、何をやらせても平均的に70点で、似たようなタイプの社員ばかりでは、環境変化があるときに、どうしても弱くなりがちです。頭がいい人がいれば、体力のある人もいる。理系もいれば文系もいる。強気な性格がいれば何事にも慎重な人もいる。そういうさまざまな個性を持つ人材が集まると、世の中の変化に対応できる強い組織になります。ただし、バラエティに富む人材をチームとしてまとめ上げるには、社長の懐の深さ、器の大きさ、そして人材育成ヘの覚悟が絶対に必要です。そういう社長になれるよう、まずは社長が自分自身を磨かなければなりません」(105ページ)

大坂さんは、中小企業を前提に、「クセ」のある人の長所を活用することが大切と述べておられますが、これは、中小企業だけでなく、あらゆる組織に共通することだと思います。そして、大坂さんがご指摘しておられるように、クセがある人が集まっている組織の方が、環境変化に強いということも事実だと思います。ところで、大坂さんのご指摘を読んで、私は、「お魚ボックス」を開発して注目された、山口県萩市の萩大島船団丸を率いる、坪内知佳さんのことを思い出しました。坪内さんは、ご著書、「荒くれ漁師をたばねる力-ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話」で、次のように述べておられます。

「あるときから、私はみんなに歯車の話をよくするようになった。人はみな、色や形やサイズ、立ち位置が違う歯車だ。私は私で頑張るけれど、私という歯車の色やサイズは変えられない。一人で頑張っていても、何も動かせない。でもそんなとき、サイズが違うほかの歯車が来てくれたら、カチッとかみ合って、何かが回り出していく。そして自分が回れば、隣の歯車も回り出して、その横の歯車も回り出す。たとえ小さな歯車でも、その一つが動けば、次々に歯車が回り出して、それが世界を変える大きな動きになっていく--」(171ページ)

この坪内さんの歯車の例えは、大坂さんの石垣の例えとほぼ同じだと思います。ところが、すべての方ではないですが、中小企業経営者の方の中には、部下たちにも自分と同じ価値観を持ち、自分と同じ能力を身に付けて欲しいと考える方がいます。それは、部下たちが自分と同じ能力を持つことが、自社の属する業界での競争に勝てるようになると考えているからだと思います。私は、そう考えることが100%間違っているとは思いません。

しかし、人手不足の続く現在、自社で働いてくれる人はなかなか集まらないわけですから、さらに、経営者と同じ価値観を持ってもらえる人は、もっと少ないというのも現実でしょう。そうであれば、坪内さんの考えのように、価値観が違う人が集まった会社で、それぞれの特徴を活かす組織を目指すことの方が現実的で、また、よい「化学反応」を起こすことができるのではないかと、私は考えています。実は、このテーマに関して、100%の正解はないということも事実だと思います。しかし、前述したように、様々な個性が集まっている組織の方が、環境変化に強いわけですから、VUCAの時代に適していることは間違いないと思います。

2025/10/20 No.3232