鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

昇進や昇給ではなく感謝の気持ちを示す

[要旨]

経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、経営者の方は、よい成績をあげている従業員に対して、昇進や昇給で報いたいと考えますが、業績が下がったときに、降格や減給をすることは難しいので、表彰制度などで報い、同時に、会社は長期的な視点に立って事業を発展させることが大切であり、そのための活動が重要だと言うことを伝え、その活動に対して報いていくことが大切だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、経営者は鳥の目、虫の目、魚の目を持つことが必要ですが、日常的な業務が忙しいと、虫の目でしか課題を解決できなくなることから、社長ではくてもできる仕事はなえるべく部下に任せるようにして、経営者自身は鳥の目を持って、長期経営計画や、それを実現させるための経営戦略を策定することに注力するようにしなければならないということについて説明しました。

これに続いて、大坂さんは、高い業績をあげた従業員を昇給で報いてはいけないとうことについて述べておられます。「社員が懸命に努力し、好調な仕事ぶりで高い成績をあげているのを見ると、社長も嬉しくなるものです。『あいつ、最近よくがんばっているな。昇進させて役職をつけてやろうか』そのように、がんばっていい成績をあげている社員に、なんらかの形で報いたい、それによってこれからも一層励んでもらいたいと願う社長の気持ち自体は、素晴らしいものです。

ただし、そのやり方を間違えないように気をつけねばなりません。特に、昇進や昇給については、一度立ち止まって冷静に判断しましょう。会社というのは、20年、30年後に達成するベきビジョンや理想を実現するために、長期計画に基づいて成長していくベきものです。来年や再来年だけのことだけを考えるわけにはいきません。長い期間には、業績が良いときもあれば悪いときもあり、そのときの状態に応じて投資や経費も計画的に調整していく必要があります。

会社経営は、『常に途中形』であることを忘れてはいけません。そして、業績の波があり常に途中形というのは、社員の個々人も同じです。今期トップの成績をあげた人が、来期も同じように成績を伸ばしていけるとは限りません。というより、多くの場合、トップをとってからしばらくすると成績が落ちていくものです。

人はトップギアのまま走り続けることはできず、ギアを落とすときもあれば、徐行してしまうときもあるのが普通です。一度昇進や昇給をさせてしまったら、あとからそれを引き下げることは非常に困難です。役職につかせた者からその役職を奪えば、モチベーションが大きく下がることは当然です。事例企業のように、せっかくの優秀な社員が退職してしまうケースもあるでしょう。

また、降職や降格人事、あるいは単なる減給でも、労働者にとって不利益な変更となるため、十分な説明が必要です。それを踏まえると、安易に昇進や昇給をざせることは考えものです。では、高い成果をあげた社員に、会社はどのようにして報いればいいのでしょうか。まず基本は、心から褒めて感謝の言葉をしっかりと伝えることです。『年間MVP』などの表彰制度を設けて、全員の前で表彰するのもいいでしょう。まずは社長の気持ちを、きちんと言葉や形にして伝えることが非常に重要です。

また実利的なメリットを与えるには、特別ボーナスを支給する方法がいいでしょう。日本企業では、通常のボーナスは生活給的な性質になってしまっているため、簡単に減額できません。そこで通常のボーナスにさらに上乗せする形で特別ボーナスを支給します。これなら、成績が落ちたときに減額されても納得が得られ、むしろ奮起を促します。『成功している時期は、次の失敗への助走期間』かもしれないと考えて、謙虚かつ誠実に社員に報いていきましょう」(101ページ)

優秀な従業員に報いる方法は、とても難しく、私も正解と言える方法はないと思っています。大坂さんがご指摘しておられるように、表彰制度で報いる方法も効果があると思いますが、場合によっては昇進や昇給で報いて欲しいと考えている従業員は、それだけでは不満を感じ、転職してしまう可能性もあります。しかし、基本的には大坂さんのご指摘するように、短期的な成績で、昇進や昇給をさせないことが妥当だと思います。もし、短期的な成績に対して、金銭や昇格で報いると、従業員の多くは、短期的な成績だけを追求し、人材育成やノウハウの蓄積といった、長期的に必要とされる活動を怠ってしまいます。

これについては、前述したように、正解というものはありませんが、会社は長期的に成長することが目的であり、それに向かっどのような活動をして欲しいのかということを従業員に繰り返し示すことを根気強く続けていくことが最も望ましいと、私は考えています。このような活動を続けることは相当な忍耐力が必要になりますが、だからこそ、それをやり遂げられる経営者は大きく評価されるべきだと私は考えています。

2025/10/19 No.3231