鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『虫の目』だけでなく『鳥の目』も持つ

[要旨]

経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、経営者の方は、鳥の目、虫の目、魚の目を持つことが必要ですが、日常的な業務が忙しいと、虫の目でしか課題を解決できなくなることから、社長ではなくてもできる仕事はなるべく部下に任せるようにして、経営者自身は、鳥の目を持って、長期経営計画や、それを実現させるための経営戦略を策定することに注力するようにしなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、事業改善にあたっては、表面的な原因だけでなく、真の原因まで突き止めて対処することが欠かせないということから、例えば、赤字の原因は、優秀な従業員が退職して作業効率が下がったと分析結果が出たとしても、従業員が退職した理由は上司のパワハラが原因ということもあり、その場合は、上司の管理活動の改善が必要になるということについて説明しました。

これに続いて、大坂さんは、経営者の方は長期的視点で活動しなければならないということについて述べておられます。「経営者に必要な3つの視点、『鳥の目、虫の目、魚の目』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。鳥の目とは大所高所から経営全体を俯瞰し、長期的な視野に立って物事を判断することです。虫の目とは、細かいところに小さな不備がないか、現場に這いつくばってチェックして発見する視点です。そして魚の目とは、今、世の中の時流がどう動いているのか、その流れを察知して、流れに乗って進んでいくための視点です。社長は、この3つの視点をすベて持ち、臨機応変に切り替えながら社内外を見て経営判断を下していかなければなりません。

ところが、中小企業の社長によくあるのが、虫の目ばかりが発達してしまうことです。どんな会社も日々さまざまな問題が発生し、それを解決していかなければ経営は成り立ちません。例えば、『既存商品の売れ行き低下』、『原材料の値上げ』、『顧客からのクレーム』、『発注のミス』、『経理数字の間違い』、『社員同士の人間関係卜ラプル』……。この目先の問題に必死になって取り組み、それを解決していくのが虫の目です。しかしそれだけだと、1つの問題が解決すれば、また次の問題が発生して対応しなければならない『モグラ叩きゲーム』状態になり、社長が常に目先のことに追われることになってしまいます。

ポイントとなるのは、その仕事が社長でなければできない仕事なのかという点です。例えば、『会社が将来どのような姿になっているのかビジョンを描くこと』、『そのビジョンに向けた長期計画を立てること』、『長期計画を中期計画、短期計画と落とし込んでいくこと』、『その計画実現のための戦略を考えること』。これらは社長が鳥の目を持って行うベきことであり、社員の知恵を借りることはあるとしても、最終的には社長が決断すベきことです。

一方、日々目の前に現れるテーマは必ずしも社長ではなくても、対応できることが大半を占めます。それなら、それらのテーマは社長以外の人間が担って、社長は社長にしかできない仕事をすベきでしょう。ただし、目先に同じような解決するベきテーマが次々と現れるようなとき、社長は、その原因や原因の原因を根本的に考えて、そもそもそのような問題が発生しないような仕組みを考えなくてはなりません。これは本章でも何回か述ベました。

例えば、店舗での販売員の対応について顧客からのクレームが続いたとします。その場合には、なぜクレームが生じるのかという原因や、その原因の原因を分析しなければなりません。販売員の対応が悪いというのは根本原因ではありません。なぜ販売員の態度が悪くなるのかを調ベた結果、店長を選ぶ際に、過去の販売実績だけを選考要素としており、部下ヘの指導の仕方をチェック項目にしていないことが判明したとします。それならば部下への接し方を含めて、もう一度全店の店長の適性をチェックし直したりします。

こうして、社長がクレームの根本原因を絶つ仕組み作り、すなわち業務改善や組織改善を実行し、長期的な目標への推進速度を上げていくのです。もちろん的外れではない効果的な業務改善や組織改善を実行するためには、大所高所から俯瞰する鳥の目だけではなく、虫の目も必要です。例えば、経理業務でミスが多かったり、月次決算の提出が遅れたりするという問題があるとします。その改善を図ろうとするとき、社長自身が経理業務の『け』字も知らなければ、経理担当者に問題点の洗い出しや改善提案を依頼するしかありません。

その経理担当社員が有能で誠実な人物であれば、適切な問題の洗い出しや改善提案がなされるでしょうが、そうとは限りません。自分が楽をしたいために、『これくらい、普通ですよ』といって、問題があること自体を認めない恐れもあります。そのため、会社がまだ小さいうちは、社長はもともとの専門である営業や製造の業務だけではなく、経理や総務、倉庫や配送の仕事も自ら担当して、理解しておくほうがいいのです。すベての現場を把握して、それに基づきながら長期的視野に立った業務改善や組織改革を実現できれば、確実に理想の経営に近づいていけます」(86ページ)

経営者の方は会社のトップに立っている方ですので、「鳥の目」で経営判断を行わなければならないということは、ほとんどの方がご理解されると思います。むしろ、経営者の方以外の方は、営業部門、製造部門、管理部門など、何らかの事業活動に関わっているので、これらを統べた視点を持てるのは経営者の方だけですから、「鳥の目」での経営判断は経営者の方に課せられた責任と言えるのではないでしょうか?しかし、現実には、経営者の方が、目の前の課題に対処するだけで精一杯ということが多いようです。

そうなってしまう要因のひとつは、スキルや経験不足から、経営者の方でないとできない仕事が多いため、本来は経営者の仕事ではないのに、経営者の方が現場から離れることができないということなのだと思います。しかし、それが続いていては、いつまでも経営者の方が虫の目しか持つことができなくなるので、1日でも早く、経営者の方が部下に仕事を任せ、鳥の目を持つことができるようにするしかありません。

もうひとつ、経営者の方が鳥の目を持つことができない要因は、経営者の方が、心の深いところで鳥の目を持つことを避けようとしているのではないかと、私は感じています。これは、別の表現をすれば、現状を変えたくないと考えているということではないかと思います。本当は、鳥の目を持って現在の事業の問題点を洗い出さなければならないことはわかってはいるものの、それをしてしまうと、今の仕事のやり方を変えなければならなくなるので、それを実践する決断がなかなかできないのだと思います。

確かに、このような決断をすることは、経営者の方がすべての責任を負って行うことなので、相当の覚悟が必要になることも事実です。ただ、経営者のポジションに立つということは、このようなつらい役割を引き受けるということでもあるので、1日でも早く、経営者としての決断を行うことが、ライバルとの競争に勝つためにも、欠かすことができないと、私は考えています。

2025/10/18 No.3230