[要旨]
経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、事業改善にあたっては、表面的な原因だけでなく、真の原因まで突き止めて対処することが欠かせないということです。例えば、赤字の原因は、優秀な従業員が退職して作業効率が下がったと分析結果が出たとしても、従業員が退職した理由は上司のパワハラが原因ということもあり、その場合は、上司の管理活動の改善が必要になるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、業績には波があり、赤字になってしまうことはあるものの、3期連続赤字になると、何らかの対策を講じる必要があるので、経費を減らすなどの努力をして業績が改善できればよいのですが、それでも回復しなければ、抜本的な業績の改善策を講じる必要があるということについて説明しました。
これに続いて、大坂さんは、事業の改善のためには、原因を深く掘り下げる必要があるということについて述べておらえます。「では、3期連続で赤字になってしまったらどうすればいいでしょうか。そんな状況になるとすれば、中心事業のビジネスモデルそのもの、あるいはオペレーションプロセス全体のどこかにその赤字を作っている要因があるはずです。それは会社の内部の問題かもしれませんし、事業環境の変化かもしれません。
そこでまず、会社の内部・外部の環境をすベて見直し、全業務の棚卸し、総点検をします。そして、赤字を生み出しでいる原因を徹底的に掘り起こして特定します。もちろん、赤字を生み出している原因が、わかりやすい1つの要素とは限りません。複数の要素が絡み合っていることも多く、また表面的な原因の奥に『原因の原因』が隠されていることが大半です。それらをすベて分析して、クリアにして対応策を講じていきます。例えば、工場長が『優秀な工員が2名も辞めてしまってから業務効率が落ちたし、歩留まりが悪化した。それが赤字の原因だから、優秀な人材を採用してほしい』といったとします。
それは赤字原因を特定しているようですが、実は本当の原因、つまり『原因の原因』が考えられていません。この場合、さらに一歩突き詰めて『なぜ優秀な工員が同時期に2名も辞めてしまったのか』を考える必要があります。すると、実は新しい工場長のパワハラ体質が本当の原因だったとか、新しく機械を導入した際に、時間をかけてしっかり導入教育をしていなかったことが原因だった、というような『原因の原因』が判明します。トヨタ生産方式で行われる『5回のなぜ』などの『なぜなぜ分析』を聞いたことがある人も多いでしょう。これは、『5回』という回数が重要なのではありません。表面的な原因の奥に隠れた本当の原因にたどり着くまで、『なぜ』を繰り返すことが大切なのです。
管理職のパワハラがあったとか、教育に不備があったというような話は、当の管理者自身から『私のパワハラが原因です』、『教育を十分していませんでした』とは、なかなかいい出せません。そのため、業務現場に起因する赤字原因の分析や検討は、社長を中心に、できるだけ多くの、理想をいえば全社員が参加して行うベきものです。そしてこれをビジネスの上流から下流まで、本部、本店、支店など、すベての部門、部署に対して行います。一方、事業方針の誤り、ビジネスモデルの陳腐化、事業環境の変化など、経営方針全体にかかわるような問題が赤字の原因だと推定される場合は、社長を中心とした経営幹部層が検討しなければなりません。
根本原因は1つとは限りませんが、それらを特定できたら、あとは不退転の決意で社長が社員全員をリードして、改革していきます。そうすれば、1年後、2年後には、V字回復も夢ではないでしょう。なお、管理職やチームリーダーに原因がある場合、そういう人たちは赤字を改革しようとする際に、いわゆる『抵抗勢力』として、既存のやり方などを維持しようとする傾向があります。そのような場合に、気の弱い社長だと赤字の原因がわかっていながら結局取り除くことができないケースもあります。それは経営者としての責務の放棄です。断固たる決意で、赤字の原因を取り除き、業務改革、組織改革を推進しなければなりません」(82ページ)
私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、大坂さんがご指摘しておられるように、中小企業では、業績を回復するための改善活動が必要と分かっていても、経営者の方や従業員の方が、無意識に現状を維持しようとすることが多いと感じています。とはいえ、この現状維持バイアスは、どんな組織にも働くことなので、改善活動の労力の多くは、現状維持バイアスへの対応に割かれることになるとも言えるでしょう。ちなみに、逆に、業績のよい会社は、現状維持バイアスは小さいと、私は感じています。
なぜなら、業績を高めるためには、経営環境の変化に対応する必要があるので、「業績を高めること=変化すること」と役職員が捉えているからなのだと思います。話しを戻すと、さらに中小企業の場合、役職員数が少ないため、人間的な関係が強く、たとえ1人が改善のために何らかの新たな行動が必要と感じていても、他の人の同意が得られないと、それを実践しにくいという面もあると思います。では、中小企業が現状維持バイアスに左右されず、事業改善を行うようになるためにはどうすればよいのでしょうか?
これも、私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、1つは、経営者自身が変化しようとする意欲を持つことだと思います。業績が悪い中小企業の経営者の方は、顕在意識では現状を変えなければならないと理解しつつ、潜在意識ではなかなか変化を受け入れることができないでいるという例を多く見てきました。それは、中小企業経営者にとって、いままでと違ったことをするということは、自己否定と受け止めてしまうからなのかもしれません。でも、経営者の評価は、業績を高めることで得られるわけですから、変化を拒んで業績を高めることができなかったことの方が、自分の評価を下げることになるということを認識しなければなりません。
そして、2つ目の課題は、大坂さんもご指摘しておられるように、古参の従業員や専門職の従業員などの抵抗に遭うことです。これについては、抵抗する方たちに、変わることの重要性を理解してもらい、そして改善活動に一緒に取り組んでもらうことが望ましいのですが、私の事業改善の手伝いの経験や、他の経営者の方から側聞したことから感じることは、どうしても改善活動を受け入れない方も決して少なくないようです。そういった方に対しては、会社から去っていただくことを経営者として決断しなければなりませんが、そこで、経営者の方も大きな心労を負うことになります。この点については、経営者の役割のたいへんさを私も感じています。
2025/10/17 No.3229
