鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

長期計画に基づきあるべき姿を目指す

[要旨]

経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、事業活動が軌道にのると、これからもこのままうまく行くという慢心が社内に生まれてしまうので、経営環境の変化に対応できなくなり、組織が弱体化してしまう可能性が高くなることから、長期事業計画を立て、それに基づいて、日々、自社があるべき姿になっているか精査し、成長を続けなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、大口取引先に依存しすぎると、その相手に経営の主導権を握られてしまうというリスクがあることから、取引先のトップ1社が占める割合である1社依存率は高くても30%までとし、取引先を分散することが大切だということについて説明しました。

これに続いて、大坂さんは、常に変化するためには、長期事業計画の活用が大切だということについて述べておられます。「中小企業が毎年安定的に一定以上の売上、利益の計上を続けていくことは、なかなかできることではありません。その状態まで会社を育てた社長の手腕は、まず素晴らしいと評価できるでしょう。しかし、そんな会社でも、社長が『これでもう十分だ。あとは、この安定した状態がずっと続けばいい』と思っていれば、そこには大きな危機の萌芽が生じています。

『このままでいい』と考えていては、環境変化に対応したり、より成長を目指したりするための努力をしなくなります。すなわち、新しい事業や商品を開拓すること、社員を教有してレベルアップすること、会社の組織をより効率的なものにすること、社長自身が勉強して経営者としての能力を高めることといった努力を、ないがしろにしてしまうのです。その社長の姿勢は、当然社員にも伝播します。日々の業務の中で、どうすればもっと効率良く仕事ができるか、売上が伸びるかといったことを社員は考えなくなっていきます。

それどころか、どうせ努力をしなくても同じように売上が上がり、同じように給料がもらえるなら、なるベく手を抜いて、疲れないように仕事をしようと考えるようになります。残念ながら、易きに流れるのは人間の性です。そうやって、いい仕事をしようという活気が社内から失われ、少しずつ組織がダメになっていくのです。さらに、社長が現状を良しとしていれば、組織内で不正や不祥事などが発生していても、それに気づかないことがあり得ます。

以前、私たちの塾に入って指導を受けたいといってきた会社がありました。しかし、私がその会社を見にいったところ、現場のオペレーションもほほ完璧、社員教育も行き届いて、社内もぴかぴかに掃除が行き届いでいる。おおむね非の打ちどころがありません。それで私は、『素晴らしい経営をしているから塾に入る必要はない』といったのですが、2年後にその会社で大問題が発覚しました。なんと、社員が取引先と組んで、商品部品を横流しして、私服を肥やしていたのです。

助けを求めてきた社長に『あなたほどの社がどうして不正に気づかなかったのか』と聞いたところ、経営が好調であったために、最近は外部団体の仕事に割く時間が増えて、社内を見る時間が減ってしまっていたとのこと。まさに安定経営での慢心が招いた事態であり、社長に原因があったのです。そんな状態の会社では、何かのきっかけでひとたび事業環境が変われば、坂道を転げるように業績が落ち込んでいきます。また、仮に事業環境上の大きな変化がなかったとしても、だんだんと組織が弱体化し、現場の活力が失われ、製品やサービスの質が悪化して顧客が去り、いずれ衰退の道を歩むことになる恐れが大きいでしょう。

前項目のテーマである『大口顧客が存在するリスク』の2点目が、まさにこの安定しているがゆえの組織弱体化に他なりません。経営を続ける以上、絶対に『これで経営が完成した』などと思ってはなりません。どんなときでも常に、『今の姿は、単なる途中型』なのだと肝に銘じておくベきです。そして、『今の姿が途中型』だと認識するためには、将来の夢や目標・ビジョンと、その夢やビジョンに向かう長期計が必要です。夢を記した長期計画があれば、今はその頂上に向かう3合目にいるのか、4合目にいるのか、はっきりわかります。

事業計画は、(1)遠い将来にこうなりたいという夢やビジョンを描いた超長期計画、(2)そのために10年後にこうなっているという長期計画、(3)3~5年後の具体的な事業、組織の姿や業績目標を記した中期計画、(4)今期(期末なら来期)の業績目標を定めた短期計画が必要です。夢を実現するためには、10年後にはこうなっている、そのために5年後、3年後にはこうなっている、そのために来期、今期はこう行動すると逆算思考で現状に落とし込んでいきます。したがって、年度単位の短期計画は、長期の夢に向かってどれだけ進んでいるかという観点から常に精査しなければなりません。

仮に、短期計画が毎期安定して達成されているとしても、それが長期の夢の実現に沿っていなければ、十分な意義はありません。夢から逆算して現状を捉えれば、短期目標が達成されていても、決して今で十分という気持ちにはならないはずです。まだまだ足りない、もっと伸ぴるはずだし、そのためにやることがいくらでもあるという、食欲なまでに成長を求める気持ちを忘れてはいけません。それこそが、会社を守り育てるエネルギー源です」(62ページ)

これまで私が何度かお伝えしてきましたが、中小企業の9割くらいは、事業計画を作成してません。ときどき、「当社には事業計画がある」と言っている経営者の方もおられますが、その経営者の方の大部分は、頭の中に長期的な構想があるという意味で行っておられるようです。でも、事業計画は、達成すべき計数を明確にされ、それが従業員の方にも伝られ、1か月(または3か月)ごとに、進捗状況を確認しているというところまで実践されていなければ、「事業計画がある」とは言えないと、私は考えています。

少し、話が外れますが、多くの会社が事業計画を作成していない、または、活用していない要因として考えられることは、事業計画を作成する労力がない、進捗状況を把握する労力がないというものでしょう。そして、これはよく言われることですが、事業計画なしに事業活動を行うことは、船が地図(事業計画)や羅針盤(進捗状況の把握)を持たずに航海に出るようなものです。そのような手探りの航海をしていれば、目的地にはなかなかたどり着けずに(効率の悪い経営をしたまま)、ときには難破(倒産)してしまう可能性も高まります。

話しを戻すと、事業計画は、外部の経営環境(外部環境)は、日々、変化しているので、あまり役に立たないと考えられがちですが、大阪さんがご指摘しておられるように、内部の経営環境(内部環境)の変化に確実に対応できるようにするためには効果的なツールです。例えば、事業を拡大(売上を増加)していけば、会社組織も大きくなっていきます。創業当初は10名程度の役職員しかいなかったとしても、売上が5億円、10億円、30億円と増えて行けば、従業員数も20人、50人、100人と増えて行きます。

それにともない、社長も最初はひとりで管理活動ができていましたが、徐々に幹部に委任しなければならなくなり、そして、事業規模が大きくなれば、それだけ精緻な計画づくりや体制づくりに専念しなければならなくなります。大坂さんにご相談に来た経営者の方の経営する会社も、不祥事が起きましたが、私は不祥事を完全に防ぐことはできないとは考えているものの、従業員数が10人のときと同じ体制を続けていれば、従業員数が100人になったときに不祥事は起きやすくなると思います。

したがって、単に売上増加に対応して従業員数を増やすだけでなく、管理体制も計画的に整備する必要があるわけですが、事業計画がなければ、管理体制の整備は後回しにされてしまいがちです。そして、先ほど、事業計画を活用していない会社の理由として、事業計画を策定したり、定期的な検証を行うことの労力がかかったりするということを述べましたが、実際には、船が地図と羅針盤を活用して航海するのと同様に、事業計画を活用する方が、最短距離で効率的に事業を拡大することができると、私は考えています。

2025/10/13 No.3225