[要旨]
経営コンサルタントの大坂靖彦さんによれば、商品の価格を値上げすれば、利益率を改善することはできますが、自社が儲けたいという一方的な値上げをすると、長期的には顧客が離れて行ってしまうので、顧客が値上げを納得してもらえるよう、商品の価値を高めたり、ブランドを高めたり、顧客からの難しい要望にも応ようと努力をしたりするという対応も欠かせないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの大坂靖彦さんのご著書、「中小企業のやってはいけない危険な経営」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大坂さんによれば、経営者の方の中には、仕入値の引き下げを仕入先に強要して利益を確保する人もいますが、それは短期的には利益を得ることができても、長期的には、仕入先からの協力を継続して得ることができなくなり、自社の事業も継続できなくなるリスクが高まるため、自社の都合だけを優先せずに、仕入先とともに事業を発展させていくという考え方で経営に臨まなければならないということについて説明しました。
これに続いて、大坂さんは、収益率を高めるためには値上げをしなければならないものの、そのためには商品の価値も高めなければならないということについて述べておられます。「粗利率を上げるには、原価を下げるだけではなく、商品やサービスの販売価格(売価)を上げる方法もあります。同じ原価で売価を上げれば、当然粗利率は上がります。売価の値上げは、手続きだけで見れば、原価を引き下げるよりはるかに簡単です。原価を引き下げるためには、仕入れ先や協力会社などとの価格交渉が必要であり、相手に納得してもらわなければ不可能です。
相手が協力会社であれば、強引かつ一方的な引き下げができると思われるかもしれませんが、さまざまなトラプルの原因となるので、やめたほうがいい行為です。一方、売価は自社が自由に決められるものですから変更は簡単です。BtoCの業種であれば、値札を書き換えればいいだけのことです。BtoBの場合は相手との交渉は必要ですが、それでも、これからうちはこの価格で納品したいと通告すること自体は簡単です。実際、オリジナリテイが高く代替品が見つかりにくい商品や、個別性のある無形サービスなどを提供しているのであれば、BtoCでも、BtoBでも、値上げは可能でしょう。
そして、値上げをすれば短期的には粗利率が上がります。しかし、差別化ができていてオリジナリティが高い商品といっても、代替商品や代替サービスがまったく存在しないということは、普通あり得ません。また、市場規模にもよりますが、二ーズが高い商品であれば競合他社が必ず参入してきます。そのため、その値上げが単に粗利率を上げたい、要するに『もっと儲けたい』という、自社の勝手な都合『だけ』の理由で行われていると顧客が感じれば、中長期的には必ず多くの顧客が離れていきます。
誤解してほしくないのですが、私は『値上げをしてはダメだ』ということをいいたいのではありません。顧客から認められ、受け入れられる値上げならしてもいいのです。つまり値上げをしても『今まで通りにあなたから買うよ』と、顧客にいってもらえるような値上げです。値上がりの分だけ、商品やサービスの価値が向上していると顧客が感じられるのであれば、値上げは受け入れられます。(中略)例えば、小売店なら、店員がいつでも感じ良く笑顏で接客してくれる。客の無理な注文にも一生懸命応えようとしてくれる。こういったことだけで、地域でのプランド力はグンとアップします。
そして、それが値上げを受け入れてもらえる素地にもなるのです。『あの店は値上げしたけど、サービスが良くなった』、『店員の感じがいいから、少し高いけどあそこで買おう』と思ってもらえるということです。これは一例ですが、値上げに見合うだけ商品やサービスの価値を向上させたり、ブランド力を高めたりすれば、値上げができるのです。逆にいえば、それらがないまま自分の都合だけで値上げをすれば、顧客離れが進み会社は衰退の道を歩むでしょう。価格はあくまで顧客が納得できるかどうかによって決められるものだ、ということです」(48ページ)
大坂さんのご指摘の主旨から少しはずれるのですが、私は、いまの日本では、価格を上昇させるよい機会を迎えていると思っています。それは、長い間、デフレが続いてきた状況において、それが終わろうとしているからです。これは、もちろん、消費者の立場からは歓迎できるものではありませんが、日本の物価は低すぎると思います。例えば、2025年1月に公表されたビッグマック指数は、米国が5.79ドルであるのに対し、日本は3.11ドル(480円)で、日本のビッグマックは、米国よりも約46%安いということになります。
ビッグマック指数を妥当な物価の根拠にすることには疑問の余地はあるものの、日本のビッグマックの価格が米国の半額近いということを考えれば、日本の物価が安いと断言してもよいと私は考えています。そして、大坂さんは、「価格はあくまで顧客が納得できるかどうかによって決められる」とご指摘しておられ、私もその通りだと思いますが、日本の製品の物価が10%程度上昇しても、それを困ると感じる人はいても、不適切と指摘する人は少ないのではないでしょうか?
もちろん、「顧客が納得できる」価格以上に値上げすることは問題ですが、現在の販売価格が顧客が納得してもらえる価格より低ければ、値上げはすべきでしょう。例えば、日本ではなかなか1,000円以上の価格をつけにくいと言われているラーメンは、日経ビジネスの記事によれば、ニューヨークでは2,000円~4,000円の高級な料理として評価されているそうです。これは、裏を返せば、日本に来る外国人向けに、2,000円のラーメンを提供しても、決して不満は出ないということになります。
また、東京都港区にある、酒類販売業の株式会社善波のホームページによれば、日本酒は米国では日本での価格の約3倍で販売されているそうです。よって、日本酒については、国内市場だけではなく、海外市場の状況も参考にすれば、もっと価格を上昇させる余地があると思われます。結論としては、自社製品の価格の妥当性を見直すことで、利益率を高めるチャンスを見つけることができるのではないかと、私は考えています。
2025/10/11 No.3223
