[要旨]
弁護士の向井蘭さんによれば、人は、自分の好き嫌いや、やりたいことをやりたいという考えを経営判断に反映してしまいがちですが、それが必ずしもよい結果をもたらすとは限らないため、例えば、人事評価は人工知能に基づいて行うことの方がよい結果をもたらすということです。
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労働法に詳しい弁護士の向井蘭さんのポッドキャスト番組を聴きました。番組では、リスナーの方からの、人工知能で人事評価を行うことは違法にはならないかというご質問に、人工知能はツールにすぎず、その結果は会社の判断になるので、適法になるというものです。ただし、私は、向井さんの人工知能の活用に関する考え方に注目しました。というのは、向井さんの事務所の採用において、印象のよい人であっても、適性検査の数値が低い人は、採用しても長続きしないことが多いものの、印象に残らない人であっても、適性検査の数値が高い人は、採用後に活躍することが多いということです。
すなわち、人の印象で判断すると、必ずしもよい結果を招くとは限らないということだそうです。というのは、人は、自分の好きなものを高く評価したり、自分のやりたいことをやろうとしたりするからだということです。その一方で、自分の好きではないものを評価できなかったり、自分のやりたいことができなければ、会社経営に面白みを感じなくなってしまいます。これは、私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験からも感じるのですが、会社経営をする人の多くは、自分のやりたいことをやるために起業をしています。
逆に、自分のやりたいことをやれないのであれば、起業する意欲はなくなってしまうでしょう。ところが、向井さんは、人の好き嫌いを事業に持ち込むことは好ましくないとご指摘しておられるわけです。では、どうすればよいのか、これは少し難しい問題だと、私も考えています。これについて、私は、経営コンサルタントの望月広愛さんの「バスの運転手」に関する考え方が、会社経営についてどう考えるべきかというヒントになると思っています。望月さんは、ご著書、「文句ばかりの会社は儲からない」の中で、次のように述べておられます。
「本来、リーダー足るべき人、評価されるべき人は、良いバスの運転手に例えられます。私はこのことを、北九州でバグジーという美容室を経営しでおられる久保華図八さんという社長さんから教わりました。良い運転手とは、乗客に安全ですてきな景色と楽しい時間を過ごしてもらえることに喜びを感じてみんなと旅する人です。運転手が、皆と同じように、ビール片手に良い景色を見たいなあと思ったり、眠りたいと思ってしまってはいけません。
すなわち、リーダーとは『みんなの喜ぶ顔を見たい』と思っている運転手のような人です。また、逆に運転手が乗客に『あなた達が運転しろ』とか『おれのような運転手になることを目的に頑張れ』なんていうのはおかしなことです。良い運転手の後ろ姿を見ていると、自然に『私もあのようなみんなの役に立つ人になりたい』と旅人たちが感じるようになります。これこそが尊敬される人であり、真のリーダーです」(153ページ)
私も望月さんの考え方と同じように考えていますが、すべての経営者の方が同じように考えているわけではないと思いますし、また、経営者はすべて「運転手」でなければならないということではないと思います。ですから、これについては、経営者の方自身の判断によるところだと思います。ただ、これからの時代は、会社の組織的な活動の良し悪しが業績を大きく左右する時代になっていると思います。そのような観点からは、「運転手」タイプの経営者が評価される時代だと考えています。
2025/10/9 No.3221
