[要旨]
日経BP社記者の神農将史さんによれば、カイゼン活動は、そもそもが製造現場から生まれた考え方なので、オフィスワークとは関係がないと考えられがちですが、例えば日報のような定型化された資料、月末・月初にやるだろう請求書の作成や経費精算といった業務はルーティン化されているので、効率のよい方法をマニュアル化して周知し、ときには習熟度を測る研修などをすることで成果が上がるので、オフィスワークに対しても積極的にカイゼン活動を行うべきだということです。
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今回も、前回に引き続き、日経BP社記者の神農将史さんのご著書、「後継ぎ経営者のための70点経営-地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、神農さんによれば、カイゼン活動は在庫量を減らしたり、リードタイムを短縮したりするので、資産を少なくして効率性を高めたり、利益を増加して収益性を高めたりしますが、このような活動は、設備投資のように支出がないので、仮にうまくいかなかったときの損失がない、すなわち、リスクのない活動だということについて説明しました。
これに続いて、神農さんは、オフィスワークでカイゼンが浸透しにくい理由について述べておられます。「オフィスワークを中心とした現場に話を移そう。こういった現場でカイゼンが浸透しにくい理由はいくつかある。第一は、そもそもが製造現場から生まれた考え方なので、『オフィスとは関係がない』と多くの人が思っている点にある。
もう1つが、仕事の仕方の違いだ。オフィスワークでは、『この現場で1日に何をどれだけ生産するか』という目安が見えにくいのだ。常に同時並行で複数の仕事があり、取引先の事情などもあり、予定が前後するど、『待ち』の時間もあれば、『巻き』で作業する必要も出てくる。工場でとのような事態があれば『異常』として特別扱いされる。しかし、オフィスワークでは織り込み済みのものとして扱われている。
工場では、『この生産ラインをカイゼンしよう』となれば、その生産ラインの稼働時間が8時間、配置人数は5人、製品Aなら1時間当たり100個、製品Bなら1時間当たり80個生産できる、といった基準がある。こういった基準を基に、例えば、『生産量を維持しながら、配置人数を5人から4人に削減するにはどうしたらいいか』、『製品Bの生産量を1時間当たり100個に引き上げるにはどうしたらいいか』といった形で具体的な目標が定まっていく。
仮にこのような数字を明確に持っていなくても、生産実績から逆算すればおおよそ分かる。工場以外でも、飲食店や保育園などであれば、『5人のシフトを4人でできるようにするにはどうするか』など、1日単位や半日単位での明確な指標がある。分かりやすいゴールを設定することで、付加価値を生む作業とそうではない作業の分離が進めやすくなる。
『付加価値を生まない作業』とは、例えば『製品が移動するだけ』、『人が材料や工具を持ってくるだけ』といった作業を指す。作業方法や材料・工具の置き場を工夫して、これらの時間をゼロにしたり、半分にしたりしていくことが基本になる。もちろん、オフィスワークでもルーティン業務はある。例えば営業用資料の印刷や封入、発送の作業をする場合、それに投入している作業時間を出し、外注した場合の費用と見比ベてみるといい。
逆に、外注している作業の中で割高に思える作業を内製化したらどうなるかを試算してみることも有効だ。それだけでカイゼンにつながるケースは多い。他にも、日報や週報のような定型化された資料、月末・月初にやるだろう請求書の作成や経費精算といった業務は、書き込む内容に差はあったとしても、作業そのものはルーティン化されている。効率のよい方法をマニュアル化して周知し、ときには習熟度を測る研修などをすることで、如実に成果が上がる。
これらは、『日・週・月単位で必ずやらなければいけないこと』なので、工場での作業のように、『何をすればいいか』、『どうすると早く、間違わずにできるか』といったカイゼンがやりやすいのだ。仮に1人1回10分程度の削減でも、毎月の作業なら年に1人当たり2時間。社員数が100人いるなら合計200時間だ。残業時間削減に苦しんでいる会社などからすれば、かなりありがたいものではないだろうか」(97ページ)
オフィスワークの成果物は、ほとんどが無形であることから、かつては、製造現場のようなカイゼン活動を行うことはなじまないと考えられる傾向にありました。しかし、経済のサービス化、すなわち、生産活動に占めるサービス業の割合(現在の日本ではGDPに占めるサービス業の生産額の割合は約4分の3と言われています)が増加してくると、従来の考え方では、カイゼン活動の対象となる生産活動は減少してしまうことになります。
そこで、カイゼン活動を無形の成果物の生産活動も含めて行うことは、競争力を高める観点から適切と言えます。むしろ、競争力の要因のうち、有形の部分に占める割合よりも、無形の部分に占める割合が高まっており、無形の成果物の生産活動にこそ注力すべきです。神農さんのご指摘とは少し趣旨がずれるのですが、私は、すかいらーくグループの配膳ロボットの導入による成果に注目しています。
東洋経済オンラインの記事によれば、すかいらーくグループでは、3,000台の配膳ロボットを導入していますが、これにより、スタッフの歩行数が42%減少したそうです。そして、週末などのピーク時に勤務するスタッフを増やしても、配膳ロボットによって作業効率が高いことから、回転率が上昇し、収益に貢献しているそうです。
ここまでは、生産性の効率化の効果です。この他に、スタッフの負担が減少したことから、接客サービスの向上のためのトレーニングを実施できるようになったり、重い料理を持って歩く作業が減ったので、65歳以上のシニアスタッフが、2025年は2021年の2倍に増加したり、ロボットの操作が簡単なので、障害者、外国人スタッフにとっても働きやすくなったり、新人がフロア業務を習得する期間が短くなったりしているそうです。
これらのことから、私は、無形の成果物の生産活動に対するカイゼン活動は、かつては間接的に競争力の向上に貢献するという位置づけでしたが、現在は、直接的に競争力を高める活動になっていると考えることができると思っています。ですから、オフィスワークに対してこそ、私は積極的にカイゼンを行うべきだと考えています。
2025/10/6 No.3218
