鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

カイゼンは投資が少なくリスクはゼ口

[要旨]

日経BP社記者の神農将史さんによれば、カイゼン活動は在庫量を減らしたり、リードタイムを短縮したりするので、資産を少なくして効率性を高めたり、利益を増加して収益性を高めたりします。そして、このような活動は、設備投資のように支出がないので、仮にうまくいかなかったときの損失がない、すなわち、リスクもない活動だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、日経BP社記者の神農将史さんのご著書、「後継ぎ経営者のための70点経営-地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、神農さんによれば、かつて、カイゼン活動に徹することで業績を高めている会社を取材したとき、カイゼンによって低価格・翌日納品を実現しており、それを自社の高い技術と組み合わせることによって競争力が高くなるということが分かったということについて説明しました。

これに続いて、神農さんは、カイゼン活動は財務面によい影響を与えるということについて述べておられます。「カイゼンの成果は決算書に表れやすいため、損益や資金繰りの改善に即効性がある。また、数字で分かるため、関係者の士気向上に効果がある点も魅力的だ。活人(『人をより活かす』ために(カイゼン活動に関する第一人者の経営コンサルタントの)山田氏はこう呼ぶ、基本的な概念は省人化と同じ)は損益計算書(P/L)における人件費の減少に直結する。

原料・仕掛かり品・完成品在庫が減れば貸借対照表(B/S)上の同様の項目がそれだけ減る。不要な仕掛かり品や在庫、生産設備の整理が進めば、今までより小さなスペースで同じ生産量を確保できる。その結果、複数の設備の間を行ったり来たりしていた人が移動する時間が減り、さらに生産性は高まる。何しろ、移動している時間は、製品は何も変化をしていない。つまり、製品の購人者に対して、付加価値を一切提供できていないのだ。

加工されたり、梱包されたりと『製品そのものの状態が変化する』ことでしか、付加価値は増えない。この当たり前の事実に気付けるかどうかは、カイゼンを進める上でとても重要だ。また、仕掛かり品や生産設備が減ることで工場にスペースができたため、借りていた倉庫や工場を返し、年間数百万円の賃料を浮かせてしまう会社もある。自社工場を丸ごと空けることができれば、他社に貸してもいいし、いい買い手がいれば手放してもいいだろう。

貸したり売ったりせず、今まで外注していた作業を内製化すれば一層の経費節減になるし、外注先と製品をやり取りするよりも、自社工場内でやり取りするほうが圧倒的に早いため、生産にかかるリードタイムも短くなる。そうすれば、現場の負担なく納期を早めることもでき、より競争力が増す。もしくは新商品・新規事業向けのスペースとして使えば、新たな売り上げを生み出す拠点となる。練習用の設備を置いて、人材教育用のスペースにしてもいい。

そして何より、カイゼン活動は景気や取引先の状況といった外部要因に左右されにくい。大掛かりな設備投資が想定通りの成果を上げるためには、計画通りの受注が求められる。それはつまり、景気や主要販売先の動向に左右されるという意味だ。このような大型投資が空振りして借入金の返済に苦しみ、自己破産や民事再生を余儀なくされた会社は、枚挙にいとまがない。カイゼンは投資金額が少なく、どんな状況でもそのまま成果になる。リスクはゼ口といっていい」(95ページ)

カイゼン活動の大きな部分は無駄の削減を占めるので、カイゼン活動を進めて行けくことで、神農さんがご指摘するように、財務面に良い効果が表れることは当然のことです。むしろ、カイゼン活動は、財務面の効率性を高める活動でもあるということができると私は考えています。なぜなら、無駄の発見は、財務情報を利用するからです。例えば、神農さんは、在庫量を減少するカイゼン活動について述べておられますが、在庫量やリードタイムは、財務情報で把握します。

ところが、カイゼン活動を行おうとする会社で、在庫量やリードタイムをすぐに把握できないことがあります。というのは、実地棚卸を年に1回しか行っていないと、現在の在庫量は、帳簿から計算する(これを、実地棚卸に対して、帳簿棚卸といいます)か、その場で実地棚卸をするしかありません。また、帳簿上の在庫量も、入庫記録や出庫記録を迅速に記録していなければ、帳簿棚卸や実地棚卸もできません。(実地棚卸は、帳簿上の在庫量と実際の在庫量を照合する作業なので、帳簿上の在庫量が確定していなければ実施できません)

ここまで在庫を中心にカイゼン活動について説明してきましたが、カイゼン活動は財務情報をタイムリーに把握できる体制が前提になっています。したがって、少なくとも、月次決算を実施していなければ、カイゼン活動は実践できないか、または、実践できるとしても限定的なものとなります。このような観点からも、月次決算は事業活動の競争力を高めるためには重要なツールということができます。

2025/10/5 No.3217