[要旨]
日経BP社記者の神農将史さんによれば、かつて、カイゼン活動を徹することで競争力を高めている会社を取材したとき、カイゼンによって、低価格・翌日納品を実現しており、それを自社の高い技術と組み合わせることによって競争力が高くなるということが分かったそうです。したがって、技術を高めることも重要ですが、あわせてカイゼンを行うことが効果が大きいということです。
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今回も、前回に引き続き、日経BP社記者の神農将史さんのご著書、「後継ぎ経営者のための70点経営-地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、神農さんによれば、岐阜県関市の機械要素部品メーカーの鍋屋パイテック会社は、20年前から、会社が指定した資格を取得すると毎月手当を出すという制度を導入しているそうですが、これは、1つの専門性だけだと便利屋になるだけなので、プラスアルファの能力を身に付けてもらうと唯一無二の人材になるという考え方によるものだということについて説明しました。
これに続いて、神農さんは、カイゼン活動の重要さについて述べておられます。「そもそも、他社と全く同じものを他社より安く、もしくは早く作れれば、その分多くの受注と利益を得られるだろう。価格や納期の優位性で勝つためには、カイゼンが欠かせない。実際、下請け企業に厳しい環境とされる自動車部品製造の世界でも、特別な学歴や技術を持った人材を採用するわけでも、特注品の生産設備を使うわけでもない部品メーカーが、高い利益率を出している事例を取材したことがある。自動車部品の世界では安定供給のために、特許などが絡んでいるものを除き、2社以上のメーカーに同じ部品を発注する。
そもそも、図面や資材をメーカーが用意しているケースも多い。この時点で製品の特殊性もなにもあったものではない。にもかかわらず、『2社購買、3社購買でも一向にかまわない。他の会社が赤字になるから作れないという価格でも、うちは十分に利益が出る』とその社長はうそぶくのだ。これこそ、カイゼンが進んだ会社の理想的な姿の1つだといえる。この会社以外にも、『翌日納品』などを売りにして、多くの製造現場から重宝されているメーカーはたくさんある。他社ができないのに自社だけ即納できるといった体制は、製造や在庫管理方法を地道にカイゼンし続けることでしか実現できない。
また、社内で積み上げたカイゼンのノウハウは横展開がしやすいし、会社の社風や現場の能力・姿勢があってこそ実現できるため、『あの会社は力イゼンで儲かっているらしい』と知られたところで、そう簡単に模做できない。ここまで読んでもらえれば、特別な商品・サービスの開発とカイゼンの両方を並行して進めるのが最適解だとお分かりいただけたはずだ。カイゼンを積み重ねることで、売れるときにはより利益を増やし、逆境のときには利益の減少を最低限に食い止める」(93ページ)
神農さんは、「カイゼン」の意味について言及はしておられませんが、トヨタの生産活動の中で生まれた考え方であることは広く知られています。私は、かつて、トヨタのOGで、経営コンサルタントの石井住枝さんから、「カイゼン」について教えていただいたことがあります。彼女によれば、「『改良』とは、投資をしたり費用をかけたりして、現状をよりよくすること、『改善』とは、問題点を解決すること、そして、『カイゼン』とは、現状に問題があるかどうかにかかわらず、費用をかけないよう工夫して、現状をよりよい状況に持っていくこと」だそうです。カイゼンについての説明はここまでとしますが、詳しく知りたいという方は、石井さんのご著書、「世界一シンプルで世界一成果が出るトヨタ流仕事の教科書」をお読みいただきたいと思います。
話を本題に戻すと、多くの経営者の方は、神農さんがご指摘するまでもなく、カイゼンは大切だとお考えだと思うし、すでに、自社でもカイゼンは可能な限り実施しているとお考えだと思います。私も、カイゼンの努力をしていない会社はまったくないとは思いませんが、そのような倣慢経営をしている会社は例外的な存在だと思います。しかしながら、神農さんが取材した会社のように、他社よりも優れたカイゼンを実践して、競争力を高めている会社も存在します。では、カイゼンが奏功している会社と、そうでない会社は何が違うのかというと、私は、その直接的な回答は持っていません。
しかし、例えば、QCサークル(小集団活動)や5S活動(会社によっては「環境整備」と呼んでいる会社もあるようです)を実践している会社と実践していない会社では業績に差が現れる傾向があるようです。ここで、「QCサークルや5S活動がよいことは分かっているけれど、それを実践するための余力がない」と考える経営者の方も少なくないようです。私もその気持ちは理解できますが、例えば、5S活動のためにかけた労力で、その労力以上の労力を減らすことができると考えれば、少しだけでも5S活動を実践してみようという意欲が高まるのではないかと思います。
しかも、5S活動は、例えば、「退社するときは机の上に何も置かない状況にしておく」といった、簡単なことから始めることができます。そして、効果を感じることができれば、活動の範囲を徐々に広げていくことで、5Sを本格的に実践できるようになります。こう考えると、カイゼンを実施できるかどうか、そして、業績を高めることができるかどうかというのは、最終的には経営者の意思の強さに帰すると言えるのではないかと、私は考えています。
2025/10/4 No.3216
