鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

月次決算で従業員も業績が自分ごとに

[要旨]

日経BP社記者の神農将史さんによれば、横浜市の住宅リフォーム業のさくら住宅は、創業以来の業績が優れ、従業員への高い報酬などで知られているそうですが、同社は創業者が経営する頃から、翌月1週目にはほぼ正確な月次決算を出し、朝礼で全従業員に配布しているそうです。これにより、経営陣は業績を早く知ることができ、迅速な対応ができるほか、現場も自社の業績を知ることで、会社の状況が自分ごとになるメリットがあるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、日経BP社記者の神農将史さんのご著書、「後継ぎ経営者のための70点経営-地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、神農さんによれば、中小企業では月次決算を作成・業績確認が行われていないことが多いですが、月次で管理を行えば、迅速に自社の課題を発見しやすくなるので、事業改善に大きく資することになるということについて説明しました。

これに続いて、神農さんは、月次決算を活用している会社の事例について述べておられます。「月次決算の質を高める方向性の1つは『早さ』。横浜市でリフォーム業を展開するさくら住宅は、翌月1週目には月次決算を完了し、朝礼で全従業員に配布する。経営陣だけでなく現場も知ることで、会社の状況が自分ごとになるメリットがある。経営状態を早く知ることができれば経営者は楽になる。早ければ早いほど、伸びしろがあるならばより伸ばすことができるし、うまくいっていないのであれば、傷が浅いうちに原因分析や対策を検討できる。

横浜市で住宅リフォームを手掛けるさくら住宅は、創業以来の優れた業績と、従業員への高い報酬などで知られる。そんなさくら住宅は創業者の頃から、翌月1週目にはほぼ正確な月次決算を出し、朝礼で全従業員に印刷して配布している。変動があった項目などは、小林久祉社長自らが朝礼で説明をする。ここではさくら住宅の事例を参考に、どういったスケジュール感で管理すると、いつごろに月次決算を出せるのかを紹介する。

なお、さくら住宅の『翌月1週目に月次決算を出す』は特別優れた取り組みなので、『これができないならやる意味がない』などとは絶対に考えないでほしい。先ほど紹介した、『翌月25日に出す』ができれば、70点どころか80点くらいの価値がある。2025年2月7日、さくら住宅は朝礼で1月分の月次決算を従業員に公開した。前日に小林社長が税理士とやり取りした際に使用したP/L、B/Sをそのまま印刷し、配っている。他にも、売上高の前年同月比やその月までの累積を比較する資料、各従業員の受注件数を比較する資料など、定型化したものを複数配布していた。

これらの資料の集まりは、まさに管理会計の典型といえるものだ。売上高や利益に関する話を、小林社長は10分ほどかけて従業員に説明した。さくら住宅で経営陣が確認している月次決算資料は、会計ソフトから出力されるものをそのまま使っている。年商10億円を超えるさくら住宅でも、経営状態を把握するには問題がないという。かなり早い時期に月次決算を出しているものの、小林社長は『創業者の頃からやっているため、現場で働いていた頃も、社長になってからも特別負担には感じていない』と語る。

既に確立されたスケジュール感の中で現場や取引先が期日までに処理をし、それらを経理などが取りまとめている。カレンダー上の休日の配置などによって数日ずれる程度だ。このスケジュールを決める際には、集まった伝票や請求書を整理する最終工程に位置する経理部門の作業スケジュールからの逆算が大切になる。月次決算を早く出す際にボトルネックとなるのは大きく2つ。現場が使用した経費の入力が1つ目だ。さくら住宅では営業活動で使用したコインパーキングの支払いや現場工事で急ぎ必要になってホームセンターで購入した備品などがそれに当たり、当月内に取りまとめるように社員に指導している。翌月1日に経理がすぐに作業できるようにするためだ。

2つ目が、仕入れ先からの請求書の取りまとめだ。リフォームを施工する会社や職人に請求書を作成・提出してもらう必要がある。こちらは翌月5日までの提出を依頼し、届かないようなら提出を促す電話をするなどして集めている。こちらも一度習慣化すると、大きなトラプルはないようだ。これらは、中途入社した社員は、前職とのスケジュール感の違いに戸惑うかもしれない。新しくさくら住宅と取引を始めた会社も同様だ。それでも、一度習慣化してしまえば、苦にはならないだろう。

それ以外の人件費・家賃・水道光熱費・税金どは支払実行日などが一定のため、一度『電気代は毎月20日に発生するものを当月中の経費とする』といった約束事を決めてしまえばいい。もし月次決算が終わった後に申告漏れや誤りが発覚した場合にはどうするか。会計ソフト上での修正はもちろんするが、月次決算の出し直しなどは原則不要だ。速報性が大切であると同時に、B/Sやキャッシュフロー計算書(C/F)では、次月分に反映されるからだ。ざくら住宅は月次決算を実施している会社の中でも特別早いケースだ。

後述する古田土会計では、毎月15日に月次決算を出すことを目標として顧問先の会社に提示している。それでも、実際に15日に出せている会社は少数派だというだから、これを読んだ皆さんはいきなりさくら住宅基準を目指さず、これから導入する会社はまず翌月25日、既に25日に出せているところは20日にするなど、少しずつ早くすることを目標にしていけばいい。

月次決算の内容についてはさくら住宅と同じく、最初は会計ソフトから簡単に出力できる財務会計ペースのものでいい。それだけで月次のP/L、B/S、C/Fを得られる。複数の事業が絡み合っていたり、資金繰りが逼迫していたりしなければ、これで十分な精度がある。現にさくら住宅は十分な財務基盤があり、金融機関からの借り入れも少ないため、『あまりC/Fを気にしたことがない』と小林社長は話す」(18ページ)

このさくら住宅の事例からは、学ぶべき点がたくさんあると感じています。その中で、いくつかを述べると、まず、神農さんが「これから導入する会社はまず翌月25日、既に25日に出せているところは20日にするなど、少しずつ早くすることを目標にしていけばいい」とご指摘しておられますが、まず、月次決算を実施してみることが大切だと思います。ただ、月次決算ができあがる日が、翌々月上旬のように、1か月以上かかってしまうと、意味が薄れてしまうので、まず、翌月25日を目標として実施していただきたいと思います。

2つ目は、P/L、B/S、C/Fのすべてではなく、P/Lだけ、それも難しい場合は、P/Lのうちの売上高と売上原価と売上総利益だけを、翌月上旬まで作成してみることをお薦めします。一般的に、販売費及び一般管理費は賞与や決算整理仕訳を除き、大きな変動はないので、売上高と売上原価と売上総利益を毎月確認するだけでも、月次の業績の確認の効果を実感することができます。そして、これだけでは物足りないと感じてきたら、販売費及び一般管理費も含めて作成し、次はB/S,そして、C/Fまで広げていくという手順でもよいと思います。

ところで、月次決算の作成は、さくら住宅の事例からもわかる通り、労力がかかるということは事実です。そこで、「早く帳簿付けを行うことに労力をかけるならば、売上を増やすことの方に労力をかけた方がよい」と考える経営者の方も多いようです。私も、かつては、「どんぶり勘定」でも、経営者が懸命に営業活動に励むことで業績が向上するという時代があったと思います。しかし、現在は、経営環境の変化が激しく、また、ライバルとの競合も厳しくなってきているということを考えると、業績を迅速に把握し、より適切な経営判断や改善活動を行うことの効果が高くなってきていると考えています。

また、さくら住宅の事例では、「経営陣だけでなく現場も知ることで、会社の状況が自分ごとになるメリットがある」と神農さんがご指摘しておられるように、従業員の方に能動的に活動してもらえるようになるという大きなメリットもあります。そして、さくら住宅自体が、「創業以来の優れた業績と、従業員への高い報酬などで知られ」ているというように、月次決算の高い効果を示しています。そこで、まだ、月次決算を行っていない会社には、5年以内を目標に、さくら住宅のような月次決算を実施できるように、徐々にでも月次決算を導入することをお薦めします。

2025/9/30 No.3212