鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

月次決算が最もシンプルな管理活動

[要旨]

日経BP社記者の神農将史さんによれば、中小企業では月次決算を作成し、経営者の事業管理に活用するということが行われていないことが多いが、月次で管理を行えば、年に1回しか業績を確認しない場合と比較して12倍の頻度で業績の確認を行うことになるので、自社の課題を発見しやすくなり、これだけでも事業改善に大きく資することになるということです。


[本文]

日経BP社記者の神農将史(かみのまさし)さんのご著書、「後継ぎ経営者のための70点経営-地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる」を拝読しました。神農さんは、同書で、月次決算の重要さについて述べておられます。「月次決算の具体例に進む前に、まず管理会計とは何かを定義する。月次決算は管理会計の1つであり、管理会計の考え方を知ることが、月次決算導入の心理的ハードルを下げると筆者は考えている。管理会計とは、『財務会計』と対になっている言葉。

財務会計は会社であれば年に1度必ずやっている、決算書を作成する際に用いる会計手法を指す。管理会計とはシンプルに言えば、『会社の経営状況を把握するための、財務会計以外の指標を作成すること』となる。どの会社も何かしら使っているだろう会計ソフトは、財務会計をするために作られている。これらの会計ソフトから取り出せる1か月単位の損益計算書(P/L)や、月末や月初時点での貸借対照表(B/L)などを参照することが、最もシンプルな月次決算のやり方であり、同時に最もシンプルな管理会計となる。

この管理会計の定義に合わせると、『特定の新商品の月次販売個数の確認』、『特定の部署の残業時間数の推移の確認』なども管理会計となる。具体的な数字を一定期間ごとに追いかけるものは、すベて管理会計と考えていい。月次決算とセットで考えるためここでは月ごとに追いかけることとしよう。実は、財務会計ベースの月次決算を出すだけであれば、すぐに出すことができる。

ほぼすベての会計ソフトには標準的な機能として、月次決算を出す仕組みがあるからだ。これは、一度でも自身で会計ソフトを触ったことがある経営者には当たり前の話だが、ある程度の規模の会社を引き継いだ後継者の中には、知らない人もいるだろう。唯一のハードルは、『1月の売り上げや経費は1月に計上する』という、これもやっている会社や経営者からすれば当たり前の処理ができるかどうかだ。これが完了しないと、月次決算を出せない。

現在は毎月提出してくれていない税理士でも、『月次決算を確認したいから出すようにしてほしい』と言えば、ほとんどの場合は出してくれるはずだ。もしそれずらも出してくれないのであれば、私としては、顧問税理士の交代を考えるベきだと思っている。これだけで、1年に1度の決算のみの場合に比べて、業績を確かめる頻度が12倍になる。仮に、毎月きちんと見ないとしても、課題が発覚した際の分析資料として有用だ。

そのためにも、『毎月決まったタイミングで出す』ように習慣化してほしい。毎月、会社の健康診断をして、診断結果を保管しておくようなものだ。そもそも、売上高や営業利益が想定の範囲内であれば、月次決算を実施している経営者でも精査をしないケースが多い。売り上げや利益に想定外の増減があったときなど、何らかの変化が起きたり対策が必要になったりしたときに活用するものだ。『作ったからには詳細に分析をしないといけない』などと自ら高いハードルを設ける必要はない。

最初は会計ソフトが出力するものや、税理士が出してくれたものをそのまま見るようにすればよい。そして、月次決算をより経営に役立たせようとする場合に改善を考える。改善の方向性は大きく2つ。1つが早さの改善。もう1つが中身の改善だ。ただ、欲を出していくと切りがない。これから月次決算を導入しようと考えている会社はまず、翌月5日までに出せる体制を整えてほしい。従業員と月次決算の内容を共有する会社も多い。

ただ、『開示するかどうか』、『どの項目を開示するか』、『どんな見せ方をするか』については、まず経営者が見るようになってからでいい。それらを検討して立ち止まる前に、とにかく出してみてほしい。税理士か経理担当に『月次決算を出して』と言えば、その日のうちに出てきてもおかしくないくらい簡単なのに、経営の実態を確認するのにこれほど効果的なツールはなかなかない。

本書の後半でも紹介するが、経営不振に陥った会社を立て直す場合、最初にするのは月次決算の導入だ。中小企業の場合は、そもそも月次決算をしていないために経営状態が分かっていないケースが多く、大企業の場合は、導入していても実態と合っていないケースが多い。ないなら導入し、実態と合わないなら正しく整えるだけで、経営状態を正しくつかみ、再建に役立てている」(12ページ)

本旨からそれますが、私は、月次決算は財務会計であると考えています。なぜなら、決算書の会計期間が12か月であるのに対し、月次決算の会計期間は1か月であるというだけで、報告される項目は同じだからです。それにもかかわらず、12か月の決算書は財務会計で、1か月の月次決算は管理会計ということは整合性がとれないと私は考えています。

とはいえ、月次決算は、多くの場合、外部に公表されることはなく、経営者が管理活動のために使われていることは事実です。神農さんは、月次決算が使われる目的に基づいて、管理会計に分類したのではないかと思います。そして、この件は、私の考えと神農さんの考えのどちらが正しいかを議論してもあまり意味はなく、月次決算が重要であるという点では、私も神農さんと同じ考えなので、ここまでとしたいと思います。

話しを戻すと、神農さんが、「中小企業の場合は、そもそも月次決算をしていないために経営状態が分かっていないケースが多い」とご指摘しておられますが、経営者が自社の業績を把握していなければ、会社の舵取りの役割を担うべき経営者が、経営者の役割を果たすことができないということを認識しなければならないと思います。

これに対して、「月次決算を見なくても、会社の業績は把握している」と主張する経営者の方と、私はこれまで何人もお会いしてきました。しかし、私の経験では、そのように主張する経営者ほど、経営者の肌感覚と、後から作成された決算書の間に乖離(多くの場合は、経営者の考えている業績よりも悪い方向に)しています。したがって、まず、月次決算で正確な業績を確認することが正確な判断を行うために欠かせないと考えなければならないと思います。

もうひとつ注意しなければならないと私が考えることは、会計データの入力は迅速に行わなければならないということです。これも当たり前のことと思われがちですが、自社商品を顧客に納品しても、その取引が会計ソフトへ入力されるまでに数週間や1か月後になるという会社をしばしば見かけます。会計ソフトに前月の月次決算を出力させれば、すぐに出力できますが、その時点で前月の取引がすべて入力されていなければ、不正確なものしか出力されません。

そして、このことが月次決算を出力しても意味がないと経営者が考え、ますます、月次決算を活用しようとする意欲が下がってしまうという悪循環を招いてしまいます。では、どうすれば、迅速な入力が行われるようになるのかという対策については割愛しますが、まず、経営者が月次決算を活用しようとする意識を高め、そのために、会計ソフトへの入力は遅滞なく行うよう従業員の方へ指示することが欠かせません。

2025/9/29 No.3211