[要旨]
オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、やっかいなお客さんが増えている要因は、情報技術や人工知能の発展により、容易に答えを得ることができるようになったので、考えることをしなくり、考える力が劣化してきたため、すぐに答えが得られないと、イライラしたり爆発したりする、すなわち、人はより便利になると忍耐力が弱くなるからだと考えているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、石川県にある浜田紙業では、安定的な顧客が増えてきたことで、無茶な納期や値引きなどを求めてくる取引先に対して、特別扱いすることをやめたところ、しばらくしてそうした取引先は離れていき、結局のところ売上も利益も伸びていったということについて説明しました。
これに続いて、小阪さんは、顧客の劣化について述べておられます。「ところで、なぜ世の中にやっかいなお客さんやクレーマーが増えているのでしょうか。私はそれを『お客さんの劣化』という言葉でとらえています。『お客さんが劣化している』……というとなんだか失礼な言い方に聞こえるかもしれないのですが、実際、そうとしか言いようのないケースが増ええているのも事実です。これは最近、多くの教育現場から報告されている話です。
ある学校で、担任の先生が生徒に『今週末に読書感想文を提出してくださいと宿題を出しました。すると、親御さんたちから次のような質問が寄せられたそうです。『どんな本を選んだらいいですか?』『感想文は何文字くらいが適切でしょうか?』『書き方がわからないので、見本をもらえますか?』このようなことは読書感想文に限らず、運動会であれば『どんな種類の帽子が適しているか』、『何リットルの水が必要か』といった持ち物に関してや、『準備中に自分の子どもが遊びたがった場合はどうすれば良いのか』などの質間が寄せられるのだといいます。
不安もあるのだと思いますが、私がこのような話を聞いて思うのは『そんなことまで聞かないとわからない人が増えているのか」という驚きです。つまり、明確な答えを、『具体的にこうしてああして』まで教えてくれないと動けない人が増えているということ。それを私は『劣化』という言葉でとらえています。
こうした人が増えている理由の一つは、ITの発達により『すぐに答えがわかる』時代になったことでしょう。人間の脳は使わないと劣化します。カーナビが発達したことで道を覚えなくなるといったことは、まさにその好例です。先日、ある学生から聞いた話が強烈に印象に残っています。交際相手からのLINEに返事する際、どのように返事をしたらいいかをChatGPTに聞いている人が周りにいる、というのです。
確かに、『それらしい』答えを得ることはできるでしょう。しかし、こうしてすぐに答えが得られるようになると、考えることをしなくなる。すると、『考える力』は劣化します。そして、すぐに答えが得られないと、イライラしたり爆発したりする。実は人というのは、より『便利』になると『忍耐力』が弱くなります。やっかいなお客さん、クレーマーの増加の背景にはこのような『お客さんの劣化』があるのではないかと、私は考えています」(258ページ)
上から目線で恐縮ですが、私も、中小企業経営者の方から、事業改善のご相談を受けるとき、「100%間違いのない回答がある」という前提で質問をしてくる方が少なくないと感じています。それは、小阪さんもご指摘しておられるように、情報技術は人工知能によって、すぐに答えが得られる時代になったからではないかと思います。しかし、私は、経営環境は複雑化が増している時代は、そもそも、100%の正解を前もって知ることは不可能です。そして、経営者の役割は、PDCAを実践する中で「正解」を探求することだと思います。
ですから、まず、事業活動は、前もって正解が分かるという前提を持たず、正解を探すことが経営だととらえていただきたいと思っています。また、「正解」があると感じてしまう方が少なくない要因には、書店に並んでいる本などに、ノウハウ本が多いということもあると思います。しかし、そのような、誰でも成功するというノウハウは万人向けのものです。万人向けということは、効果を得ることができるとしても、ライバルとの差をつけることが難しいという面もあります。やはり、大きな成功を得るには、専門書のノウハウを参考にしつつも、自分で探求していくことは欠かせないでしょう。
2025/9/27 No.3209
