鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

やっかいなお客さんから静かに手を引く

[要旨]

ラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、石川県金沢市にある浜田紙業では、安定的な顧客が増えてきたことで、無茶な納期や値引きなどを求めてくる取引先に対して、特別扱いすることをやめたところ、しばらくしてそうした取引先は離れていき、結局のところ売上も利益も伸びていったそうです。すなわち、無茶な納期や割引などを求めてくる「やっかいなお客さん」は、売上や利益に貢献していないので、取引を解消することが望ましいということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、福井県越前市にある宝木石材では、「親切、親身、丁寧」を徹底し、例えば、お墓には決して土足で上がらない、お墓の中にはさらに別の履物で入るということを実践していたところ、同社の仕事を見ていたある寺院の住職が、これからは檀家からお墓のことで相談があったら、同社を紹介すると言われたということについて説明しました。

これに続いて、小阪さんは、やっかいな顧客から手を引くことが望ましいということについて述べておられます。「よく知られている『パレートの法則』では、全体の客数の約2割の優良顧客が、売上の8割を占めるとされています。だからこそ、この2割の優良顧客のために時間やコストを割くベきだということで、私自身、この法則はおおむね正しいと感じています。しかし、うまくいっていない店や企業はまさにその逆で、『やっかいなお客さん』に、時間やコスト、エネルギーの大半を使ってしまっているように思います。

顧客数を増やすことは重要ですが、それと同時にやらなくてはならないことがあります。それは、『やっかいなお客さんとは縁を切り、本当に大事な顧客にこそ力を注ぐ』ということ。そうすることで、一時的に『お客』は減るかもしれないけれど、『顧客』は確実に増えていきます。『縁を切る』と言っても、面と向かって『あなたとは付き合いません』と宣言する必要はありません。『静かに手を引く』だけで十分です。では、『静かに手を引く』には、何をすればいいか。

実際に行っている人たちが言うのは『つながらない』ことです。顧客情報ももらわないし、仕事上もらったとしても、その後何もしない。お礼のメールも二ューズレターも送りません。そうすると『縁が切れる』と、彼らは口を揃えます。これは実際、最も簡単で効果的な『静かに手を引く』方法なのですが、一方では恐ろしい話でもあります。本書で何度もお伝えしている『つながる』ことの重要性が、逆説的によくわかる話です。なにせ彼らはこう言っているのですから。『つながらないお客さんとは、必ず縁が切れる』

(石川県金沢市にある紙製品卸売業の)浜田紙業では、安定的な顧客が増えてきたことで、無茶な納期や値引きなどを求めてくる取引先に対して、特別扱いすることをやめたそうです。すると、しばらくしてそうした取引先は離れていきました。しかし、結局のところ売上も利益も変わらず、むしろ伸びていきました。このことからも、無茶な納期や割引などを求めてくる『やっかいなお客さん』は、売上や利益にあまり貢献していないということがわかります。

ちなみに(小阪さんが主宰する『ワクワク系マーケティング実践会』の)会員企業にはこのように顧客の選別をする企業が多いのですが、彼らがらよく聞く話があります。それは、『やっかいな取引先から手を引いたら、○年後にその取引先が倒産した』というような話です。無茶な要求をしてくる会社にはやはり、どこか問題があったということなのでしょう。

ムリに付き合いを続けると、こちらも巻き込まれる恐れすらあるのです。『民度』と言うと大げさですが、『人としての常識をわきまえていない』ような相手と付き合う必要はありません。『支払いをしてくれない』、『約束を守ってくれない』などはもちろん、客だからといって横柄な態度を取るような人も、顧客扱いしなくていいと、私は考えています」(249ページ)

パレートの法則については、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、その一方で、小阪さんは、「うまくいっていない店や企業は、『やっかいなお客さん』に、時間やコスト、エネルギーの大半を使ってしまっている」とご指摘しておられますし、私もそのような会社は少なくないと感じています。

やっかいなお客さんと取引を続ければ、労力がかるし、業績も下がるのだから、やっかいなお客さんと取引を解消すればよいのに、なぜ、やっかいなお客さんと取引を続ける会社はなくならないのでしょうか?その理由の1つは、これは私の想像ですが、やっかいなお客さんと取引を続ける会社経営者は、実は、心の深いところでは、進んで取引を続けているのではないかと思います。

というのは、優良な顧客との取引を増やすと、従来よりもステップアップした経営を行わなければならなくなるものの、経営者にそれを遂行できる自信がないので、あえてやっかいな顧客への対応を続けることで、「自分は懸命に仕事に取り組んでいる」という言い訳をつくり、新しい取り組みができない理由をつくっているからではないかと思います。これは、ひとことで言うと、現状維持バイアスが働いているということであり、チャレンジング精神が求められている経営者にとって、現状維持バイアスに意思決定を左右されることは避けなければなりません。

2つ目の理由は、やっかいなお客さんが多い会社は、実は、その会社自身も、その会社の仕入先や外注先からみてやっかいなお客さんになっている可能性があります。すなわち、自社がやっかいなお客さんからかけられている負担を、そのまま、仕入先や外注先にまわしているだけなのだと思います。

でも、これも小阪さんがご指摘しておられるように、そのような会社は、早晩、ほころびが出て、事業を続けることができなくなるでしょう。すなわち、「常識をわきまえて取引する」ことは、仕入先や外注先を利するのではなく、自社の事業を安定的に続けるために必要な前提と考えなければならないでしょう。

2025/9/26 No.3208