[要旨]
オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、愛媛県松山市にあるガソリンスタンドのパイオニア石油では、社長が部下に対して、セールスはしなくてよいが、五感で必要だと感じた時は声掛けをしろと伝えていたところ、顧客の自動車のタイヤの異常に気づいた従業員が、タイヤに刺さっていた釘を発見し、顧客に感謝されたことがあったそうです。このような五感を使った声掛けは、「顧客」を増やすために効果が高いということです。
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今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、福島県にある文具店のパピルスでは毎年、「ペンへの名入れキャンペーン」を行ってきましたが、ある年、その受付をネットなどで行うことをやめ、店頭のみにするという、店にとっても顧客にとっても不便な方法にしましたが、店主は、顧客に直接店に来てもらうことでペンそのものへのアドバイスもできるし、名入れの書体も相談できると考えており、それを実践した結果、顧客単価が上昇し、売上が前年の2倍になったということについて説明しました。
これに続いて、小阪さんは、セルフのガソリンスタンドで顧客感動を実現している事例について述べておられます。「『セルフのガソリンスタンドなのに、お客さんから感謝の手紙が続々舞い込む』という極めてユニークな企業があります。愛媛県松山市で数店舗のガソリンスタンドを経営する、パイオニア石油です。
ガソリンスタンドにおいて、ガソリンを販売することで得られる収益はごくわずかです。儲かるのは洗車や点検などのサービスで、だからこそ一部のセルフのガソリンスタンドでは、こうしたサービスのセールスに積極的なところもあります。セルフのガソリンスタンドでも従業員はいますので、声がけなどのセールスを行うのです。
しかし、社長の稲田周一さんは、『お客さんはガソリンスタンドでセールスをされたくない』と考えているため、それをさせません。一方、店員にはこう伝えています。『五感を使って、必要だと思った時には声をかけよう』ある時、ガソリンスタンドに来たお客さんのクルマのタイヤの空気圧がどうもおかしいことにスタッフが気づきました。そこで、スタッフが点検をお勧めしたのですが、最初はお客さんは断ったそうです。
しかし、やはり何か間題があると感じたスタッフは再度声がけをして点検してもらったところ、なんと1本のタイヤに釘が刺さっていて、空気が入り切らない状態になっていたのです。その人はこれから高速道路に乗る予定があったそうで、危ないところでした。数日後、その時のお客さんから、手書きの感謝の手紙が届きました。スタッフへの感謝の言葉とともに、『近くに行った時には必ず寄ります』と書かれていました。まさに『顧客』が誕生した瞬間です。
これはほんの一例で、パイオ二ア石油には他にも、同様の例が多数あります。本来は、『お客さんが来たら必ずお声がけする』、『汚れている車があったら洗車の案内をする』など、スタッフの対応をシステム化・マ二ュアル化したほうが効率的だと考える人がほとんどでしょう。しかし、パイオ二ア石油はあえて『必要だと思った時に声をかければいい』として、スタッフの『五感』に任せた。それが、こうした感動を生み出したのです」(226ページ)
このパイオニア石油の事例は、顧客関係強化のお手本的な事例だと思います。ところが、これを実践することは、難易度が高いことが現実だと思います。その1つ目の要因は、従業員の方の五感を磨くにはやや時間がかかります。また、五感が備わったとしても、お客様に自信を持って提案することができるようになるまでにも一朝一夕には至らないでしょう。
だからといって、私は、従業員の方の五感を磨くことは避けるべきではなく、ライバルとの競争力を高めるために、積極的に取り組むことが大切だと思います。難易度が高い要因の2つ目は、従業員の方が五感を働かせてお客様に提案をして、不幸にも、それが悪い結果になったとき、経営者の方は梯子を外すことなく従業員の方の味方でいてくれると、従業員の方が経営者の方を信用できるようになるかということです。
これは、経営者の方が、「部下の失敗は、必ず自分が引き受ける」と思っていたとしても、従業員の方が、「社長は、もし、自分が失敗しても、必ず助けてくれる人だ」と信じることができるようになるまでには、やはり、時間を要すると思います。これも、経営者の方が、従業員の方の挑戦が失敗しても、失敗を責めず、挑戦したことを評価し続けるということを続けなければ、従業員の方は果敢に挑戦をしないでしょう。
そして、これも前述したように、難しいことではありますが、積極的に実現に向けた取り組みを行うべきだと思います。さらに、これらのような取り組みは、大企業ではなかなか実現できないと思います。従業員数が少ない会社だからこそ、実践できる方法だと思います。したがって、小阪さんの言う「顧客」を増やすためにも、中小企業の経営者の方は、「五感」を活かした顧客づくりに挑んでいっていただきたいと、私は考えています。
2025/9/24 No.3206
