[要旨]
オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、愛知県名古屋市にある健康食品等の通信販売をしているファインエイドでは、受注業務をRPAで80%省力化し、その余力を、顧客あての手紙を書くことで、関係強化を図っているそうです。このように、中小企業では情報化武装をする場合、「顧客づくり」を目的とすることが大切だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、千葉県で玄関マットのレンタルなどを行っているロマン産業では、ある営業マンが解約率が低かったので、社長がその要因を調べたところ、顧客と「おしゃべり」をしていたということがわかり、他の営業マンにもおしゃべりをしてもらえるよう、営業マンを増員し、1人あたりの訪問先数を2割減らしたところ、解約率が1%まで減少し、さらに値上げをしても顧客が減らなかったことから、同社の売上は増加するようになったということについて説明しました。
これに続いて、小阪さんは、中小企業が情報化武装をするときは、大企業と同じ戦略をとるべきではないということについて述べておられます。「こういう話をしていると誤解されがちなのですが、ITやAIを用いた便利な機能は、中小企業でもどんどん使うベきだと考えています。私はいわゆる『DX(デジタルトランスフォーメーション』推進派です。
前述のホンダカーズ仙台北は、ずっと以前から自社開発で優れたシステムを持ち、運用しています。このシステム上で常に顧客を把握し、誰にいつどんなアプローチを行うベきかを割り出し、最適なタイミングで最適なアプローチを行っています。顧客は自動車整備の予約をオンラインで入れることができ、店舗側は何時にくるお客さんがどのような人で、どのような二ーズを持っているかを担当者以外でも把握することができる。そのため、いつでもレベルの高いサービスを提供することができます。これこそがDXの力です。
つまり、便利なツールはどんどん使うベきなのですが、より重要なのは、それを使って何をするか。『それが顧客を増やすことにつながるか』の視点で考えるベきなのです。また、便利なツールを使ってできた『余力』をどう使うか、という視点も重要です。会員の通販会社『ファインエイド』の例です。自社開発の健康食品通販業を営む同社では、お客さんは往々にして深夜にネットで往文をしてくるため、毎日10人ほどの杜員が出社後、受注処理業務にかかり切りになっていました。
そこで一念発起し、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のシステムを導入しました。ちなみにRPAとは、人がパソコン上で行っている受注処理業務などの日常的な作業を、人が実行するのと同じ形で自動化するもの。同社では、それまで10人がかりだった仕事が、2人ですむようになったそうです。では、その浮いた8人をどうしたかというと、顧客に手紙を出すなどの、顧客とのつながりを強化する活動に充てることにしたといいます。
私にはこういうことこそが、『中小企業の勝ち筋』だと思っています。先ほど、『モンスター企業と戰いますか?』という問いかけをしましたが、それは『勝ち目がない』ということを言っているのではなく、自社・自店はどこで価値を生むか、どういう価値で顧客を増やすか、ということを問いかけているのです。そして、それは多くの場合『非効率』がカギとなるのです」(219ページ)
情報化武装はどうして行うのかというと、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、多くの中小企業経営者の方は、情報化武装をすれば競争力が高まると考えているように思います。確かに、情報化武装をすれば競争力が高くなることに間違いはないのですが、それは多くの場合、大企業(モンスター企業)と同じことをしようとするか、または、省力化だけを行うかということに終わってしまいます。
しかし、きちんとした経営戦略を立て、それを実践するために情報化武装をすれば、情報化武装の効果がより大きくなります。それが、ファインエイドのように、受注業務を省力化し、その余力を顧客関係強化にあてるというものです。別の事例を挙げると、埼玉県入間郡三芳町にある産業廃棄物処理会社の石坂産業では、1億円をかけて独自システムを構築し、従業員の情報共有を進めたということが、同社社長の石坂典子さんのご著書、「五感経営-産廃会社の娘、逆転を語る」に書かれています。
「私たちの会社には、社員に情報を提供する仕組みがなかったのであり、これがいちばんの反省すべきポイントだということを理解しました。(中略)そして、2011年、1億円をかけて、新しい情報システムを導入しました。(中略)どうして、そんなにお金がかかったのかといえば、独自のシステムを組んだからです。産廃会社は、大抵、引き受けた産廃の種類や数量などを記録する管理システムを持っています。
なぜなら、法律で義務付けられているからであり、(それに応じて)多くのパッケージソフトが出ています。一方で、中小企業向けの会計ソフトも普及していて、産廃会社は、通常、それらの個別のソフトを組み合わせて使っています。しかし、私は、そういうやり方に物足りなさを感じていました。自社の業務を一気通貫で把握できる、社員にとって使い勝手のいい、自社オリジナルの基幹システムを構築したかったのです。(中略)
廃棄物の受け入れ状況に加えて、会計管理や勤怠管理、トラブルの発生状況まで、会社で起きたことのすべてを把握できるシステムを、自前でつくりました。そこまでやらなくては、未経験の新人の、『分かりません』の連呼を、封じ込めることはできない、そんな思いがありました』(162ページ)
同社では石坂社長が経営改革を進める中で、古参従業員の多くが退社し、若い従業員が仕事を進めていたところ、経験が浅いために、ベテランの従業員と同じレベルの仕事ができなくなっていたそうです。そこで、独自システムで情報を共有することで、若い従業員でもベテラン従業員に近い仕事ができるようになったということです。経営者の方は、若い従業員に、「早く戦力になって欲しい」と望んでいると思いますが、それは、単に、そう願うだけでは、従業員が戦力になるかどうかは、従業員個人の努力に委ねることになってしまいます。
でも、現在は、情報技術が進展してきているわけですから、それを活用すれば、若い従業員を効率的に戦力にすることができます。この件については、文字数の兼ね合いから詳しくは述べませんが、情報化武装は、システムを導入する前に、きちんとした経営戦略を立てなければ、十分な効果を得ることができません。中小企業では、このことを見逃しがちなので、きちんとした手順を追って情報化武装をすることをお薦めします。
2025/9/22 No.3204
