鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客は愛着・信頼・共感を抱いている人

[要旨]

ラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、福井県越前市の石材業の宝木石材では、業界の慣習で顧客リストをつくっていなかったのですが、「顧客を増やす」ことの重要性を認識し、過去に遡って顧客リストを作成したそうです。そして、イベントなどを開いて、自社に共感してくれる人を増やしていった結果、墓石を購入する知人を紹介してもらえるようになり、業績を伸ばしているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、ある商社で医師向けに医療機器販売の営業活動をしている方が、製品に関する資料といっしょに、自分の略歴や家族構成から、趣味や学生時代に何をやっていたかまでを書かいた自己紹介シートを提出しているそうですが、その結果、相手の医師の方が打ち解けて、成約につながるようになったということについて説明しました。

これに続いて、小阪さんは、業界の慣習で顧客リストをつくっていなかった石材店が。顧客リストをつくることで「顧客」を増やすための取り組みを行った事例について述べておられます。「福井県越前市の石材業、宝木石材(中略)が主に扱っているのはいわゆる『墓石』です。そんな会社がおよそ3,000件もの顧客リストを持っているのです。

そもそも、墓石の会社がどのように個人とつながることができたのか。『顧客の数を増やそう』と決めた宝木さんがまず出向いたのは、なんと『墓地』でした。時間があれば墓地に行き、先代が過去に建てたお墓を確認し、その住所や名前の追跡確認をしていったのです。これは大変な作業だったと宝木さんは言います。

では、なぜそんなことをしたのか。それは、代々続いている会社であるにもかかわらず、顧客リストがなかったからです。実はこの業界には顧客リストを作り『つながる』といった慣習はほぼありません。扱っている商品が墓石なだけに、購入者の住所などの情報は入手できるはず。しかし顧客リストを持っていないということは、あえてそれをしていないということですが、なぜなのか。

言うまでもなく、お墓のニーズは一生に一回、さらに、先祖代々の墓があれば、新しいお墓を建てる必要すらありません。一説によると、お墓の購買頻度は数百年に一度とも言います。まさにそれが、墓石業界が顧客リストを作らない理由です。今日買ったお客さんが二度買うことがないからです。しかし現在、宝木石材では、『お墓を建てたいというお客さんを紹介するよ』、『お墓を直したいという人がいるから連れてきたよ』と、次々と顧客がお客さんを紹介してくれています。

そう、『顧客』とは、愛着と信頼、共感を抱いている人。顧客は、たとえその人が再び買うことがないとしても、新しいお客さんを紹介してくれる存在なのです。過去の顧客のリスト作りを終えて今、宝木石材では、さらなる『つながり』を広げ、顧客リストを増やし続けています。『石材店』であることを生かした石挽コーヒーや石窯ビザのイベントを開いたり、お盆など墓参りが増える時期にお寺の要望にお応えしキッチンカーで出向いたり、『墓もうでワークショップ』なるものを開いたり。

中でもユニークなのは、いまや地元では有名になった『合格サイコロ』です。それは、石を加工できる持ち前の技術を活かし、地元の受験生に石でできたサイコロ(『5』と『9』の目しか人っていないサイコロで“合格サイコロ”とされている)を、受験シーズンにプレゼントするというもの。もう長年続いているイベントで、配布初日には宝木石材の前に受験生らの行列ができると言います。

さらに宝木石材のショールームの中には『合格神社』なるものもあり、多くの受験生が拝んでいったり、合格の報告に来たりしています。この活動もまた『つながり』に通じ、『顧客の数』を増やします。また、クリスマスシーズンになると、宝木石材はクリスマスイルミネーションで彩られますが、これも地域の方との『つながり』に通じます。

事実、最近も『いつもクリスマスになると素敵なイルミネーションで楽しませてもらって、いつか何かあったら、おたくにお願いしようと思っていました』という新規のお客さんが来られたそうです。宝木石材では、こういったさまざまな機会を通し、お客さんとの接点を生み、つながり、顧客リストを増やしています。これはまさに、『顧客の数』を増やす取り組みそのものです。だからこそ今、宝木石材では、対応しきれないくらいの注文が、町中から押し寄せてきています」(176ページ)

いわゆる「顧客リスト」は、購入頻度が多い商品を販売する会社にとっては重要なツールですが、小阪さんも述べておられるように、墓石のような購入頻度が少ない商品を販売する会社にとっては重要性が低いか、不要と思われがちです。しかし、競争が激化、または、需要が減少してくると、何らかの対応が必要であり、そのよい事例が宝木石材の事例と言えるでしょう。同様の事例は、ダイハツの販売店でも、カフェプロジェクトとして行われています。

自動車も、何度か買い替えが行われますが、5年~10年の間隔で行われるものであり、また、必ずしも、次回も同じ店で購入してもらえるとは限りません。そこで、ダイハツでは、自社のユーザーが多い女性に気軽に来店してもらえるよう、販売店の中にカフェをつくりました。このような工夫で、(潜在)顧客との接点を増やし、自動車の販売台数の維持・増加を目指しています。

これらの事例から、販売促進活動で留意すべきと私が考えることは、顧客というと商品を購入した人というイメージが強いですが、これからは、小阪さんがご指摘しておられるように、「愛着と信頼、共感を抱いている人」と捉えることが適切ということです。自社に「愛着と信頼、共感を抱いている人」を増やせば、購入見込の知人を紹介してもらったり、次回、自らが商品を購入するときも自社を選んでくれたりする人も増えます。

そして、こういった活動は、ある程度時間をかけなければ増やすことができないので、長期的な活動として実行する必要があることにも注意が必要です。しかし、いったん、自社に共感を抱いてくれた顧客は、その後も長期的な取引を見込むことができるでしょう。

2025/9/20 No.3202